十人十色の短編集

八重森ミチル

一人目:怜の場合

新幹線のスピードで

1.

 お風呂から上がった私の携帯に届いていたのは、一通のメールだった。

 ――― プシュッ

 缶ビールを開けながら、そのメールを開けるのを少し躊躇った。


「久しぶりだな、どうしたんだろ……。」


 メールの送り主は公平さんだった。

 約一年前に友人の結婚式で出会った二歳年上の人。

 新郎の友人としてスピーチをした公平さんは、約180cmの長身で、時折優しそうな微笑みを浮かべながら、新郎との思い出を語った。

 「健二くんとはよく放課後にバスケットをし、アルバイトでも学校でもいつも一緒でした。どんな話をしたかはここでは割愛しますが……。」


 スピーチは、よくある笑いを取るだけの内容がないようなものではなくて、心がほんわかとするようなエピソードが散りばめられていて、いつもならスルーしてしまうのに、なぜか聞き入ってしまっていた。

 知的にゆっくり話す姿に好感を持てたからかな。

 だから、二次会の席でちょうど向かい同士になっても、気まずい気持ちは持たなかったし、すんなりと話せたのだと思う。

 一緒に結婚式に参列していた友人の茉美も、私の横で公平さんと楽しそうに話していた。

 

「公平さんって彼女さんいるんですか?」

「俺?彼女ができて三ヶ月かな。茉美ちゃんは?」

「私ですか?一歳下の彼氏がいるんですよ。直美の結婚式でこっち帰って来てて、普段は東京にいるから、彼氏も東京の人なんですけどね。」


 ここで恋人がいないのは私だけか……。三十路近い独身女。焦りも感じる頃。

 一杯目のビールを飲み終え、次は何飲もうとメニューとにらめっこをしながら、ふと思った。

 

 彼氏や旦那さんがいる人の話を聞いていると、いいなって思ったりはするんだけど。前の彼氏と喧嘩ばかりで別れてからは、誰とも付き合ってこなかった。かれこれ三年以上にはなる。心が消耗することに消極的になっていて、この頃はいい人探そうというセンサーが完全に鈍くなっている。


「怜ちゃんは、彼氏いるの?」

「いえ、いません。」

「へー、怜ちゃん、モテそうなのにね!」

「持ち上げても何も出ませんよ、はははっ……。」


 もうこの質問にも慣れた。近頃では、

「結婚はしてるの?」

 の方が増えてきているほどだ。


 外に出ると星がきれいに瞬いていた。お酒で火照った体に冷えた空気が気持ちいい。

「直美、きれいだったねー!」

「ほんと!最高に幸せそうだったよね。」

「三次会も楽しかったしね。」

「ほんとだね!いいなぁ、今度、直美夫妻の家にみんなで遊びに行くの、私もこっち帰って来てたら行けるのにな。」

「仕事の都合が付いたら、また帰って来たらいいじゃん。」

「そだね。やっぱり地元っていいよね。」


 引き出物と結婚式の装花を両手に抱えて、繁華街を歩く。週末の街中はまだ人で溢れかえっていた。


「怜、私ここからタクシー乗るわ。うち方面のバスもうなさそうだし。」

「そっか、気をつけてね!またしばらく会えないだろうから、電話でね。」

「うん、怜も仕事無理せず頑張ってね!良い話が出来たらいつでも報告すること。」

 ニヤっと笑っているけど、ごめんね、ネタ提供出来るようなもの一個もないよ……。

「バイバイ!」


 バス停に着くと、公平さんがいた。

 トントン、と肩をたたくと、

「あれ、さやかちゃんもバスだったんだ?」

 と私が歩いて来ていたことに気付いていないようだった。

「はい、あと一、二本はあるかなと思ってバス停まで来てみました。どちら方面ですか?」

「俺、松本なんだよね。」

「え!そうなんですか、私もですよ!」

 どうやら偶然にも地元が近かったらしい。バスに乗って降りるまでの三十分間に色んな話をした。その中で分かったことは、波長や趣味が合うということ。みんなの中で話している時から良い印象はあったけど、二人で話してみたら、正直言って好きなタイプの部類に入ると思った。

 これは……。

 あまり仲良くなるのやめておこう。彼女がいる人を気に入ってもろくなことにならない。

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