第2章 ソフィア・ジョーンズ
第1話 The Hunt.
私はパール・ウォーカー、数ヶ月前までソフィア・バージニアという名前で農場を経営していた。
なぜ、パール・ウォーカーと名乗っているかだって?
……農場主、ソフィア・バージニアはあの日、私たちの知らない世界から来たウィリアムと言う男性と共に農場で死んだ。
今の私はパール・ウォーカーとして賞金稼ぎをしながら生きている。
賞金稼ぎは簡単な仕事だ、保安官から依頼を受け、クズどもに引き金を引く。
ギャングどもを始末し、ボスなどの死体を持ち帰り、保安官の事務所に届ける単純な仕事だ。
死体は金に、金は弾薬と銃と食料に。
食料は私を生かし、弾と銃はまた死体を増やす。
もう既に、6人ほどのギャングのボスを届けた。
殺した数は…もう数えていない。
私はスプリングフィールド・ライフルを構えて、真夜中の沼の中を進んでいた。
ゆっくりと大きな音を立てないように、近くに見えるキャンプへと近づく。
キャンプからは陽気な歌と男たちの笑い声が聞こえた。
たまに女の叫び声も聞こえる。
キャンプに近づくと首元に巻いたマスクを上げ、顔を隠した。
すると、人影が沼の方へ来るのを感じた。
咄嗟に近くの木の陰に隠れた。
陰から覗き込むと、1人の男が女を引っ張りながら沼の方へとやってきた。
沼に入り、少し進むと嫌がる女を放り投げた。
そして、女の顔を数発叩き、髪を掴んで沼に沈めた。
女を罵倒しながら、男は何度も女の顔を叩いて、沼に沈めるのを繰り返した。
私は気づかれないように、ゆっくりと木の陰から男の方へと近づいた。
ライフルを肩にかけ、ナイフを取り出した。
ナイフを構え、後ろから男に近づくと、男の髪を掴み首筋にナイフを当てた。
そして、一気に男の喉を切り開いた。
首から血が吹き出して、女と沼を染めた。
女は口から水を吐きながら、怯えた表情でこちらを見ていた。
男は首を抑えながら、沼に沈んだ。
私は女に近づき、叫ぼうとする女の口元を抑えた。
人差し指を自分の口に当て、静かにするように合図を送った。
「私は敵じゃない。あなたを助けてあげるから静かにしてて。逃がしてあげるから、アイツらの馬の近くで見つからないように隠れていて。」
小声でそう言うと、女はブルブルと震えながら、頷いた。
私はナイフを直し、ライフルを構え直すと、近くのテントの陰に隠れた。
顔を覗かせて辺りを見ると、焚き火の側に5〜6人男がいた。
そして、その中心に少女が2人とその母親らしき女が裸同然の格好で泣きながら少女達を抱きしめている。
ライフルのボルトを引き、男達の1人に照準を当てた。
息を止め、狙いを定めて引き金を引く。
大きな破裂音が響き渡ると、男が倒れた。
続けざまに素早くボルトを引き、慌てふためく男達に発砲を続けた。
ただ、無心で引き金を引いた。
男達は胸に赤いシミを作りながら、倒れていく。
最後の1人が倒れたのを確認すると銃を構えながら、少女達に近づく。
辺りにあるテントを警戒しながら進んだ。
一つのテントで人影が見えた。
どうやら中に男がいるようだ。
拳銃を構えて、テントの外を覗こうとしている。
男の影に銃口を向けて引き金を引く。
中の男は、仰向けに倒れこんだようだ。
私は他に誰も居ないのを確認し、裸同然の3人に近づいた。
少女達は、腕をロープで縛られ、所々アザがあった。
その状況はあの夜を思い出させた。
私はナイフでロープを切るとマスクを外した。
少しでも彼女達を安心させるためだった。
「もう大丈夫。あそこの馬を使って早く逃げて」
私は近くの木につながれた馬達を指差してそう言った。
