3. 往路
あーあ、何だかお子ちゃまがイキがっちゃって、まあー
こいつ…ビビってら。
がっかり。ここらでは見ない、白の格好いいアウター着てるなって、思ったのに。
さすが俺。まだまだ捨てたもんじゃない。
同じくらいの年齢かなあ。ネクタイとか似合わなさそう。
ん? なんかよく見ると…こいつ見た目はそんなにワルかない。
あれ? フードの色だけが真っ赤? ふーん、ワルそうだけれど野性味は悪くない。
染めまくって銀髪、普通の会社づとめとは思えねぇ。
こんな
何だか変な黒い棒みたいなヤツ、持ってる…
でも夢と桜はすぐに散るもの。所詮、男なんてガキだ。以上(ぷぃ!)
俺とタメか…少し上ぐらいかもしれない。あっ!
…
俺の全神経を集中したガンを、完全に無視しやがった!
思い出しちゃった。馬鹿みたいに男に狂った、あの頃。
そうだ。こいつも「女」だった。俺の人生を狂わせた…
結局駆け落ちまでしちゃって…でも最後はあっけなかったな。
同棲して、楽しかったのは三ヶ月だけ。
すぐに別の彼女ができて…
すぐに男がやってきて…
私なんて居なかったみたいに、捨てられた。
ボコスカ殴られて、ゴミ捨て場に捨てられた。
…
男
なんて!!!
女
…ふぅ。
…ふん!
思い出しちゃった。
思い出しちまった。
こいつのせいだ。この金髪の山猿のせい。
この女のせいだ。ピンクのコートなんか着やがって。
もう無視しよ…
ガンくれるのも面倒くさい、もう忘れよ。
「ご乗車ぁ~ありがとおぅございまぁ~す。間もなく
…
…
あっ。
…くっ
やばい、目があっちゃった。
ちっ!
だめ、どこも見るトコないから、つい…
んだよ、俺は外が見たいだけなんだって。
ていうか、こっち見ないでよ!
つーか、こっち見るなよ!
アゴ髭ばっかり触って変なヤツ。もー…あっ!
前髪ばっかり引っ張りやがって。変なヤツ!
あっ…見られた私のクセ…ばっちりと…猿のくせに!
ん? バイブ…誰だ?
今度は私が睨んでやる! えー! スマホ見て逃げられた! 悔しい…
ちぇ、また広告かよ。着信…ありゃしねえ。
ダメダメ、あたしも気にしてないアピールしないと…あ、通知アリ。
他には…ネットニュースぐらい。
「男性に聞いてみた! 美女を見たらあなたはどうする?」
「直撃アンケート! 車内でイケメン発見、そのとき女性は…」
…
「3位 見やすい位置を陣取る」
「3位 スマホ見て気にしてないアピール」
へーあたしの真ん前に座ってるじゃない…まーそもそも、人いないけど。
…おっと、あの女。そんまんまじゃねえか!
「2位 自分の外見をチェックする」
うあ、あいつ、アゴ髭とか整えちゃって! ぷぷ、めちゃ気にしてたじゃん!
前髪ばっか触ってやんの。うあ、マジかよ! さては…
「1位 見ない」
コラ、最後にそれか!!
おおおい!! じゃあ、どこ見たらいいんだ!!
はぁ、はぁ。
ふぅ、ふぅ。
…
やばい。目があった。
やばい。見られた。
しかも、なんか山猿と通じ合ってしまった。
あれ? なんか考えてること、一緒くさい。
まさか…
まじか…
ニュース配信元「ヨフー総合研究所」
…
「電車、発車しまぁ~す」
…
「あああ!」
「うあ!」な、何!?
し、しまった。降りるの忘れた!!
ちょちょ、ビビらさないでよ!! 声出ちゃったじゃん!!
…駄目だ、完全にタイミング逃した。
このお猿! あたしの寿命返せよ。
思わず立ち上がっちまった。だせぇ。
ゴトッ
…え?
あ!
…な、な、な、な、
し、しまった!!
し、しかも、なんか映画で観たことあるゴッツいやつ!
お前、見た…よな。
見た。見ました。見なきゃよかった!
やっぱりな…チンピラからの護身用だって言っても信じないな。
しまたって、もう遅いよ…こいつまさか。
まぁ見られたもんは仕方ない。
ひ、人殺して逃げてきた、とかじゃないよな。
人殺したとか思われてんだろうな…
ア、アタクシ、一人なんですけど。
あーあ、びびっちゃって。誰もお前なんて襲いやしねーよ。
あの赤いフード、まさか返り血じゃあ…
そんな棒構えたって、俺には無意味だってーの。
「まもなく終点~、
あっ…着く。
もう来たのか…
ガタン。プシュー…
「到着~
…
着いた。
着いちまった。
…行こう。
仕方ねえ、行くか。
実家へ。
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