140.神界にて1

 フィルミアとイサナミアが、サティアスのいる空間に転移してきた。


「サティアス! あなたなのね、フィルディアーナの破壊をもくろんだのは!」

 フィルミアがサティアスに向かって突っかかっていく。


 突然現れたフィルミア、そしてその剣幕にサティアスは驚いた。


「え? いったい何の話をしているんだ?」とサティアス。


「とぼけたって駄目よ! 龍族はあなたの支配下よね? それに微生物の魔術との結合についてずっと調べていたのは知っているわ。あなたがあのウイルスを作ったのでしょう? それに、龍が使ったあの【リムーブスター】スキル、あなたが与えたんじゃないの?」とフィルミア。


「……だから、一体何の話なんだ?」とサティアスは、再び聞いた。


「あなた、第四世代をずっと敵視してたじゃない? だから、失敗するように画策したんじゃないの?」


「……いや、なんでそんなことをする必要があるんだ? 第四世代は素晴らしいじゃないか。最近その良さが分かってきてな、ちょっと何か面白いことができないかと調べていたのだが……。一体何が起こっているんだ?」とサティアス。

 本当に何も知らないという顔だ。


「……」

 フィルミアは、その顔を見て少し怒りが収まる。フィルミアも、一体どうなっているんだ? と、疑問に思い始めた。


「はぁ、先輩、だから言ったでしょ。サティアス師匠はそんなことするような神じゃないって」

 イサナミアが溜め息をついて言った。


「何があったか知らんが、龍を担当したのは、フィルディアーナ初期構築の頃だろ? あの世界での時間で、もう二千年以上前の話じゃないか。初期設定以降とくに接触していないぞ? それに、わしでもウイルスはそう簡単には作れないし」とサティアス。


「じゃあ、ウイルスに瘴気発生の魔法陣を組み込んだのはあなたじゃないの?」とフィルミアが詰め寄った。


「いや、瘴気変換の魔法陣なんて知らんし、わしには魔法陣は作れん。わしはウイルスの専門家じゃないしな、そもそもフィルディアーナにどうやって持っていくのか知らない。それならイサナミアが専門じゃないのか?」とサティアス。


