2.

 結婚式からしばらくして、直美夫妻の家にお邪魔する会が開催された。

 茉美はあいにく仕事の都合が付かず欠席だったけど、三次会で仲良くなった他のみんなと再会することが出来た。その中には公平さんもいた。

 かっこいいと思ったのはスーツを着ていたからだ、と結論付けていたのに、思いっきり覆された。私服もイケてる。

 出来るだけ顔を見合わせない席に座り、不自然にならない程度に会話も控えた。それが、去年十一月のことだった。


 あれから一年近く経っていたから、若干ざわついた心は落ち着きを取り戻し、いつもの日常を過ごしていた。

 久しぶりに届いたメールには、『元気にしてる?茉美ちゃん、結婚するらしいね!』と書かれていた。SNSで見かけたのだと。茉美は以前から付き合っていた一つ下の彼と結婚することが決まっていた。直美の次は、茉美。続々と友人たちが結婚していく中で、彼氏も出来ないのは私だけだった。

 そのメールを期に、毎日やり取りをするようになった。急接近だった。


 もしかして破局したのかな?とは思ったけど。

 胃潰瘍ができた、とか、10kg痩せた、とか言ってたからそれ以上は聞きづらくて、他愛もない話ばかりした。


 毎日メールをするようになって約一ヶ月後に、『飲みに行かない?』と誘われた。もうこの頃には、結構気になっていたから、即OKした。会ったら彼女さんのことを聞いてみるつもりだった。


「お久しぶりです。」

「怜ちゃん!元気してた?」

 待ち合わせ場所に現れた公平さんは、前見た時より確かに痩せていた。別に前が太っていたわけじゃないけど、見た目にすぐ分かるくらい、結構、体重減ったんじゃないかと思う。

「相変わらずです。公平さんは……、結構痩せましたよね?」

「だよね。会う人みんなに言われる。」

 そう言って苦笑する公平さんに、間違いなく何かが起きたんだと確信した。

 思い切って彼女さんのことを聞いてみたら、やはり破局したらしい。原因は元カノに好きな人ができたから。


 だけど、その元カノは、

『このままアナタといたら嫌いになりそう。気になる人のところに行ってみたいの。でも、必ず戻って来るから。』

 と言ったらしい。それは病むわ。カムバックする?普通。公一さんには悪いけど……。とんでもない女と付き合ってたな、と思った。


「それ言われてさ、待っていたんだ、俺。」

「は……っ?」

「そんな言われてもなかなか嫌いになれなくて。」

「あ、あぁ、そうなんだ。」

 確かに人間の気持ちなんて簡単じゃない。それまで好きだった人のことを嫌いになるのには、案外時間がかかるものだ。例え相手がダメなヤツだって分かっていても。そういうの、情みたいなものなのかしれない。

「けどさ、最近、気になる人ができたんだ。」

 ふみふむ。

 って、え?気になる人?

 ちょっと待てよ。私、公一さんとここ一ヶ月くらいずっとメールしてたんだけど。結構、近い立場にいたような気でいたけど、他にもそんな人がいたのかな。

 居酒屋の壁を右に左に視線移動しながら考えたけど、脳内には?の文字しか浮かばなかった。それで公一さんを見てみると、私のことを見ていたらしく二人の視線が交わった。


 え、は、私!?

 まだ視線は交わったまま。

 それって私のこと!?


「ちょっと待って!もし、その気になる人が私だとしたら、私も気になってるんだけど……!」

 あぁ、言ってしまった。前のめってて超恥ずかしい。でも出た言葉はもう引っ込めれない。

「うん、まぁ、気になってるのは怜ちゃんなんだけどね。

 でも、元カノのことを忘れられてはいないんだ……。」


 冷静ならちゃんと判断出来たはずだけど、この時の私の脳内はすでに、SL機関車から新幹線ぐらいまでに速度が上がっていた。前のめり具合にさらにスピードが加速して、ついこんなことを言ってしまっていた。


「いいよ!忘れちゃえばいいじゃん。試しに私と付き合ってみたら!」

「え、えぇ!?」

 だよね、そういう反応になるよね。

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