4日目

ごわごわっていう感触のなにかが僕のほっぺたを押して、「む」と目を覚ますとでっかいクマみたいな生き物が僕のそばに座っていた。

「やあ」とその生き物が言った。

「やあ」と僕がいった。それが毛玉との出会い。


僕が目を覚ましたばかりでぼんやりしていると、その、しばらく後で僕が「毛玉」って名前をつけるんだけど、そのクマみたいなのが背中あたりから魔法瓶を取り出して僕にコーヒーを入れてくれた。

なにがなんだかわからないけどとりあえずせっかくなのでコーヒーをいただくことにした。「すごく甘いけどおいしい。」と僕が言った。「ふーん」とそのクマみたいなのが言った。


「それでさ。名前は僕が付けていいの?」と僕が言うと、いかにも変なことを言った人を見るみたいな感じで見られて、毛むくじゃらで実際は見えないけど眉間のあたりにシワを寄せてるみたいな雰囲気だったからもう面倒くさくなって「じゃあ、毛玉ね。毛がいっぱい生えてるから。」と名前を毛玉に決定してあげた。


そっぽを向いたまま「ふーん」と毛玉は言ったけど、とりあえずそれで納得したみたいだった。じゃあ良かった良かったってことでまたふたりで座り込んでコーヒーを飲んだ。


「毛玉ってさ。魔法瓶どこにしまってんの?」僕が毛玉の魔法瓶のコップで甘い毛玉コーヒーをすすりながら言って「背中に決まってんじゃん。」って毛玉が言った。魔法瓶の収納場所は背中に決まってる。


そうして日が暮れてまたガチャン!て音がしてもうあんまり太陽の在庫については考えないことにした。そんなに毎日毎日太陽の在庫の心配ばかりもしてられない。


夜は毛玉のお腹の上で寝ることにした。もくもくしてて暖かくて柔らかい。

「すごいね。毛玉のおなかは。すげえ寝心地が良いよ。」と僕が言うと「くっくっく」と言っておかしな声で毛玉は笑った。


夜空は鋼鉄みたいに固そうな黒で、ちょっと不安になるくらい星が光っていた。こういう夜はきっと月が丸いんだなあと思って探してみると、低いところに満月が隠れて銀色に意地悪く光っていた。


僕は毛玉の毛に手を埋めて月から目を離した。

「夜ってさあ。」眠っているかもしれないと思った毛玉はやっぱり起きていた。すこしだけ体をうごかして僕の気配を聞いている。それがわかった。


夜は溶けて、月が笑った。森の奥の湖のほとりの小さい花が、ぽっと恥ずかしそうに夜の花を咲かせた。


「毛玉ってさあ。」僕は顔を毛玉の毛に押し付けた。「枕持ってないの?」

「持ってるわけないだろバカ。」毛玉はそう言った。

「なんだよ。持っとけバカ。」「うるさい寝ろ。」とか言い合ってるうちにいつのまにか寝た。

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