ススキノライフ

秋鹿 慧

プロローグ

 日本で最も巨大な繁華街、そしてアジア最北の繁華街と呼ばれるススキノの夜は長い。他の地区が暗闇で覆われいるが、真夜中でありながら此処だけはつねに明かりが尽きることは無い。ビルのネオンが光り、電柱が数メートルの間隔でついている。

 そして、深夜でありながら飲食店はまだ営業している。居酒屋、大衆食堂、BAR、クラブ、そしてキャバクラ。

 夜が明けたとしても人々が酒を飲み、話し声、笑い声と怒鳴り声が響きあう。それがススキノの日常である。

 そんなススキノで深夜に働く一人の男。ある時は居酒屋の臨時アルバイト、ある時は臨時バーテンダー、ある時はキャバクラの臨時黒服。そして今日は臨時無料相談所の紹介人。

 それが私、相川団三郎あいかわだんざぶろうである。ススキノで定職に就くことはない。それは縛られることのない野良猫の如く楽な生活。衣食住さえあれば他はいらないというのが私の格言であり、アンデンティティである。

 好きな時に仕事をし、その日の気分で仕事を決める。そして今日の仕事が終わる時刻がやってきた。

 「はい。これが今日の日給だよ。また困った時はよろしくね。相川君がずっとこっちで働いてくれたらなぁ。」

 「ありがとうございます。それじゃあまた。」

 無料相談所の店長に塩対応の挨拶をして家路にむかう。

 それが私のススキノでの日常。生活。



 ――――そんな日常だけなら本当に良かったのに。





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ススキノライフ 秋鹿 慧 @akisika0702

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