第3話 2年後

ソフィアの家で世話になってから、かれこれ2年が過ぎた。

力仕事でかなり筋力もつき、顔には無精髭が生え揃っていた。


俺はあの日から毎朝、銃の早抜きの練習を続けていた。

週に4回ほど、実弾を使って射撃の練習もした。

勿論自分を守る為だ。


俺はウェンチェスターライフルを構え、50mほど離れた所に置いた金属のバケツを狙う。

目を細め、照準を合わせる。

そして、引き金を引くと肩と腕に小さな衝撃が走る。

そして、カンっと金属が弾ける音がした。

そのまま、レバーを下ろして次弾を装填する。

引き金を引くと、また金属の弾ける音が聞こえた。


ライフルの中にある弾が尽きるまで撃ち続け、ライフルのスリンガーを背中に肩に回した。

拳銃を取り出しながら撃鉄を引き、20mほど離れた木を撃つ。

木から粉が吹いた。その木にはいくつも俺が開けた穴が空いている。


もう一度、ガンベルトに拳銃を差し、取り出して腰の位置で構えた。

そして、そのまま引き金を引いたまま、撃鉄を左手で連続で引く。

拳銃から連続で5発弾が出た。

木には三発当たった。


撃鉄を半分まで起こして、横のカバーをずらして、薬莢を取り出す。


すると後ろから、土を踏みしめる音が聞こえた。

「今日もやってるね、ウィル」

「やあ、ソフィア。おはよう」

拳銃をガンベルトに差して、彼女を見る。


彼女はこの2年間でかなり髪の毛が伸びた。

明るい赤色の髪は、サラサラと彼女の腰あたりまで伸びている。

頭には白いテンガロンハットをいつも被っている。

「朝ごはんもう出来てるよ、食べて今日も仕事始めましょ」

「あぁ、すまない。手伝えばよかったな」

俺はライフルと拳銃を油を染み込ませた布で拭きながら、そう言った。

彼女は家屋の表側に戻ろうと、歩き出す。

「いいのよ、あなたには助けになってもらってるし」

彼女は振り向きながらそう笑った。


銃を拭き上げ、炊事場に行く。

そして、いつも通りの食器を出して、テーブルに並べる。


俺たちは食事を済ませ、食器を片付ける。

するとソフィアがコーヒーを飲みながらテーブルに座り、手帳を見ている。

「そろそろ町に行く時期か?」

「ええ、そうね。今回は豊作だったから、結構いい値段になりそう」


ソフィアは数ヶ月に何度か作物や、家畜を街に届けに行っている。

その時、いつも知り合いの護衛を雇って町へ向かっていた。

俺は、町に出るのはあまり乗り気じゃなかったので、行ったことはなかった。面倒に巻き込まれても困るからだ。


俺もコーヒーを飲みながら、今日の作業を考えていた。

するとソフィアがこちらをじっと見つめている事に気づいた。

「どうした?」

「いえ… あなたも町に行く気はない?」

「行ってもいいが、この世界にはある程度慣れたとはいえ、町に出て色々聞かれても困るぞ、異世界から来た〜なんて、イかれてると思われるだけだ。さらに人が遠のくぞ」

「でと、あなたにもそろそろ町の事を知ってて欲しいのよ、後は…そうね。最近町に出るとしつこく絡んでくる奴らが居るのよ」

「君にか?それは… デートのお誘いとかか?」

「ふっ… いえ、町の娼館のお誘いよ。農場をしてるって言ってもしつこいのよ、噂によると、そいつらギャング団だって言う話も聞くから、下手を打てないし」

「なるほどな、君はいつも女性の護衛しか頼まないからな、男っ気が無いのをいいことにしつこいんだろう。よし、分かった。俺もついて行くさ、そろそろ町にも顔を出してみたいと思ってたところだしな」

