4.

 !?!?!?!?

 え、何が起きた?誰かと間違った、とか!?

 遼くんの瞳は閉じている。私は閉じるのを忘れて、長い睫毛を見つめた。しばらくして唇が離れて、また私たちは見つめ合った。

 きっと私は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていただろう。


「紗良ちゃん。」

「は、はい。」

「ちょっと外に出ない?」

「うん。分かった。」


 幸い起きて話をしていた人たちは私たちと反対側にいて、多分、ここで起きたことは見えていなかったと思う。遼くんがすっと起きて歩いて行って、少し後に私も追った。

 ログハウスから出ると、駐車場の車止めに遼くんが座った。側に立ったままでいるのも違うな、と思って、私も横に並んで腰かけた。

 遠くからさざ波が聞こえ、潮の香りがする。日中より涼しくなったとは言え、夏真っ盛りの夜はまだ気だるい暑さをまとっていた。


「唐突だけど、言っていい?俺、紗良ちゃんのこと好きだわ。」

「……、えっ?」

 咄嗟に遼くんの顔を見てみたけど、もう寝ぼけた眠そう目ではなくて、昼間と同じあの吸い込まれそうな瞳だった。すぐに顔を逸らした。

「実は、紗良ちゃんのことは実花ちゃんから聞いてて、知ってたんだよね。」

 実花が私のことを遼くんに話してた……?

「実花ちゃん、よく言ってたんだよね。紗良ちゃんのトーンと俺のトーンが似てるって。彼氏がいなかったら紹介してるのにな、って。」

「彼氏のことも聞いてたんだね。」

「うん、まぁ実花ちゃん通してだけど。」

 さらさらと風が吹いて、私の視野の端っこに、遼くんの前髪が揺れるのが見えた。


「どんな子なんだろうな、って興味が湧いた。会ってみたら、本当に実花ちゃんの言う通り、気が合いそうだな、と思った。」

 私も、とつい言ってしまいそうになるのを堪えた。

 そんなことが言える立場ではない。

 もし私が完全なフリーで彼氏がいなかったら、言っていただろう。

 彼氏以外の人とキスをするだなんて、しようと思ってしたことでなくとも、やっぱり少し動揺した。罪悪感みたいな気持ちが残った。でも、遼くんに対して嫌な気持ちが少しも湧かなかったのは、私の中で気持ちに変化が起きてしまったからなのかもしれない。


 私は真っ直ぐ前を向いたまま、少しも動けずにいた。遼くんの脚が見える。長い脚を曲げ、膝の上に置いた腕はスッと伸び、その先の大きな手は組まれていた。少しゴツゴツしているのにキレイだなって、不思議な気持ちになった。男の人のパーツを見て、キレイと思ったことはなかったから。


「紗良ちゃん?」

「うん、ちゃんと聞いてるよ。何か冷静なような、そうじゃないような、ちょっとこんがらがってて。」

「起き抜けとは言え、自分でも大胆なことしたな、と思ってる。……、ごめん。」

「あ、いや。うん。」

 さっきのキスを思い出して、顔が熱くなった。良かった、暗くて。今、私はどんな表情をしているのか気になって、見られなくて良かった、と安心した。


「今は、私……。何も言えない。」

「そうだよね、彼氏いるもんね。」

「うん。」

「でも、俺は紗良ちゃんのこと、もっと知りたい、って思ってる。」

「……。」

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