四人目:紗良の場合
花火
1.
私には彼氏がいる。告白されて嫌じゃなかったから付き合った。
だけど、今は後悔している。
「ねぇ、キャンプ行かない?」
そう友だちの実花に言われたのは夏休みに入ってすぐのことだった。
「誰と?」
「私と私の彼氏とその友だちとか色々で、計十人くらいかな?」
「人、多っ!」
「ねぇ行こうよぉ、紗良も一緒に来て欲しいよぉ。私、女一人なんだよぉ。」
「んー。いつ?」
「来週の木曜から一泊で!」
実花には美容師の専門学校に通っている彼氏がいる。いつもラブッラブでのろけ話を散々聞かされていたおかげで、その彼氏の会ったことのない友だち数名の名前までインプットされてしまった。恐らくその数名が今回のキャンプ参加者ということだろう。
「まぁ、来週は特に予定もないけど。」
「彼氏も地元に帰ってるって言ってたもんね?」
「うん。」
「ていうか、彼氏とはうまく行ってんの?」
「普通かな。」
「温度低いよね、紗良。」
「そうかな。実花がいつも高いだけでしょ。」
「だって、好き過ぎるんだもん、そうなるでしょう?」
「そんなもんかねぇ?」
正直、好きだとかよく分からない。
弾けそうな笑顔で彼氏の話をする実花を見ていると、微笑ましくなって来るし、可愛いなっても思うし、誰かを心底愛するってこんな姿になるんだな、っては思う。
だからそれと私を照らし合わせると、私は彼氏のことを本当に愛してはいないのかもしれない、とも思ってしまう。
だけど、年上だからか落ち着いていて話していて嫌じゃなくて。一緒にいるのも苦痛じゃないし。もしかしたらもっと付き合って行けば、私の感情だって変わるかもしれないし。これが私たちの付き合い方なんだろう、とそう思っていた。
「彼氏にメールしたら、了解!って。あぁ、楽しみだなぁ!」
キャンプ場は、私たちの地元から車で二時間ほど南に行った海の近くにあるところだった。オートキャンプ場やログハウスがいくつかある大型施設で、遊具施設は充実しているし温泉もある。一日中遊べる場所だとファミリー連れから若者まで多くの人に人気で、夏は特に賑わっていた。
海水浴には行ったことがあるけど、キャンプで行くのは初めてだった。
参加者は結局、八人になったと実花が言っていた。私と実花を除いて皆、実花の彼氏と同じ美容師専門学校の子たちで、その中に女の子が一人いるらしい。
「女の子いるなら、私行かなくても良かったね?」
「私は紗良がいた方がいいよ!それに、急遽、参加することになったらしくてさ、実花、初めて会う子なんだよね。」
「そうなんだ。お邪魔じゃなければいいけど。」
「お邪魔じゃないない。ほら、行こう!」
待ち合わせの駅前に着くと、それらしきグループがいて、車が二台連なっていた。この人数だと一台では無理だ。二班に分かれて行くのだろう。
手前にいた人たちに簡単に自己紹介を済ませると、実花が私の手を引っ張り、実花の彼氏とその友だちの遼くんの元へと連れて行った。
「紗良ちゃん、久しぶり!」
「零士くん、久しぶりだね。いつも実花がお世話になってます。」
「はい、お世話してます。」
「ちょっと、零士!あ、紗良、遼くんに会うのは初めてだよね?」
「うん、初めてかな。いつも実花の話に出て来るから名前は知ってたけど。初めまして、遼くん。」
「はじめまして。俺も実花ちゃんから紗良ちゃんの名前、聞いたことあったよ。実花ちゃん、俺たちの学校によくいるもんね。」
「だって学校から近いし。紗良と取ってる授業違ったりするから、一人でいてもつまんないんだもん。」
確か遼くんは零士くんと高校からの友だちで仲が良いって実花が言っていた気がする。短髪で笑うとくしゃっとなって可愛らしくなる感じの人だった。
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