2.

 二年生は部活生にとって大詰めの年。三年生は受験に備えて勉強漬けの毎日になるから、二年生の冬にある定期演奏会は大きいイベントの一つとなる。練習はいつもよりハードになって、彼に会える日が減っていた。


 ある時、週末の練習が休みになり、久しぶりにデートする時間が出来た。最初に散歩をした川沿いにある湧水公園でピクニックをする予定。張り切ってお弁当を作った。

 おにぎり、卵焼き、たこさんウィンナー。他にメインを何かを入れたい、彩りに緑も入れたい、と色々考えたけどなかなか決まらなくて、悩んだ。だって、料理はちょっと得意なんだよ。

『日菜子、料理上手なんだね!』

 って言われたいんだもん。何だったらさらに、

『いいお嫁さんになれそうだね!』

 とか言われたいよ。そしたら、やっぱり和食しかない。


「うん、肉じゃがだ。」

 絹さやを乗っけたら、にんじんのオレンジもあって色合いがいい。やっと決まってすぐに作りだしたけど、煮込むのに時間がかかって、待ち合わせの時間までギリギリかかってしまった。


「ごめんね、待たせちゃったね。」

「ううん、俺もさっき来たとこだよ。」

「まーくん、元気だった?」

「うん。日菜子は忙しそうだったね。」

「そうなんだよ、定演までラストスパートって感じで、みんなも張り切ってるの。」


 久しぶりに会えて、私は嬉しかった。初めて会った時みたいにちょっと緊張してドキドキした。だから、気付かなかったんだ、自分の感情でいっぱいで。


「今日ね、頑張ってお弁当作って来たんだよ。」

「お、そうなの?日菜子の料理って初めてだ。」

「へへ。お腹空いてる?」

「うん、空いてる。」

「じゃあ、食べよ!」


 いつもの人や自転車が走っているところではなくて、川面に下りていく小道をおりたところに、レジャーシートを広げた。お茶もおしぼりもちゃんと入れたし、準備はバッチリ。

 ピクニック用の少し大きめのお弁当のフタを開けると、

「おーっ!うまそっ!」

 とまーくんが声を上げた。

「ちょっと頑張って作ったんだよ?はい、お箸。どうぞ食べて食べて!」

 おしぼりで手を拭いているところに、お茶が入ったコップを渡す。

「何にしよ。ウィンナーうまっ!」

「うん、それ切っただけだからね。」

「あはは、ウィンナー好きだからさ、つい。」

「いや、別にいいけど、どれから食べても。」


 次は卵焼きか肉じゃがか、どちらを先に食べるか迷っていたけど、卵焼きを選んだみたいだった。

「卵焼き、甘いのとそうじゃないの、どっちが好き?」

「俺は、甘くないのかなぁ。母親が作るのが甘くないやつでさ、友だちのお弁当箱に入っている卵焼きが甘くてびっくりしたことがある。お、これ、甘くないやつだ!」

「良かった、私も甘くないのが好きで、あんまりお砂糖入れないんだよ。」

「うん、ちょうど良い!日菜子、料理上手なんだな。」

「えへへ。」

 素直にそう褒められて嬉しかった。

 にこって笑って食べてくれる姿を見たらホッとして、私も卵焼きを食べた。


「じゃあ、次は肉じゃがにしよ。」

 おにぎり用の海苔を取り出していると、あり得ない音がした。……、シャリっ。

 シャリっ!?

「え、今、何食べた?」

「んと、にんじん、肉じゃがの。」

「えーっ!もしやまだ煮えてなかったのかな?」

「ちょっと、固いかな?でも全然食べれるよ!」


 はぁ。慌てて作ったから煮る時間が足りなかったんだ。今日のメインだったのに、ちゃんとまともに作れたのが卵焼きだけだなんて……。


「うん、味は美味しいよ?」

「ありがと、まーくんは優しいね。」

 にんじんが煮えてないなら、じゃがいもだって煮えてないはず。試しに食べてみたら、外側だけ少し柔らかくて中は全く煮えていなかった。はぁ。ため息しか出ない。


「ごめんね。」

「謝ることないよ。これもいい思い出ってやつ。」

 初めてのピクニックはちょっと苦い思い出と共に、私にとって忘れられない一日になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る