7日目

昨日の門番と、それから門がきれいさっぱりなくなっていた。それからやっぱり毛玉もいなくなっていた。でも太陽は今日も元気に空を昇っている。毎日毎日ご苦労さまだ。


僕は途方に暮れた。太陽は昇り、熱気が草原をざわめかす。立ち上がれ雑草たち。地面は乾いた。門は消え、門番も消えて毛玉もどこかに行ってしまった。僕は座り込んだまま石を拾ったりそれを投げたり。そうして思いついて僕は地面に質問を書いた。とがった石を握って砂埃をあげながら地面に質問を書いた。「?」マークで締めくくってさあ答えを聞かせてくれ。聞かせてもらえるものなら聞かせてもらおうじゃないか。


僕は立ち上がって答えがあらわれるのを待った。そうするとしばらくして一匹のトカゲが草むらから走り出てきた。
いかにも哲学者のような顔。口をしっかりと真一文字に閉じて、冷たそうな薄い体をぺたぺたと左右に振る。僕は彼の動きを見下ろした。

砂色のトカゲは広げた指をせわしなく動かしてつるつると曲線を描いた。「ろ」かな?いまの動きは。そうしてちょうど「ろ」の曲線の最後あたりでピョンと跳ねた。次の文字ってことかな。


トカゲは次の文字を待っている僕を知ってか知らずか、指をにぎにぎして張り切って準備体操をしているような様子。そしてまたちょこちょこと曲線を描いて忙しく手足を動かす。さっきと似たような曲線だ。似たようなというか同じコースで走っている。「ろ」か。


踊りトカゲは一文字「ろ」を書くたびにいろんなポーズでダンスを決めてみせた。もしかしたらこっちのダンスの方に意味があったのかもしれない。7個ほど「ろ」を書いて脇をわきわきさせて気のせいかもしれないけど僕の方をチラリチラリと見ながらトカゲは草むらに走り去っていった。

たぶんいまのはただのトカゲだ。トカゲのダンスだ。答えなんかではない。気のせいだ。


僕は平原を見渡して門番が言ったことを考えようとした。


僕の書いた質問は、古代の遺跡に残された歴史の記録みたいに見えた。目の端をなにかがかすめる。目を移すとさっきとはまた違うけどまたトカゲが出てきていた。もうこいつは明らかに僕の目を意識している。立ち止まって脇を「わき、わき。」ってやってる。ダンス自慢のトカゲだ。もういいよ。


そうしてなにげなく空を見上げてびっくりした。薄い青色の空に黒のマジックで書いたみたいにくっきりと「Yes」ってゴシック体で書いてあった。答えはずっとそこに書いてあったんだ。

空の「Yes」は僕がしっかりと見たということを確認してパラリと空からはがれた。それはたなびきながら雲の流れる方向へ、風に乗って飛んでいった。光沢のある文字は太陽をうけて光っていた。


僕は口を開いて「は」と言った。それから僕の視線が戻ってくるのを待っていたダンストカゲが猛然と地面に「ろ」を書きだしたのを見て笑った。もういいって。すごいから。わかった。すごい。


彼は黒くてまるい宝石みたいな目で、僕を見上げた。そして大きな口をパクリとひらいて「は」と声を出した。

僕は山に向かう。

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