すると、彼女は子供の様な笑顔で嬉しそうにしている。

「よかったぁぁぁ… あなたに着いてきて貰えるとあいつらも諦めるかもしれないわ」

「じゃあ、護衛はどうするんだ?いつもの彼女達を頼むのか?」

「ええ、一応ね」

「そうか、なら準備しよう。 俺が馬車には荷物を乗せておくから君も準備しててくれ」


俺は飲み終えたカップを置き、外へ出る。

外に出ると、太陽が農場を照らしている。

降り注ぐ日光は、地面を暖め、周りの気温を上げる。

今日も暑くなりそうだと考えながら袖をまくった。

ガンベルトに手をかけながら、馬小屋に行き、馬二頭を馬車につなぐ。

馬車に乗り、馬を操作しながら柵の周りを走り、家の前に着ける。


あらかじめ纏めていた作物や、肉などを入れた箱を持ち上げ、馬車の荷台に積んでいく。


すると、農場の入り口に女性が二人近づいてきた。

その二人は馬に跨り、家の前に近づいてきた。

「久しぶりだね、ウィル」

「お久しぶりです、元気でしたか?」

その二人は荷台に荷物を積んでいる俺に話しかけた。

荷物を積むのを止めて、彼女たちに顔を向ける。

「あぁ、久し振りだな。エマ、シャーリー」

エマは金色のボブカットの女だ。背が俺と同じくらいでかなり背が高い。男勝りな性格をしており、喧嘩っ早いと聞いた。

シャーリーは茶色のおさげの髪型をしている。背は普通くらいだ。彼女は落ち着いた性格をしている。

二人ともソフィアがいつも雇う護衛だ。

ソフィアとは小さい頃から知り合いらしく、姉妹のような関係らしい


すると家からソフィアが出てきた

「エマ、シャーリー!久し振り!」

ソフィアは嬉しそうにパタパタと二人の元へ小走りで近づいた。


エマとシャーリーは馬から降り、ソフィアとハグをした。

俺はその光景を横目に見ながら、荷積みを続けた。


エマはソフィアの頭を撫でながら、話を続ける。

「今回も町で良いのかい?」

「ええ、でも今日はウィルも一緒に行くことになってるから」

シャーリーとエマは俺の方をちらと見る。

そして、シャーリーも口を開いた。

「そうなの?そういえばウィリアムさんって、もうあなたの家に来て2年ほど経ったのかしら?」

「そういえば、もうそれくらい経ったのかもね」

すると、エマは悪戯な笑みを浮かべて、ソフィアに話しかける

「もうそろそろ、二人の仲も発展したりとかしたのかな?」

ソフィアは顔を赤くしながら、慌てるように首を振る。

「そ、そんな関係じゃ無いよ!」


所謂女子トークというのは俺の世界もこの世界も変わらないんだな、そう思った。

彼女達の話にあまり耳を傾けてないようにして、荷積みを進めた。

荷積みを終えた俺は一度家に入り、武器を保管いる部屋に入り、ライフルを取り出す。

そして近くにある、弾薬箱もいくつか持ち、エントランスに吊るしてある小さいバッグに入れた。


そのバッグを肩にかけ、ガンベルトに差した拳銃を取り出し、弾を込めた。

そして、撃鉄を少しだけ浮かせ、暴発しにくいようにしてガンベルトに戻した。

すると、ちょうどソフィアが家に入ってきた。


ソフィアはエントランスにずっと置いてある、茶色のテンガロンハットを取ると、俺の頭に被せた。

「この帽子は?」

ソフィアに尋ねると少し、恥ずかしそうに顔を伏せながら話し出す。

「私の父の帽子なの、ずっと使わないっていうのもアレだから、あなたが使って」

「いいのか?君の父の形見みたいなものじゃないか」

「形見ならまだまだあるし、あなたにとても似合ってるわ」

そう言うとソフィアは俺の帽子を深く押し込んだ。

俺はこの2年間でかなり彼女に信頼されるようになったようだ。

帽子を被りなおし、外へ出る。

エマとシャーリーは俺の頭を見ると、ニヤニヤと笑い始めた。

そして、エマは俺に近づくと、膝で突いてきた。

「あんた、ソフィアに気に入られてるね。あの子の父親の帽子をもらうなんて」

「そうだな、いつも迷惑をかけているからな。なにかお返しでもしないといけないんだが、いつも貰ってばかりだ」

「にしても、あんたが来てから彼女は明るくなったよ、両親が死んでからはずっと暗かったからね」

「そうなのか?まぁ、最初は面倒を起こす前に出て行けって言われたからな」

2年前のことを思い出すと、懐かしさで頬が緩む。

今の俺があるのも彼女のおかげだ。

「はやくあんた達がくっついてくれるとあたしたちも安心出来るんだよ」

「俺が異世界から来たのは説明しただろ?第一、俺と彼女は6歳離れているんだ。そもそも俺みたいな奴より、もっと相応しい相手が見つかるさ。彼女は良い子だからな」

「異世界からねぇ、まあ。あんたもソフィアも同じ事言うから信じているけど。もしも、見つかったらあんたはどうするんだい?」

「その時は… そうだな。君達みたいに護衛の仕事を始めようかな、色んな所を旅しながら」

「勿体ないな〜、あんた達はお似合いだと思うけどね」

エマはそう言うと、ひらひらと手を振りながら自分の馬を馬小屋の中に入れに行った。


すると、ソフィアが家から出てきた。

「じゃあ、そろそろ行きましょうか。ウィル、あなたが運転してくれる?」

「喜んで」

俺は馬車に乗り、手綱を握る。

ソフィアが横に乗り、後ろの荷台の空きスペースに馬小屋から戻ってきたエマとシャーリーが座った。

彼女達はライフルを片手に座っている。

