10日目

じゃんけんロボがちっとも僕を離してくれない。


木陰から踊り出して「じゃーんけーん!」って道行く旅の人とか旅のパンダとか旅のカバとか、とにかく誰彼かまわず勝負を挑むこのロボット。こんなの造ったの誰だよ。テクノロジーの無駄使いだ。


じゃんけんロボはサングラスで視線を隠してはいるものの、あきらかに僕の右手のひじの辺りをエックス線なんかで透視してる気配。僕の指が動くゼロ・コンマ・秒の単位で僕が出すじゃんけん手を100パーセント正確に予測するシステムな予感。


そして最初から何回やっても「あいこ」なんだ。

「あいこっしょ」「あいこっしょ」「あいこっしょ!」って延々とやられてごらんなさい。いくら僕が初対面の人には礼儀正しく接するべきと日ごろから考えていたとしてもですよ、限度というものがある。

「こら!いい加減にしろ。勝てる勝負には勝て!根性!」


僕はロボを叱り付けながらじゃんけんを続けるのだ。こういうコミュニケーションもある。寂しがりのじゃんけんロボが勝ち負けを捨て「あいこ」を続けるということを考えついたのはどんな夜のことでしたか。その夜はきっと月も黄色くよそよそしかったに違いないね。


手も疲れてグーを200連発していたあたりで妙案がひらめいた。だってね。もうすぐ太陽も壊れるし、だいたいもうほとんど一日中じゃんけんやってる。お腹も空く。

僕は次の「あいこっしょ」で指をキツネの形にした。コン。


「これはね。グーとパーとチョキのすべての利点を兼ね備えた難攻不落の禁じ手であって、ルールブックには書いてないかもしれないけどとにかく強いって言うか。まあ反則で僕の負けってんならそれでもいいけどね。」って言おうかなあって思ってたらじゃんけんロボも当たり前みたいにキツネだった。


「あいこっしょ!」「あいこっしょ!」「あいこっしょ!」

そこからはもう「おまえ一本」とか「暴れヒトデ」とか「長寿と繁栄」とかオリジナル技を次々に繰り出した。ロボは寸分たがわず同じ形で勝負を「あいこ」に持ち込んだ。すごいよ。ロボ。


太陽がまた壊れる。

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