3.
公平さんは頭を抱え込んでしまった。
「いやいや、そんなのオレにとって都合が良すぎるでしょ。」
真剣に考えてくれてる!なんて思って、悩む姿にキュンとした私はアホだ。
「このままいたって、元カノさんのことを忘れられるわけじゃないでしょ?」
「まぁ、それはそうかもしれないけど。」
「だったら、次に進んでみたらいいじゃない。私がいいよ、って言ってるんだから。」
「いやいや、やっぱダメだって。そんな……。」
「ダメなことないって。」
「そう言ってくれるのはありがたいんだけどさ、怜ちゃん。でも……。」
そんな押し問答を繰り返しながら、約四時間後、
「じゃあ、一ヶ月お試しということで、逆に怜ちゃんもオレを試してみてよ。それでどうかな?ちゃんと付き合うまで、手は出さないから。」
という答えを公平さんは出した。
「うん、了解。」
そんなスタートを切った私たちだった。
それからの一ヶ月は相変わらずメールのやり取りを毎日して、時々会ってランチしたり、カラオケに行ったり、そこら辺のカップルと何ら変わらないデートをした。それは学生の時のような清らかな交際で、公平さんは宣言した通り、私に手をつなぐ以上のことはしなかった。
あっという間に一ヶ月は過ぎ、その日は雪が積もった。
「怜ちゃん、ドライブしない?」
雪を見に山へドライブに行くことになった。
今日で正式にお付き合い始まるんだ、とウキウキしていた、正直なところ。だって本当に楽しい一ヶ月だったから。公平さんも私の前で自然でいてくれたように思うし、私たちが過ごした一ヶ月はただの友だちというよりも密接だったはずだ。
なのに。
「今日で一ヶ月だね。元カノのことをスッキリ忘れるってのは難しいんだけど……。
でも、怜ちゃんのこと、見てるから。だから、目をつぶって。」
そう言って公平さんは私にキスをした。激しいのじゃない、小鳥のさえずりのような初チューだった。
「お試し期間、延長でお願いします。」
はぁぁぁぁ?
ちょうどこの間、カラオケ行ったばかりだわ。
『あと1時間、延長お願いしまーす!』って言った言葉がリフレインする。
「えっ、期間は?」
「ん?特にないよ?」
無期限延長!?その間、手も出されず清く正しい交際を私としたいって言うの?蛇の生殺しってやつじゃない!?この展開、死ぬ。
「これからもよろしくね、怜ちゃん。」
そう言って私を抱きしめた。
嬉しいような切ないような何とも言えない初めての感情を抱いた。
そんなこんなで、十二月からスタートしたお試し交際は、
クリスマスを経て(彼が新型インフルエンザになって、会えなかった)、
大晦日と正月を経て(喧嘩して会えなかった)、
私の誕生日を経て(なぜか誕生日前日に誕生日プレゼントをもらった)、
さすがに無期限はきつくて、私から期限を切りだした。いつもの電話をしている時に。
「ねぇ、公平さん。二月末でハッキリさせたい、私たちのこと。」
「どうしたの?怜ちゃん。とりあえず今度、会って話そう。」
そんな時、彼の愛犬が亡くなった、とメールが届いた。そのメールの文面からも彼がすごくショックを受けているのは分かったし、また体重が減ってしまうんじゃないか、と思うほどの落ち込みぶりだった。
心配ですぐに電話をしたけど、泣いているようだったからすぐに電話を切った。今すぐ会いに行くべきかな、とも思ったけど、突然家に行くなんて非常識だし、どうしたら良いものか、と思いながら時間だけが経った。
その頃から私への連絡は一日に一通のメールのみとなった。
約一週間が経った頃、『話があるから、週末会える?』とメールが来た。心がジリジリしていて週末までなんて待てなかった私はすぐに電話をして、
「今、話して。」
と言った。
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