第7話
「うーん……」
運転席の男は、しばらく考える素振りを見せた後、答えた。
「うち、だだっ広いわりに俺しか住んでないんだ。 だから、一晩くらいなら泊めてもいいよ」
「ほんと!」
リザのテンションがあがる。
正直、怪しい気もしたけど、モーテルに泊まるお金はない。
それに、夜中にこの道を歩き続けるくらいなら、サイコキラーの家に泊まった方がマシ…… なわけないか。
とにかく、警戒は必要だ。
この男の名前はサンク。
さっきからリザが、泊めてくれてサンクス、というウザがらみをひたすら続けている。
「あんまウケてないって」
「そういうんじゃないから。 私がやりたいからしてるのよ」
一番手に負えないタイプじゃんか。
で、サンクの家は、びっくりするくらいの豪邸。
何でも、両親が資産家だったらしい。
現在は、2人とも死んでしまって、サンクがこの屋敷を継いだ、とのことだ。
車を泊めて、屋敷の中へと入る。
天井にはシャンデリア。
正面にはでかい階段。
「いかにも、って感じだね」
「ん、何が?」
リザの奴、鈍すぎる。
こういう洋館はよくミステリー小説の舞台になるんだ。
○○館殺人事件、とかそんなタイトルで、一人ずつメンバーが減っていく、アレだ。
「ちょっと食事の支度、してくるよ」
「あっ、僕も手伝います!」
サンクの後に続いて、キッチンに入る。
食事の中に何か混ぜられないか、心配だ。
「手伝うって言っても、レトルトだよ?」
「それなら、お皿を用意します」
僕が勝手に棚を開けると思わず声を上げた。
「な、何コレ」
「はは、僕のコレクション、星の王子様カレー、だよ」
棚にびっしり並んでいるのは、星の王子様カレー、という子供向けの甘口カレー。
しかも、その数がハンパない。
「このカレーが発売されたのが1980年で、ロングセラー商品なんだ。 毎年、味とパッケージが新しくなるから、買いだめしておかないと昔のやつが食べられなくなっちゃうんだよ」
サンクは、その中から2018年度版を2つチョイスして、袋から開けた。
「僕はお湯を沸かすから、sathoの御飯を準備してくれないか」
僕は、棚からsathoの御飯を取り出し、レンジに入れてスイッチを押した。
このsathoの御飯は、ウチでも良くカンナおばさんが買ってくる。
レンジで1分温めるだけで、炊かなくてもごはんが食べられる優れものだ。
(それにしても、やっぱりこの人、少し変わってるかも)
カレーをこんなにコレクションしてる人なんて、あんまりいないだろう。
お湯を沸かし、その中にカレーを入れる。
カレーが温まると、それを取り出し、僕の準備したご飯の上に、かける。
生クリームをスプーンですくってかけると、完成。
「さ、持って行こう」
……ここまでは、特におかしな点はない。
食べても平気なハズだ。
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