すると、少女達は私の後ろを指差した。
振り向こうとすると、右頬に衝撃を感じた。
私はその衝撃で膝をつくと、今度は髪を掴まれ、男の方を向かされた。
見ると、男は上半身裸でナイフを持っていた。
咄嗟に私は男の腕を掴んで、手を捻り、ナイフを奪った。
ナイフを振り、自分の髪の毛を切って男の手から離れた。
そのままナイフを男の右腿に刺し、続けざまに左にも刺した。
男は叫び声を上げながら後ろへ後ずさる。
そして、近くに転がった死体から拳銃を取り出そうとした。
私は男の手を踏みつけ、拳銃を取り出して男の眉間に当てた。
「やめてくれ……、俺にも娘が居るんだ……なぁ、分かるだろ…」
「なら、この少女達の家族の気持ちを少しでも考えた事があるか?」
「それは……、すまない……改心するから、金輪際こんなことはしないって約束するから助けてくれ」
男はみっともなく、命乞いを始めた。
私は周辺に人間ではない存在を感じた。
いくつも、森の中に感じた
私は自分の拳銃を直し、近くに転がる拳銃を拾い、弾を1発だけ残して抜いた。
そしてそれを少し離れたところに投げた。
「罪滅ぼしをしたいってのなら、あんたもこれまで攫った女達のように、囲まれる恐怖を味わうことだね。その後助けるかどうかはアイツらに任せるよ」
「ど、どういう事だ」
男の首から金のネックレスを引きちぎり、左太ももに刺さっているナイフを抜いて自分のカバンに直した。
ナイフには蛇の柄が彫っており、持ち手は金で出来ていた。
このナイフとネックレスがこいつを始末した証拠になるからだ。
私は立ち上がり、少女達と女を連れて、近くの馬達に近づいた。
先程助けた女も木陰から出てきた。
その時、緑の森の小人…。
何匹ものゴブリンとすれ違った。
ゴブリンは私たちを見るだけで、そのまま男の方へと歩いて行った。
何匹かは少女達に興味を示していた。
『この娘達に手を出すな。害を与えるつもりはない』
私はゴブリン達にエルフ語で話しかけると、ゴブリン達は頷いた。
私達エルフ族は、自然の中で育ってきた種族だ。
ゴブリン族も同じように、自然の中で育った。
私達エルフ族とゴブリン族は、お互いに干渉せずこれまで生きてきた歴史がある。
それは、人間族が世界を支配した現在でも同じだった。
彼らと私達エルフ族には言葉が通じた。
『アノ、オトコハ、ドウダ?』
一際大きいゴブリンが出てくると、私に話しかけてきた。
『好きにすれば良い。そこに転がってる死体もね』
そう言うと、後ろから殺気を感じた。
振り返ると、40代ほどの小太りの厚化粧の女が、派手な服を着てこちらに拳銃を向けていた。
「このアバズレ!アタシのダーリン達を散々な目に合わせて、あまつさえ商品を連れたまま、生きて帰れると思うんじゃないわよ!!」
女は唾を撒き散らしながらそう言うと、撃鉄を引いた。
女のすぐそばを見ると、数匹のゴブリンが女を木陰から見ていた。
女はどうやらそれに気付いていなかった。
『あの女も好きにして良いわよ』
そう言うと、一斉にゴブリン達は女に飛びかかった。
女は咄嗟に引き金を引くが、弾は空へと消えて行った。
一際大きいゴブリンは歓喜の叫びを上げた。
『イキテイルヤツラヲ、マルヤキニシロ!! ホカハ、シオヅケダ!!』
ゴブリン達は嬉しそうに飛び上がり、ワラワラと生き残った2人の方へと歩み寄っていく。
私は振り返り、少女達を馬に乗せた。
後ろから女の悲鳴と、男の悲鳴が聞こえてくる。
私は少女達を連れて、近くの町への道を走った。
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