141.神界にて2-解決

「さて【リムーブスター】スキルですが、イサナミア様が作られたものですよね?」と史郎は、イサナミアを見つめて問うた。


「……そうよ」とイサナミアが認めた。


「え! そうなの? あなた、なんでそんな危険なものを?」とフィルミア。


「はぁ、先輩。仕事が忙しすぎてボケが始まったんじゃないですか? それに、サティアス師匠もです!」とイサナミアは真剣に怒った表情で言った。


「え? それは、どういう……」とフィルミアは動揺する。いつもより真剣なイサナミアの表情に、戸惑ったのだ。

「え? わしも?」とサティアスも困惑した表情だ。


「昔、フィルディアーナ創世期の頃、サティアス師匠とフィルミア先輩が、龍の強さについて長い間言い争い……議論してた時に、フィルミア先輩が考えてサティアス師匠に渡すといってたものじゃないですか。サティアス師匠、覚えていますか? 『龍族はかっこいいんだ、だから、強力な最終兵器魔術がいるじゃないか』って言ってましたよね。そして、フィルミア様も、最後には根負けして、それいいかもって、笑って言ってたじゃないですか?」とイサナミア。


「「……」」サティアスも、フィルミアも、すっかり忘れていたという表情で、驚いた顔をし、「あ!」「おう!」と声を出す。


「あ、あの議論は冗談だったんじゃないの?」とフィルミア。

「わしは真剣だったが?」とサティアス。


「まあ、とにかく、リムーブスターのスキルはその時に作ったものですよ。まさか龍が精神異常をきたし、世界樹に対してコマンドを実行するとは思いませんでしたけどね。しかも、そもそも非常識な膨大な魔力が必要で、事実上使えないはずだったんですよ? まあ、削除範囲の初期リミッターを設定するのを忘れたのは、私の責任ですけど」とイサナミアは言った。


「本来は、削除対象の指定がいるんですが、イベリアの精神状態のせいで、全てになってしまったんですね。さらに、瘴気大発生があったために、大量の瘴気魔力変換ウイルスが発動し、膨大な魔力が供給され、スキルが使えてしまった、ってことですね」と史郎が締めくくる。


「さて、もう一つ、イサナミア様。魔術精霊の術式のアップデートの手順ですが、テストせずに術式をコミット正式登録しましたね?」


「え? どうしてそれを?」とイサナミアは、驚いた。

「……イサナミア、あなた、またやったの?」とフィルミア。


「まあ、手順の問題は女神様たちの問題なのでいいんです。問題は、そのコードですが、バグってますよ。今回のケースは、『魔獣が魔獣を倒したときに、両方がウイルスHに感染していて、精神汚染が発生しており、倒された方が仮死状態になった場合の、瘴気精霊の取り込み問題』ですね」と史郎。


「……あなた、どうやってそんなケースを突き止められたわけ?」とイサナミア。

「……あぁ、さすがに神に近い設計をするだけあるわね」とフィルミアが感心する。


「まぁ、デバッグには自信がありますよ。こう、ぱっと閃くんですよね」と史郎は、エンジニアらしくなく、いや、エンジニアらしく? 答えた。


「まあ、冗談です。実際は、トレクト・ランスの大量異常のせいで、調査用のサンプルが膨大だったんですよ。そして、トレクト・ランスに倒された魔獣がですね、こう、トレクト・ランスの枝に引っかかったままというのが多くて、うまい具合に両方が異常個体というケースが見つかったんです」


 あるトレクト・ランスが、土魔術を撃ってきた。本来、トレクト・ランスは魔術を使えない。

 疑問に思った史郎が、そのトレクト・ランスを調べると、枝に突き刺された魔獣が見えた。

 その魔獣は、土魔術を使う魔獣だ。


「そこで、思いついたんですよね、もしかして、異常な魔術を使う魔獣って、ほかの魔獣からスキルを取り込んだんじゃないかとね。で、両方の魔術精霊を調べました。そうすると、バグが見つかったんですよ。魔獣から魔獣への経験値の取り込み時に、相手が仮死状態の場合は本来は取り込めないはずが、ウイルスHでの状態異常で『仮死』の場合、取り込んでしまうというバグですね。その部分のコードは、ご丁寧に、イサナミア様の魔法陣特有の流儀までそのままでした」