 フィルミアはいくぶん冷静になり、考える。

 確かに、サティアスには、魔法陣は無理だ。そもそも、作ったウイルスをフィルディアーナに持って来るというのは……、と考えて、


「……イサナミア、ちょっと質問があるんだけど」と、イサナミアを見てにらむ。


「……何でしょうか、先輩?」と、イサナミアは無表情で聞いた。


「あなた、もしかして……」とフィルミアは言いかけて、言いよどんだ。


「先輩、落ち着いてください。私は何もしてませんよ?」とイサナミア。いい加減にしてくださいと言う表情だ。半分以上、怒りの色が混じっている。


 そして、イサナミアがそう答えた瞬間、突然その空間にある気配が現れた。


「「「!」」」


 三柱の神は、その気配に驚愕する。すべての神の神、宇宙神ユニティアが現れたのだ。そして、ユニティアとともに、史郎、ミトカ、シェスティア、琴音がいっしょにいる。


「そこまでじゃ。みな、落ち着け」とユニティアが声を発した。


「ユニティア様? どうして、ここへ? しかも史郎さんたちまで神界へ?」


「ああ、お前がサティアスの空間まで殴り込みをかけたのを知って、止めに来たんじゃ。ちょっとは落ち着かんか」とユニティアはフィルミアを叱った。


「……はい」とフィルミアは返事した。


「フィルミア様、お久しぶりです。フィルディアーナでの問題、解決しましたよ。なので、報告です」と史郎が言った。


「え? 解決? 確かに崩壊はとうとう免れたけど、そもそもその原因はサティアスじゃ……?」


「いえ、違います」と史郎。


「え? 違うの? じゃあ、イサナミア?」とフィルミア。


「……違います」と史郎。


「フィルミア先輩、やっぱり私の事も疑ってたんですね?」とイサナミアはジト目でフィルミアを見た。


「……いえ、違うのよ、でも、サティアスの言うとおり、あなたしか両方のシステムのエキスパートはいないし……」


「……フィルミア様、とりあえず落ち着きましょう。説明しますから」と史郎は言い、皆に事の顛末を説明し始めた。




「まず確認したいんですが、勇者召喚魔法陣ですが、イサナミア様が作ったんですよね?」


「そうよ。今は無効化してあるはずよ」


「はい。それは分かっています。魔法陣の一部にみられる独特の記述方法、イサナミア様流ですか?」

「へぇ、良く気付いたわね。そうよ」とイサナミアは誇らしげに笑顔で答えた。


「じゃあ、女神様の小屋の魔導具もイサナミア様が?」


「小屋の魔導具? それは何なの?」とフィルミアが聞く。


「いえ、小屋に便利な魔導具がたくさん付属してたんですが、それについては有り難うございました。便利に使わせてもらっています」

「そうよ。私の魔法陣ね」


「じゃあ、ウイルスのマナ瘴気変換の魔法陣も、ウイルスと最初のマイクロ魔法陣の技術は、イサナミア様の物ですね?」


「え⁉ そうなの?」とフィルミアが驚く。


「はあ、そうです。先輩、覚えていませんか? マナ魔力変換の効率化の議論をしたことがあったじゃないですか? あの時に、瘴気からのルートの可能性でアイデアを出し合いましたよね? あれですよ」


「……そういえば、そういう議論もあったわね。すっかり忘れていたわ。でも、実際に魔法陣は作らなかったはずじゃあ?」

「えーっと、作っちゃいました」とイサナミア。

「え? ……あなたね!」

「でも、作ったといっても、先輩、当時、神託でよく渡してた、コンセプトコードですよ。それを魔人族の研究者に与えただけなんです。彼らが完成させるとは思いませんでしたよ」とイサナミアが肩をすくめて言った。

「ああ、結局イサナミア様のせいなんですね?」と史郎。そして、


「それでですね、そのウイルスと問題の魔法陣ですが、それが、マギセントラル瘴気大爆発事故の元凶です」と史郎が言った。


「え! そうなの? いったいどうして……」とフィルミアとイサナミアは驚いた。イサナミアもそんなはずはないという顔だ。


「まあ、事故なのでその点については議論しても仕方がありません。ここで重要なのは、その時にそのウイルスが世界中にまき散らされた、という点です」と史郎。


 ウイルスは三種類見つかった。


 タイプM:キノコに感染し、キノコが水にぬれた際に胞子放出の際に、同時に瘴気を発生する。

 タイプH:タイプMが突然変異したもの。生物に感染し、体内に瘴気を発生させ、魔力枯渇と精神異常を引き起こす。

 タイプC:タイプMが突然変異したもの。シルバー・ファイアフライが発する特定周波数の光に反応し、瘴気を発する。


「もともとのタイプMだったのが、事故後、自然界にまき散らされた後、タイプCに突然変異したんだと思います。そして、そのタイプCが過去の、魔獣増加の原因ですね。周期的な大発生は、シルバー・ファイアーフライの30年の繁殖周期と龍脈の振動の周期と一致しているのは確認しました」


「何てこと……。まさか、ウイルスレベルの瘴気発生なんて、考えていなかったわ」とフィルミア。


「そうですね。DNAベースとエンティティベースの統合がうまく行き過ぎたというところでしょうか?」


「ははは。そうだな。わしもそれは思ったぞ。調べてみて思ったのじゃが、第四世代世界システムはできすぎじゃ。ははは」とサティアスは豪快に笑った。


「それでですね、アドラとイベリアとも話をしたんですが……」


 アドラとイベリアは、単なる家出だった。


 結局、スタンピードは、ウイルスタイプHに感染し、体調不良・精神異常になったアドラとイベリアが助けを求めるにあたって、史郎やシェスティアの強大な存在を感知しそちらへ向かったため、結果的に魔獣を追い込むことになったために起きた。


「ですので、特にドラゴンたちが、サティアス様の指示で動いたという事実はありません」と史郎。


「……じゃあ、なんで、邪神教とかタイミングとか……」とフィルミア。だんだん声が小さくなる。


「ああ、邪神教ですが、例の結界破壊グループの集落は、アドラとイベリアにいろいろ助けてもらっていたみたいですね。それで、彼らが龍の祈りでサティアス神の事を口にしていたのを聞いて、勝手に信仰し始めたみたいです。彼らは、具体的にサティアス神がどういうものかさえ分かっていませんでした。単に、助けてもらった龍への忠誠のようなものでしたね」


 そして、と続ける。


「スタンピードと結界破壊のタイミングが一致したのは、偶然ですね。これに関しては、奇跡的とでも言いましょうか?」


「……」フィルミアは黙り込んだ。


「ちなみに、龍達の移動経路が分かりました。ここ10年の瘴気上昇と魔獣発生は、彼らが移動時にウイルスに感染、それを広げたためだと思われます。実際に移動経路とキノコの分布などが一致します」

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