3.

 バーベキューをしていると、何となく性格が出る。焼くのに専念する人は面倒見が良くて、野菜を自ら切りに行くのは女子力が高い人。実花と麻衣子ちゃんが率先して野菜を切ってくれたから、私は運ぶ係をした。

 焼くのと切る以外に、地味ながらもゴミを片付けたりイスの準備をする人が大抵一人はいて、周りが見えている人なんだな、って何となくそういう人に目が行ってしまう。今日のメンバーの中でその人は、遼くんだった。


「何か手伝うよ?」

「あぁ、紗良ちゃん。楽しんでる?」

「うん、楽しんでるよ。」

 目が合った時に、キラキラした瞳だなぁ、と思った。決して王子様タイプだとかではないと思うけど、遼くんの目は印象的だった。なんていうか透明感があって、吸い込まれそう。

「紗良ちゃんって、落ち着いてるよね。」

「テンション低い、とかって言われるんだよね、ごめんね。本当に楽しいんだけど、あまりそう見えないでしょう?」

「あはは!いや、そういうことじゃないんだけど、いいね、個性だよ。」

「個性かな。」

「うん、それでいいんだよ。あ、紙皿と割りばし、どこにあるか知ってる?」

「リビングにあった気がする、取って来るね。」


 個性、か。そんな風に思えたことはなかったかもしれない。時には思いっきりはしゃいだりしたいけど、そこまでのテンションを上げる術を知らず、常に一定のテンション。つまらない人間に時々思える。

 紙皿と割りばしを取って来ると、お肉を焼いていた零士くんが、

「あ、紗良ちゃん!ナイスタイミング、ちょうど肉焼けたんだよ。お皿もらっていい?」

 と言った。

「うん、はい。」

 と渡した後にふと思った。そうか、零士くんが焼いているお肉の加減を遼くんは確認してたんだ。

 周りが見えている上に、気を回せる人なんだな。

 細やかな気遣いが出来る同級生の男子というのは、初めてかもしれない。私がこんな性格をしているせいか、同級生の男子はみんな元気がいいという印象しか持ったことがなくて、そんな先入観を覆してくれた。初めて抱く感情だった。


 お肉を食べて、ビールを飲んで。野菜を食べて、またビールを飲んで。あんなにあったビールやチューハイの缶は瞬く間になくなっていった。夜が更け、買い出しの時に買っていた手持ち花火をした。線香花火まですると、ひと段落した感があり、一人また一人とログハウスへ戻って行った。

 目に入る範囲のゴミを集め、袋に入れる。それを持ってリビングへ帰ると、ほぼ全員が揃っていて、ソファにぐだっと横たわったり、フロアに寝そべっていたりしていていた。


「なぁ、すべらない話しない?」

 と一番の陽キャラ知広くんがふと言った。

「ろうそくあるし!」

「ろうそく何に使うんだよ?」

 と早速、みんなにツッコまれながらも、

「怪談とかする時やるやつだよ、ほら。でも怪談は怖いからさ、すべらない話でどうかなって!」

「何だ、それ。」

 わっとみんな笑いだした。

「じゃあ、電気だけ消して怪談風にしようぜ。」

 本当にろうそくが立てられ、雰囲気だけは怪談をする怪しげな感じになった。


 最初はみんな渾身の笑える話を持ち出して、ツッコミしながらお腹を抱えるほど笑ったけど、段々ネタも切れて来て、近況話にシフトしていた。

 みんなが話しているのをぼんやりと見ているのが、居心地良かった。左隣にいた実花は既に寝てしまった。ほろ酔いで心地良くって、みんなの声が子守唄的になって寝落ちしてしまったらしい。さっきまで喋ってたのに、コトっと寝た。

 寝返りを打って私に当たりそうになり、慌てて反対側へ避けたら、右腕で隣の人を踏んでしまった。


「あ、ごめっ。」

 やば、髪まで踏んじゃった。後頭部だけでは誰かよく分からなかったけど、よく見てみると、隣にいたのは遼くんだった。実花の方を向いて話していたから、逆の方に気付かなかった。

 遼くんも寝てしまっていたようで、髪を踏まれた際に起きてしまったらしく、くるっと私の方を向くと、眠そうにボーっと私の顔を凝視した。

「あ、起こしちゃったね……。」

「……。」

 寝ぼけてる?ジッと無言で見つめられ、ドギマギした。やっぱり痛かったのかも……。

 三秒は見つめ合った。いや、もっと長かったか。目を逸らそうにも逸らせず、瞬きすらせずそのまま私も見つめてしまった。

 遼くんの瞳にろうそくのゆらゆらとした炎が見える。その瞳がゆっくりと近づき、長い腕が私の頭を捉え、後頭部を掴んだ後、私たちの唇は重なった。

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