「はぁ、あなたね、あれほど、コードを登録する前にはテストしてね、って言ってたのに」とフィルミアがあきれた。

「……すみません、先輩。でも、このケースは例外中の例外のような気が……」とイサナミアはどうしろと? という表情だ。


「もっとも、それは問題の半分です。フィルミア様、『精神汚染が発生しており、倒された方が仮死状態になった場合』などの処理における、例外処理の記述がまったくありません。なので、その場合に、想定外のプロトタイプの上書きが起こってしまって、取り込んだスキルが鑑定で表示されないんです。一時的複数魂のエンティティ接続時のバグとでも言いましょうか」


 と、史郎は説明した。


「……あなた、良くそこまで調べたわね」とフィルミアは半分あきれ顔だ。


「ははは。そういうのは得意です」と史郎は、本当に得意そうに笑顔になった。そして、続けた。


「まあ、結局のところ、今回の騒動の原因は、過去の不幸な遺産と、偶然による事故ですね。そして、一部のバグ。事が大きくなったのは神様たちの責任でしょうが、まあ、神様であっても仕方がないこともある、ということでしょうか?」


 史郎はそう締めくくった。


「……そうね」「……そうだな」「さすが史郎君!」と三者三様の反応だった。



「あ! ちなみに、ウイルス・タイプH用ワクチンはできそうです。さらに、タイプMとタイプCですが、魔石化ウイルスを組み合わせて、魔石の大量生産新種キノコということで、魔導具の発展に期待できそうです。なので、結果良しとしましょう!」

 と、史郎が言った。


「ははは、史郎、さすがじゃ。神をもしのぐ世界システムの設計を成し遂げる能力、だてじゃないな。しかも、探偵もどきもできるか? そして、最後はうまくまとめよって」と宇宙神ユニティアが笑って言う。


「さて、わしからは史郎に褒美じゃ。わしもずっと最先端の世界であるフィルディアーナの事は気になっておってな、見守っておったのじゃが、神にも解決できなかった事、無事解決した褒美はすごいぞ!」とユニティア。


「史郎、おまえには、神見習いの資格を与えよう。見習い世界管理者じゃな。そして、第四世代サブ・アーキテクトとして、こいつら三柱の神との共同開発で力を貸してやってくれ。ちなみに、見習いを終えると、いずれ自分の世界を持てるぞ」と、ユニティアが言う。


 そして、と続ける。


 ― ミトカ:人化の魔術。ボディは昔フィルミアが作った神人族の体で容姿をミトカに修正したもの。生体の体も使えるようになり、また、すべての方法を混在できる。史郎のサポート天使という地位だ。

 ― シェスティア:フィルミアの使徒の称号、史郎の加護

 ― 琴音:イサナミアの使徒の称号、史郎の加護


「最後に、フィルディアーナと地球の時間を同期、行き来できるようにする許可を与えよう。二つの世界をしっかりと楽しむんじゃな」とユニティアが締めくくった。


「え、マジですか? なんか、とんでもない報酬のような気がしますが……」

「……先輩、神様になるんですか?」と琴音は少し茫然としている。

「さすが、私のシロウ、すごい」とシェスティアは、うれしそうだ。

「……どうして、私だけ、ボディが増え続けているのでしょうか?」と、いまいち納得できないミトカ。顔は笑顔だが。


「でも、フィルディアーナと地球の間を行き来できる事は有り難いです。仲間もたくさん増えたし、フィルディアーナ世界は俺も気に入りました。まだ行っていない場所もたくさんあるし」と史郎は、心底うれしそうに言う。


「行き来の件は、私とイサナミアで調整するわ。準備が整ったら迎えに行くわね。それに、神見習いの件は、私たち三神で指導するわ。アーキテクトとして、設計・実装にも参加してもらえるなんて、私には願ってもないことね!」とフィルミアもうれしそうに言った。


「シロウ君、よろしくね!」とイサナミア。

「ああ、今さらながら、初めまして、かの? わしがサティアスだ」とサティアスが握手を求めてきた。

「えーっと、シロウです。よろしくお願いします」と史郎も返す。


「では、そういうことで、また今度じゃな」とユニティアが言うと、みなは、元の場所へ転移で戻っていったのだった。

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