143.帰還
エルフの森の異変から、約三ヵ月がたった。この世界での騒動もこれで終了だ。
フィルミアンの大聖堂で、壮大な送別会が行われた。
魔導船航路のおかげで、史郎と勇者達のかかわりのあるすべての人たちが集合できたのだ。
「それじゃあ、いろいろあったけど、無事収まってよかったよ。いろいろ助けてもらってありがとう」と史郎が真琴達にあいさつする。
勇者たちは、一段落したあとは、ここ数日はリラックスしたひと時を過ごしていた。そして、もちろん帰る準備もだ。
「貴重なすごい体験でした。でも、あんまり勇者パーティーらしいことはしてないけど」と正明が笑いながら言う。
「ほんとほんと」と真琴。
「ほんとにね。でも、真琴は、聖剣を思う存分に振り回してたから満足したんじゃない?」と美鈴。
「いや、まあ。……美鈴さん、なんか容赦なくなってきてないですか?」
「ははは。まあ、今回の事で、あなたの事もちょっとわかってきたし。さすが姉弟ね、とみなおしたわ」
「ちょっと、美鈴。それどういう意味よ!」と琴音。
「何言ってんのよ、あんたたち、二人とも予想の斜め上を行く戦い方をしてたくせに。異世界に来てなかったら気づかなかったわ」と美鈴。
「……でも、勇者様、かっこよかったですよ?」とエミリアが少し顔を赤らめて言った。
「……ありがとう」と真琴。同じく少し顔が赤い。
「あのね、あんたたち、そういうことは二人だけの時にしてよね」と美鈴。
「あー、それと、身体の変換はもとに戻らないから、地球に戻ったらそれなりの身体能力を持つことになるからうまくごまかすように注意するようにな。ただ、魔術関係は地球ではまったく使えないからそのつもりで」と史郎が説明した。
「それで、戻ったら元の時間という理解で合っていますか?」と美鈴が聞いてきた。
「ああ、そのとおりだ」
「まあ、ともかく、俺も戻ったらみんなに連絡するから、その時に今後のことでも話をしよう」
「「「「はい!」」」」
「琴音、俺も地球に戻ったら連絡するから」史郎は琴音に話しかけた。
「……はい、待ってます」と琴音は今にも泣きだしそうな顔で言った。
「いや、すぐだからね? 戻ったら時間差はほとんどないからね?」
「……はい」と琴音。
「はぁ、琴音は涙もろいからなー。大丈夫です、史郎さん。私が面倒見ときますので!」と美鈴が明るく言った。
「琴音、美鈴、真琴さん、正明さん、ありがとうございました!」とシェスティアが四人に話しかけた。
「シェスティアちゃんも元気でね!」と琴音。
「コトネも」とシェスティア。
正明はミラーディアと、真琴はエミリアと、そして、美鈴はスティーブンと、特に長い別れのあいさつをしている。みな、名残惜しそうだ。
なお、当面の間、手紙のやり取りはできることになっている。女神様の計らいだ。そして、世界の行き来の可能性――これは史郎次第ということになっている――も残されているので、悲しみの別れにはなっていない。
彼らの様子を見ながら、史郎は若いなーと感慨深げに見ていたのだが、ミトカが、史郎、おじさん臭いこと言わないでくださいとつっこまれ、まあ、俺もまだ若いよねと思うのであった。
それぞれ関係者と別れのあいさつがひととおり終わり、史郎はそろそろかと思い、全員に話しかけた。
「それじゃあ、今から送還の魔術を使います」
史郎、シェスティア、ミトカの三人が三角形の位置に立つ。
史郎が詠唱を唱え始める、と同時に、三人の間に光の帯がつながり、円状につながる。
そして、勇者たちの立っている場所に魔法陣が光り輝いた。
「【送還】!」
と史郎が唱えると、勇者たちの体が光り輝き、一瞬の後、全員が魔法陣の上から消えた。
光が治まった後に、
『史郎さん、彼女たちは無事に元いた場所に戻りました。時間もスタートしました。時間の流れは、当面フィルディアーナの四百分の一ですね』と地球の管理をしているイサナミアから史郎に連絡がきた。
(イサナミア様、ありがとうございます)と史郎はお礼を言った。
「全員、無事地球に戻ったようです」
と、史郎はその場にいた人たちに告げるのであった。
◇
「じゃあ、みんな、いろいろありがとう。いったん俺の世界へ帰るけど、また来るから」
史郎はそう軽く言い、皆に別れのあいさつをする。
「シロウ、ミトカ、待ってる」とシェスティア。泣きそうな顔をしているが、でも、しっかりと史郎を見つめていた。すぐ横には、シェリナとアルティアが、微笑を浮かべて彼女に寄り添っている。
「ああ、すぐ戻ってくるから」と史郎はシェスティアをハグしながら、ささやいた。
「シェスティアも元気でね」とミトカ。彼女もシェスティアとハグをする。
「シロウ、またね」とアリア。
「シロウ、世話になったな」とアルバート。
みな、それぞれに史郎に感謝の気持ちを伝え、名残惜しそうにする。
そこへ、女神フィルミアが降臨した。
「シロウ、準備はいいですか?」とフィルミアが聞いた。
「はい。では、みんな、また!」と史郎が言った。
その瞬間、フィルミアとともに、史郎とミトカが消えたのであった。
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