3.
河川敷にはコスモスが咲いていた。たくさんのピンクに時折、オレンジや黄色が混じっていて、色とりどりでキレイだった。そのコスモスを背に何枚か写真を撮った。私の携帯にはまーくんと撮った写真がたくさんあったけど、ピクニックの日は久しぶりだったこともあるし、煮えていなかった肉じゃがの痛い出来事を思い出だと言ってくれたのが嬉しくて、写真を現像した。
でも、何かが心に引っ掛かっている。
いつもまーくんは優しいけど、ピクニックの日だって優しかったけど、何かが違った気がして。久しぶりに会ったからかな。私たちの間に見えない線があるみたいだった。
そんな気持ちを解消したかったのもあるかもしれない。写真をまーくんにも渡したくて、ある日、部活の帰りに会いに行こうと思って電話をかけた。
コールが五回鳴った後、
「はい。」
と出たその声は、まーくんではなかった。女の人の声で、あぁ、まーくんのお姉さんかと思った。
「あ、もしもし、まーくんいますか?」
「将人ね、今、お皿洗ってるの。ちょっと待っててね。」
「はい……。」
違う。まーくんのお姉さんじゃない。何度かおうちにお邪魔した時にお姉さんには会ったことがあるし、喋ったこともある。お姉さんの声とは違った。
「もしもし、日菜子?」
「うん。まーくん、今、どこ?」
「今……。ちょっと友だちんち。」
「誰?」
「日菜子は知らない人。」
「そう。……、この間のね、ピクニックの時の写真、現像したから渡したいんだけど。」
「分かった。今から出て来るよ。日菜子、どこ?」
「まーくんちの近く。」
「じゃあ、近くの公園で待ってて。」
「うん、分かった。」
ドクドクと心臓を駆け抜ける血の勢いが早くなったように感じた。なかなか会えなくっても、何の自信かは分からなかったけど、私たちは大丈夫、と思っていた。きっと過信だったんだ。
公園のブランコに座って、ゆっくり漕いだ。ゆらりゆらり。鉄のチェーンを通して感じる冷たさと心の温度が似ている気がした。
「日菜子。」
「まーくん。」
いつもなら、にこにこして来るのに、今日はいつものにこにこがない。何となく次に言われる言葉は分かっていた。
「日菜子に話がある。」
「うん。」
「俺、好きな人が出来て。日菜子と別れたい。」
「……。」
こんなことって、自分にも起きるんだなぁ、と思った。特別でなくてもささやかな幸せが当たり前になっていたのかな。そんな日がずっと続くんだと思っていたよ。
大きなケンカもしたことがなかったよね、私たち。
「さっき、電話に出た人?」
「うん。」
「あの人、誰?」
「俺より二つ上で、近くの大学に通ってる。友だちに無理やり連れていかれたコンパで知り合って。」
「コンパとかいつの間に行ってたの!?」
「なかなか日菜子に会えなかった時。」
そうか。私が部活に励んでいた時に、まーくんはコンパに行っていたのか。そんなことも知らなかったなんて。彼氏のことは彼女なら何でも分かってるわけじゃないんだ。
「その人、一人暮らししてるの?」
「うん。」
「彼女いるって、知らないの?」
「知ってる。待つ、って。言ってる。」
私よりも大人な女性で、一人暮らししてて、彼女がいても待つぐらいの余裕があるんだ。私にはないものをその人が全て持っているように思えた。
「なんで……。私たち、上手く行ってたんじゃなかったの?」
「ごめん。」
「この間、ピクニックに行って。お弁当美味しいって食べてくれたじゃん。」
「……、ごめん。」
「これもいい思い出って言ってくれたじゃん!」
「……。」
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