三人目:日菜子の場合
肉じゃが
1.
高校一年生。厳しかった中学校の校則から解き放たれて、ある程度、自由な高校生活に浮かれていた春。
友だちからの紹介で付き合った男の子が、私の初めての彼氏だった。
最初に会ったのは赤い橋の上。私とその男の子の家の中間地点ということで、友だちに、
「今度の土曜日の13時に赤い橋に行ってね!」
と言われ行ってみたら、一人の男の子が立っていたの。友だちもいると思っていたのに、男の子が一人で、内心えっ?と思った。
いきなり二人で会って、初対面なのに何を話せばいいの!?と思ったから。
その男の子ははにかんで、
「はじめまして。藤森
と言った。私もうつむき加減に、
「はじめまして。矢野日菜子です。」
と言った。
あらかじめ友だちが写真を見せてくれていたから、顔は知っていた。さっぱり目で優しい印象だったけど、会ってみたらそのまんまプラスもうちょっと良く見えてホッとした。おじいちゃんとおばあちゃんがお見合いで結婚した時に、初めてお互いの顔を見た、という話を何だか思い出した。
「日菜子ちゃんって、部活してるの?」
「うん、吹奏楽部なの。」
「そうなんだ。部活ない日、時間あったらまた遊ぼうよ。日菜子ちゃんの学校、俺のうち近くなんだよ。」
「そうなの?」
「うん。何だったら、うちの姉ちゃんが通っていた学校でもあるんだけど。」
「あ、じゃあ私の先輩だ。」
「もう卒業してるけどね、そうだね。」
藤森くん、お姉ちゃんがいるんだ。お姉ちゃんがいる男の子って、何となく優しい印象の人が多い気がする。それで、そのお姉ちゃんはハキハキした感じの元気が良い感じ。
「私もお姉ちゃんいるよ。」
「あ、そんな感じはした。何となくのイメージ。」
「よく分かったね。」
そう言いながら藤森くんを見ると、夕日に照らされた髪が透けてキラキラしているように見えた。
河原沿いの道は狭かったけど、ランニングをしている人や、ショートカットに使う人や自転車で往来が盛んだった。
前から自転車が結構なスピードで向かって来て、端に寄らなきゃと思った瞬間、
「危ない、こっちおいで。」
と腕を引かれ、少しドキっとした。通り過ぎた後に軽く風が吹いた。
「暴走自転車だったね。」
「ね、何か急ぐ用事でもあったのかな。」
少し心臓が忙しく動き出したのがバレてないといいな、と思った。
その日は、川沿いを散歩しながらお喋りをしただけで帰った。別れ際に携帯番号を教え合った。
それからよく私たちはメールのやり取りをして、日に日に仲良くなっていった。付き合うのは自然な流れだった。
暑い夏の日も自転車の後ろに私が乗って、短い秋にはお互いの学校の文化祭に行った。友だちに彼氏を紹介するのも、彼の友だちに彼女だって紹介されるのもくすぐったくて、ちょっと照れた。
寒い冬には手をつないで歩いた。一人の時には手袋をしていたけど、手をつなぎたくて手袋はバックにしまい込んだ。
クリスマスには初めて編んだマフラーがちょっと
ベタで青春らしい青春を過ごせたと思う。春夏秋冬は巡り、変わらない毎日に異変が起き始めたのは、私たちが高校二年になった秋頃だった。
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