Part.2 美人のお嬢さんを口説いてみたらまさかの結果に

私、唯野 凜。好きな食べ物はチキンカツ。

……え?だから小鳥を飼ってるのかって?

違うよ!?食べないよ!



   *



今日は良い天気。

こんな日にこそ外に出ないと勿体ない。

天気を晴れに変えるのって結構面倒だからやりたくないよね。


「アノンちゃん、一緒に出かけよ?」


飼っている小夜啼鳥サヨナキドリの名前を呼び、鍵も付いていないのに無闇やたらと頑丈そうな鳥籠の前で手を伸ばす。

手に乗ってきた小鳥を肩に乗せ代えると、小型カメラとピンマイクを身に付けて家を出た。

外出時にも動画の事は忘れはしない。




「さて、街中まで来た訳だけど……

何しよっかなぁー?」


普段の動画より控えめなテンションでマイクに向けて語りかける。


「あ、何か面白いことが思いつくまではペットのアノンちゃんを映しておくから見て楽しんでてねー?」


このまま何もなくとも癒し回として配信できるという計画である。


「よしよし、ホントにおとなしくて良い子だよね。

かわいいなぁ……」


「えぇ、かわいい子ですよねぇ?」


カメラに良く映るように撫でていると、いつの間にか見知らぬ女性が近付いて来ていた。

表情は緩み切っており、口からは涎を垂らしている。


「そういうお嬢さんも可愛いね。

てかどこ住み?LINEやってる?」


「いえいえ、この子ほどでは……って、私今口説かれてます?」


「まあ、そんなところかな。実は今、動画を撮ってるんだけど、ちょっと出演してくれないかな?」


見知らぬ女性は苦笑いしている。


「いいですよ。その代わり……というのも変な話ですがジャパリパークの広報担当として公式配信者になって貰えませんか? 唯野凜さん」


「ガイドさんの服装だから関係者だとは思ってたけどそのお誘いは予想外だったよ。

私のことも知ってるみたいだけど本当に良いの?

動物とか関係ない動画の方が多いよ?」


「構いません。そんな自由フリーダムなところがウリですから。

――パークの魅力、伝えてみませんか?」


満面の笑みと共に手を差し出すガイドさん。

申し出ている内容も良いことづくめなので迷わず手を取り、握手に応じた。


「ところで、何でガイドさんがスカウトを?

勝手にやってて偉い人に怒られたりしない?」


「ああ、申し忘れてましたね。

私は新人ベテランパークガイドのミライと申します。

ある飼育員さんの言葉を借りるなら “ 結構偉い ” ので必要に応じてスカウトを行う権限を頂いているんです」


このミライという女性のパークガイド歴は長く、まさしくベテランパークガイドである。

しかし、ベテランパークガイドと呼ばれるようになってから日が浅い為、自ら『新人』と肩書きに付けているらしい。


「そっか、でもちょっと残念かな。

噂に聞く目付きが悪い所長との面接も免除だよね?

ダイナミック入室する動画とか撮りたかったのになぁ……」


「その点に関しては一般採用でも同じかと……

今となっては所長が全て統括できないほど大きな組織ですし、希望部署のトップが最終面接を行う事になるかと」


やりたい放題な発言に対して真面目な返答。

そんな会話がこの後もしばらく続く。

そして、それらが今回の撮れ高である。

ちなみにだがサムネイル画像は、サヨナキドリを手に乗せ涎を垂らしているだらしない表情のミライであり、一部のコアな視聴者がパークを訪れるきっかけとして思わぬ成果をもたらす事となった。


公式配信者としての立場を得、人気YouTuberに一歩前進(?)――

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