第6話 別れ

ソフィア達をそばにあったギャングどもの馬車の荷台に乗せ、上着やそばにあったボロ布を掛けた。

少しでも体温を失わないように。

「じゃあ、戻ろうか…」

俺は馬車の手綱を引き、馬車を走らせた。

保安官達は馬車の後方から護衛をしてくれている。

俺は喋る事もないまま街への道を走った。


しばらく進むと、街と農場の分岐路に着いた。

「あんた達はどうする?街に戻るか?それともこのまま農場へ帰るか?」

保安官は俺の横に馬をつけ、話しかけてきた。

「彼女達を半裸のまま街に行くのは気が引ける。このまま農場へ戻ることにするよ。あんた達は街に戻ってくれ、仕事があるだろ?」

「そうか、じゃあ気を付けてな。ソフィア、このタフガイなら道中は安全だ。どんな生き方をしたのか分からないが、銃の腕は確かだったからな……なぁ、あんた。街が危機に襲われたら今度はあんたが手を貸してくれ」

「あぁ、恩があるしな。それじゃあな、トム、ジェイコブ。……ルーカス!!こっちだ!」

ルーカスを呼ぶと、嬉しそうに鳴いて馬車の横につき、速度を合わせた。

保安官達は軽く会釈をすると、街へと戻っていった。




俺達は、農場への道を進んでいった。

辺りはすでに暗くなっていた。

農場がある程度近くなると、農場から煙が上がっているのが見えた。

「おい、一体なんだ…」

「まさか……。急いで!ウィリアム!」

俺は馬達を急かせる

農場が見えると、農場は火に包まれていた。

「うそ…そんな事…」

ソフィアは項垂れ、絶望した顔をしていた。

農場を見渡すと、何人もの男達がランタンを投げて火を放っていた。

少し離れた農場の入り口に複数人の影があった。



俺は、その中心に居る奴に見覚えがあった。

2年前、俺がこの世界に来た時に出会った人物だ。

少女を殺し、俺を撃ったあの男。

忘れる訳がなかった。

後ろを見ると、ソフィアは荷台から上半身を乗り出し、顔は青ざめていた。

いや、ソフィアだけじゃなかった。エマもシャーリーも青い顔をしていた。

「ソフィア、どうした。そんなに青ざめて」

「あいつは…私の父さんを殺し、母さんを奴隷のように扱って殺した張本人…」

すると、シャーリーとエマも荷台に乗り出した

「悪い事は言わないから、街に戻りましょう…」

シャーリーはそう言った。


すると、俺達に気付いたのか 20人ほどの男達がこちらに歩いてきた。

「隠れろ!早く!」

ソフィア達を荷台に戻し、隠れるようにいった。

「御機嫌よう、ソフィア嬢。そんな荷台に隠れてないで、顔を見せてくれ」

口ヒゲの男は俺の事はまったく眼中にないように、ソフィアに話しかける。

「あんたの親父さんの借りは未だに全額返して貰ってなくてね。娘のあんたに払って貰おうと思って来たんだよ。ソフィア・バージニア」

すると、ソフィアは立ち上がった。

「何が借りよ!!あんた達が勝手にここの土地の所有権を我が物顔で語って、エルフの土地は自分のものだとか訳の分からない事言って父さん達にお金をせびったんじゃない!!それで払えなかったからって、父さんを殺して母さんを1年間も酷使して殺したくせに!!!」

「人聞きの悪い事を言うなよ、ソフィア嬢。あんたの母さんは運が悪かっただけだ。俺達は殺すつもりは無かったんだよ。ただ、俺たちの扱いが体に合わなかっただけだ。…そこで、あんたの母さんの代わりを、ソフィア嬢。あんたにして貰おうと思ってね」