俺はライフルに弾を込め、座席の下に置いた。

「よし、出発するぞ」

そう言い、手綱を振る。

馬の背中を叩くと、馬車は進み出した。




ソフィアの道案内で馬車を操縦していると、シャーリーが話しかけてきた。

「そういえば、ウィルさんの世界では歌とか無かったんですか? 私、歌が大好きだから何か教えて欲しいんです」

「そうだな、ウィル!なんか歌ってくれよ!」

エマは俺の背中を軽く叩いた。

横のソフィアを見るも、彼女も乗り気のようだった。

「歌ねぇ… そういえば映画で見たあの曲があるな」

俺は前に見たカウボーイ映画の歌を思い出した。

渋いカウボーイが小屋で寝そべりながら、歌っていた記憶がある。

俺は咳払いをして、歌い出した。


『太陽は西へ沈んでいく。

牛は流れのほとりに

つぐみは巣にこもり

それが、歌うカウボーイの為の時間さ。

渓谷を紫の光が照らす。

俺はそこに行きたいんだ

3人の仲間と共に

ライフルと、愛馬。そして俺自身。


ソンブレロを脱いで

枝にかけたら

恋人の元へと帰ろう

ライフルと、愛馬。そして俺


夜鷹は柳の下で

甘いメロディーを歌う

アマリロに向かうんだ

ライフルと愛馬と俺で』


そこまで口ずさむとエマがハーモニカを歌に合わせて吹き出した。

そして、シェリーとソフィアも俺の歌に合わせて口ずさむ。


『牛はもういない、ロープもいらない

はぐれた牛も見当たりはしない。

彼女は待っている

ライフルと愛馬と俺を

ライフルと愛馬と俺を』


「ヒュー!ウィリアム!なかなか良い歌じゃんか!」

「ええ、私たちの世界にぴったりですね…」

エマとシャーリーは笑顔でそう言う。

ソフィアも同じ表情をしていた。

「ねえ、ウィル。他にも教えて!」

ソフィアはそう強請る。

「あぁ、いいよ。帰りにでも歌おうか」


しばらく進んでいると、道に男二人組が出てきた。

エマとシャーリーはその男達を見ると、顔つきが変わった。

「ソフィア、ウィル。気をつけな、如何にもって感じだよ」

たしかに二人とも小汚い格好をしていて、ニヤついた笑みを浮かべている。

俺は馬車をゆっくりと止め、拳銃に手を伸ばす。

すると、男達は徒歩で近付いてきた。

「ご機嫌よう、旦那。奥さんと買い物かい?」

一人の男が馬車の右に回りながら、そう言った。

「どうも、ミスター。まあそんな所だ。すまないが急いでるんだ、馬車から離れてくれないか?」

「お、後ろにも女連れてるんだな。あんたも好きモノだね。3人の女を引き連れて」

男はそう言いながら、荷台にあるリンゴを一つ取り、齧った。

もう一人の男も左に回り、ソフィアの横に立ち、ジロジロとソフィアを見ている。

「おい、この女耳長だぜ!」

左の男がそう言うと、右の男は拳銃を抜いて、俺に向けた。


2年前のことがフラッシュバックしたが、なぜか俺は冷静だった。

俺は目を細めて、右手に集中する

「あんた、馬車から降りな。女どもと荷物は俺らが貰うからよ」

左の男はガンベルトに手を回してニヤニヤとしている。

「おい、この女達は売り払う前に少し楽しませてもらおうや」

拳銃を向けている男が、ソフィアに銃口を向けようとした瞬間、俺は撃鉄を引きながら、拳銃を抜き、男に向けて引き金を引いた。

男は慌てて俺に向けたが、すでに俺は引き金を引いていた。

発砲音が響き、拳銃を向けていた男は後ろに倒れた。

すると、後ろから発砲音が聞こえた。

左を見ると、男は頭から血を流しながら前向きに倒れ込もうとしていた。

後ろを見ると、エマとシャーリーが拳銃を構えていた。

二人の銃からは煙が上がっており、発砲したのは彼女達だと分かる。


俺は初めて人を撃った。

しかし、不思議と何も感じなかった。

俺は冷静なまま、拳銃をガンベルトに直し、ライフルを持ちながら馬車を降りた。

俺が撃った男は、うつ伏せになり、匍匐のような形で逃げようとしていた。

俺はライフル構えたまま、男に近づいた。

そして、男の横腹を蹴り仰向けにさせた。

「お、お前!俺たちがギャングの一員だと知ってやってんのか!」

男は唾を撒き散らしながら、喚いた。

俺は無言で、そいつの眉間に照準を合わせ、レバーを引いた。

そして、引き金を引く。

男の眉間に穴が空き、後頭部から脳みそが飛び散った。


俺は馬車へ戻り、ソフィアの無事を確かめた。

「ソフィア、大丈夫か?」

「ありがとう、ウィル。助かったわ」

そして、エマ達にも目を配る


エマは荷台に座り直し、ため息をついた。

「全く、こんなクズ共がここら辺にいるってことは、どこかのギャング達が近くに来たのかもな」

エマはシャーリーにそう言うと、シャーリーは頷いた。


「そうか、気をつけないとな。ソフィア、町に着いたら俺から離れるなよ。エマ達も気をつけろ、揉め事はしたくないからな」

「お?あんた、あたしの心配してくれるのか?こりゃ惚れちまうね」

エマはそう言うとケラケラ笑った。

「お前は喧嘩っ早いって聞いたからな、俺とソフィアを巻き込むなよ?」


俺はそう言いながら手綱を握り、馬車を走らせた。












































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