4.
何を言ってもまーくんの気持ちは変わらない、そう思った。敗北。私は大人のその人より負けたんだ。
「もういい!」
手に握りしめていた写真を投げつけた。色鮮やかなコスモスがハラハラと舞い落ちた。地べたに落ちた写真の中の私は幸せそうに微笑んでいた。
「本当にごめん。日菜子のせいじゃない。俺が全部、悪い。」
「……、さっきからごめんばっかり。謝るぐらいなら、浮気なんかしないでよ!!」
「……、ごめん。」
勢いよくブランコから降りて、まーくんの前を走り去った。涙は止めどなく溢れた。
心がひりついて、悲しくて、辛くて、立ち止まったら座り込んでしまいそうだったから、息が切れるまで走り続けた。
まーくんと一緒に行ったことないところを目指して走ったはずだけど、どこもかしこもまーくんと一緒に行ったところばかりで、楽しかった思い出ばかり思い出した。
私が何をしたのだろう。何がいけなかったんだろう。
考えたけど答えは出なくて、悲しさだけが積もって行った。
結局、ここか。
走るのに疲れてとぼとぼ歩いていると、いつもの河原に着いていた。この河原、好きなんだよね。まーくんとの思い出がいっぱいで、本当なら、今は一番行きたくないところでもあるけど、大好きな場所に変わりはない。
夕陽が落ちようとしている。川はオレンジ色に染まっていた。緩やかな川の流れはただ見ているだけで心が落ち着く。
河川敷の斜面に座って眺めていると、やっと心に平穏が戻って来た。
事実は変わらないししょうがない、よね。
いっぱいいっぱいだった気持ちに空白が出来てきて、頭にも考える余白が出て来ると、ふと思った。
『ん?大人に負けたって思ってたけど、たかだか二つ上だよね?大学一年生ってことでしょ?』
高校生との違いって、免許が取れて運転が出来るくらい。まだお酒だって飲めない歳で、さほど変わらないじゃん。
『私が二年後、大学生になった時にもし。好きな人には彼女がいて、それでも待つって思うぐらい好きになったとして、あんな二股みたいなこと許せるかな。
いや!無理でしょ!家に上げるとか、本当に彼女と別れるか分かんないやつ!』
無性にまーくんにもその女にもムカムカしてきた。
「バーーーーーーーカ!!!!」
ザッと立ち上がって、そう叫んだ。何度も通った道、この間はピクニックしたこの河原にこの際、全部、葬ってやれ。
「私はそんなビッチに、ならないぞーーーーーーーーー!!!!」
「青春の良い時を、無駄にして……、たまるかーーーーーーーーー!!!!!」
大声で叫んでみたらスッキリした。あぁ、こんなことしたの初めてだな。
そうか、叫んで心のもやもやを外に出しちゃえばこんなにスッキリするもんなんだ。
私には若さがある。うだうだ考えて時間を無駄にする方がもったいない、と思うようにしよう。
今はまだ、新しい恋がしたいなんて少しも思えないけど、いつか、まーくんを超える素敵な人に出会うんだ。今度は誠実な人がいい。それまで泣くだけの日々を送るなんて、まっぴらだ。
立ち上がると夕陽はすっかり落ちて、空の色が群青色に変わり始めていた。
「よし。」
小さくそう呟いて、家に帰るためにバス停へと歩いた。
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