俺は、荷台に体を傾け、見えないように荷台に手を伸ばした。

「拳銃を一つ貸してくれ…撃鉄を引いてな…」

「わかった…でもあんた一体何を…」

エマはそう言うと自分の拳銃を俺に渡した。

俺は身体の後ろに銃を隠し、右手を自分の拳銃近くに置いた。

「ソフィア嬢。そうだな…あんたにはこれから10年間、俺たちのギャング達と共に行動する情婦として来てもらう。なあに、10年も経てば自由の身だ」

「このクズ野郎……!!! あんたの言う事なんて聞けないわよ!!!私の大切な農場まで燃やすなんて!」

「やれやれ、穏便に済ましたいところだったが。おい、連れて来い。後ろの女2人もな、男は殺せ」

口ヒゲの男がそう言うと、3人の男達が俺たちの方へと歩いて向かってきた。


俺は振り向き、エマ達の方を向いた。

「エマ、シャーリー。ソフィアの事を頼む。全力でここから離れろ。遠くの街で取り敢えず暮らすんだ、いいな?」

「あ、ああ。ウィル」

俺はソフィアの手を握った。

「ソフィア。やっと借りが返せそうだ。君に救ってもらった命だ、君の為に使う事が出来て良かった……幸せにな、ソフィア」

「何をする気なの…?やめて、ウィリアム!」


俺は馬車から飛び降り、馬車の前に立った。

こちらに歩み寄る3人の男達はガンベルトに手を伸ばし、5mほどの位置まで近づいた。


俺は黙ったまま、腰のガンベルトに右手を伸ばした。

「なんだお前。ガンマンのつもりか?聞いてるぜ、ただの農夫だってな」

1人の男がそう言うと、つられるように他の男たちも笑った。

「試してみるか?今日の朝、街の近くの教会にたむろっているクズどもを一掃してやったよ。お前たちの仲間じゃないのか?」

「てめえ…まさかエドアルドを」

「あぁ、確かそんな名前だったな。もう既に死んでるだろうよ、俺が墓場に生き埋めにしてやったからな」


男たちは拳銃に手を伸ばそうとした。

俺は即座に右の拳銃を抜き、後ろに回した手を前に出した。

そして、トリガーを引いた。

二丁の拳銃はほぼ同時に火を放ち、男達の身体を貫通する。

右の拳銃の撃鉄を引き、残ったもう1人の頭に照準を合わせた。


乾いた音が聞こえると、男の脳髄が空を舞っていた。

俺はすぐに馬の尻を叩き、馬車を走らせた

「行け!振り返るな!!そのまま走り続けろ!」

ソフィアが荷台からこちらを見ていた。

俺は笑みを浮かべ、手を振った。



「さて…と」

俺は口ヒゲの男を睨んだ。

そして、近くにある遮蔽物を探した。

(あった、すぐそばに大きな岩が)

少し離れた位置にいる男は銃を抜かず、こちらを見ている。

他の男達は、俺に銃を向けていた。

「あんた、何処かで見た顔だな……。そうだ、2年前のやつか。生きていたんだな」

「………」

「あんたは腕が立つようだ。……どうだ?俺たちの仲間になるってのは、あのエルフが欲しいなら、あんたにくれてやる。捕まえるのを手伝ってくれたら喜んで仲間に入れるぞ」

「ちなみに聞いておくが、他の2人はどうするつもりだ?」

「エルフの代わりに俺たちの情婦となってもらう。奴隷として売るつもりだったが。あんたにも使わせてやっても良い…どうだ?悪くない取引だろ?」




俺は撃鉄を引いた。

ガンベルトから拳銃を素早く取り出し、腰の位置に拳銃を構えたまま、トリガーを引いた。

拳銃から火が出るたび、敵は死んでいく。

敵も、こちらに対して撃ちだした。

俺は岩に飛び込み、背中に背負ったウィンチェスターライフルを構えた。

照準をクソ野郎どもに当て、トリガーを引く。


ライフルから飛び出た弾丸は敵の胴体を貫く。

時折、地面に逸れるときもあったがほぼ命中していた。

俺は岩陰から叫ぶ。

「どうだ!クソ野郎ども!大分数が減ってきているぞ!!俺1人殺せないのか!?」

すると、数人が木の陰から飛び出し、俺のところに走ってきた。

弾をある程度装填し終えると、出てきた奴らを次々と葬った。

しかし、最後の1人を倒そうとしたときに弾が切れた。


敵はすぐそばまで近づいていた。

近くにあった大きめの石を投げて、敵に一気に近づいた。

そして胸ぐらを掴み、背負い投げを決めた。

腰につけたナイフを取り出し、そいつの首に突き立てた。

深々とナイフは首に刺さる。そして、一気に抜くと血が吹き出た。


その瞬間、左の脇腹に激痛が走った。

岩陰に隠れ、自分の脇腹を見る。

シャツは血に染まり、ゆっくりと範囲を広めていた。

「クソッ… 撃たれたか」

幸い弾は貫通し、かなり脇腹の外側を撃たれただけの様だった。

左脇腹を抑えて岩に座り込む。


岩から覗き込むと、残り5〜6人だった。

敵は警戒して、中々顔を出そうとしない。

(このまま飛び出してあいつらを殺るか?それとも出て来るまで待つか…)

