3.

『分かったろう』


 何よ、分かったろうって。上からだなぁ!ちゃんと謝ったのかな?


『僕らは許し合う力も持って産まれてるよ』


 まぁ、そうだね。許し合うことは大事だよね。でもね、ちゃんと謝ってからよ。それからの話。


『ひとまず そういうことにしておこう それが人間の良いとこ』


 強引~。まとめ方が強引~。

 ひとまずそういうことにしておこう、って投げやり感すら感じるよ……。

 そう思ったら笑いがこみあげて来た。それと同時になぜか愛しいと思えた。

 付き合っていた時にケンカした時のことを思い出した。怒った時は、絶対に私からは折れないんだからね!ぐらいの勢いがあるんだけど、もうこんな感情になったら、折れる折れない、そういうのはもうどうでも良くなるんだよね。


 やっぱり、この曲、しゅんちゃんそのものだ。桜井さんとしゅんちゃんのタイプが似ているのかは不明だけど、しゅんちゃんが書いたと言っても違和感がないくらいに、その曲の登場人物はしゅんちゃんだとしか思えなかった。


「はぁ、歌ったー!って、未来、何ニヤけてんの?」

「いや、だってこれしゅんちゃんの歌でしょ。」

「は?ミスチルだけど?」

「それは分かってますけど、歌詞、ちゃんと読んだ?その前にしゅんちゃん、歌手じゃないし。」

「うん、彼女を怒らせた歌だろ?」

「これ、そのまんましゅんちゃんでしょ。口がすべって私を怒らせたこと、何度ありましたっけ?」

「そんな俺、口すべらせたかね?」

「あるよ、すべらせてるよ。」

「そんなないだろう。」

「あります。『それが人間のいいとこ~』って、まとめ方、強引過ぎやしないか!?」

「いやいや、俺、桜井さんじゃないし。桜井さんに言ってくれよ。」


 そう言い合って、私たちは笑った。


 あぁ、やっぱり私、この人のこと好きだわ。一緒にいると楽しくて、時々私を怒らせることがあっても憎めなくて、バカな冗談をガハハって笑いながら言ってるところも、アホだなぁって思うけど、そんなところも愛おしくなってくる。

 目を細くして笑う笑顔も好き。

 いつもしゅんちゃんのことを思い出す時は、その笑顔なんだ。


「おい未来、お前、曲入れてないぞ。」

「あっ、しゅんちゃんの歌、聴き過ぎた。」

「そんなに俺の歌に惚れ込んでくれたの?ありがとう。」

「いやいや、ちょっと意味違うけど。」


 こういう調子に乗るところも。……、嫌いじゃない。

 その後、結局私たちは四時間も歌った。帰る頃には声が少し枯れかけていた。

 たくさん歌ってお腹が空いた私たちは、よく行く居酒屋に移動してビールを飲むことにした。


 多分、ペース考えずに飲んで、いつものごとく帰る頃には寝てしまうのだろう。それを、しょうがないな、と思いながら、

「はい!起きて!帰るよ!」

 って背中を叩いて起こして、代行の車が到着したら運転手の人にしゅんちゃんの住所を告げて、肩車をしてしゅんちゃんを車に運ぶ。そんな流れは毎度のことだったけど、それも全然嫌ではなかった。

 重症だ。


 私としゅんちゃんの関係がどこに向かっているか分からずとも、今は時々、こうやってしゅんちゃんに会えれたら、それでいい。

 惚れた方が負けなんて言葉があるけど、しゅんちゃんは私に勝負をかけてるわけじゃないし、きっと勝ち負けだなんて、あの人は考えない。

 だから。やっぱり、今はこのままでいいんだ。



 ※Mr.Childrenの『口がすべって』より歌詞を拝借いたしました。

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