「おい!!多対一で怖気付いてるんじゃない!とっとと勝負かけてこい!それともネズミのように隠れるのが得意なのか!?」

しかし、敵は反応せず隠れたままだった。

「やっぱ出てこないよな……。一か八か、掛けるか」

ライフルを置き、エマの拳銃をホルスターに直し、右手にも拳銃を握りしめた。

俺はゆっくりと岩から立ち上がり、敵の方へと向かった。


敵が俺を撃とうと木の影から顔を出したところを狙い、拳銃を撃った。

敵の弾は俺に当たらずら地面をえぐるだけだった。

こちらの弾も2発に一回当たる程度だった。

拳銃のシリンダー分を撃ちつくす時には、すでに3人殺していた。

持っていた拳銃を地面に放り投げ、ホルスターの拳銃を取り出した。

そして、敵が隠れているところに近づくと、敵が顔を出した。

咄嗟に構えて撃つ。

しかし、1発目は当たらず木を抉っただけだった。

撃鉄を素早く引き、敵の右胸あたりを狙った。

俺がトリガーを引くと同時に体に衝撃が走った。

俺の拳銃から飛び出た弾丸は敵の胸を貫き、絶命させた。

しかし、自分の体を見ると脇腹の他に腹部のど真ん中から血が滲んでいた。


全身の力が抜けていくが、俺は耐えて最後の口ヒゲの野郎へと近づいた。

そいつが顔を出した瞬間、撃った。

弾はそいつの右肩に当たり、拳銃を落とした。

しかし、そいつも二丁拳銃を持っており、左の拳銃をこちらに向けた。

撃鉄を引くが、間に合わなかった。

敵の拳銃が撃鉄を引くより先に火を吹いた。


弾は俺の胸を貫いた。

体に力を込めるが、叶わず後ろに倒れた。


もう既に立ち上がる力も無く、口からはヒューヒューとしか音が出せなかった。

一言喋ろうとするが、口からは血が出るだけだった。

(もう…だめか…)

最後に食らった2発は致命傷だったらしい。

俺は自分の死期を悟る、なぜか恐怖は無かった。

だんだんと霞む視界の中、口ヒゲは俺に近づいてきた。

そして、しゃがみこみ俺の顔を掴む。

顔を掴んだまま、俺の耳元に顔を近づけた。

「お前のようなクズは何も物事を終られず中途半端なままなんだよ。あの女達は必ず見つけて、俺が直々に可愛がってやる。死ぬまで苦しませ続けて最期にゴミのように殺す。いや、サイコな奴に可愛がらせてやるのもいいな、お前の事など思い出させる暇なんて無いだろうよ。そこらに転がる鹿の死体より無価値なクズの事なんてな」


俺は最期の抵抗とばかりにそいつの顔に唾を吐きかけた。

そいつは顔を背けると、俺の腰に手を回し、ナイフを取り出した。

俺の体をナイフの先でなぞり、胸に突き立てる。

そいつはゆっくりとナイフを俺の胸に沈めていった。

口からはただ、血が次々と出てきた。

もう、息も出来ず咳き込むように血を吐いた。


俺はただ上を向いて口から血を流すだけしか出来なかった。

口ヒゲの男は俺を見下したまま、立ち上がり、去って行こうとした。

無意識のまま、ゆっくりと撃鉄を引き、音のする方向へと向けた。



トリガーを引くと倒れた音がした。

俺の最期の力はこれで使い果たした

痛みは消えている。

目は既に機能せず、何も見えなかった。

だが、満足感だけを感じていた。



真っ暗な視界の中で、最期に1人の顔を思い浮かべた。

(…ソ…フィア……)



















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