第七章 邪神/最終決戦/解決編

134.シルバー・ファイアフライ

 学園都市のポアンカレ大図書館に通うことは、史郎の定期的な活動になっていた。


 史郎は、まだ調べていた。瘴気大発生の周期には、何らかの原因があるはずだと。


 この日は、珍しく、アリアとアルバートも参加した。彼らは先日大きな依頼を終え、休暇中だ。たまには史郎に付き合おうかという軽い気持ちだった。


 そして、さらに、勇者たちやミラーディアとエミリアも参加している。アリアとアルバートが来ると聞いて、久しぶりに集まろうという話になったのだ。


 なので、全員が大図書館を訪れた。




「それで、今調べていることは何なの?」とアリア。


「ああ、世界的な瘴気大発生が過去に定期的に発生しているんだが、その原因が何かを調べているんだ」と史郎が説明した。


「で、ほかに似たようなサイクルのある現象が何かないかと?」とアリア。


「そのとおり」と史郎。



 そういう訳で、各自思い思いに資料を探すことにした。これまで見つからなかったので、各自の自由な思いつきもいいのではないかということになったのだ。



 しばらくして、皆が再び集まる。見つけた資料を持ち寄った。


 まず、アルバートが昆虫図鑑とともに、シルバー・ファイアフライについて、昔ソフィアに聞いたことがある、と話し始めた。


「シルバー・ファイアフライですか?」と史郎。そして、


「それって、もしかして俺たちが出会って間もないころに、ソトハイムに向かった時の最初の日に見た、あの光る昆虫の魔獣か?」


「そうだ」とアルバート。


「あの昆虫だがな、定期的に大発生するとここに書いてある」と皆に図鑑を見せた。


 図鑑には、理由は分からないが、約30年おきに大量はんしょくする、と記述されており、過去観察された詳細が記録されていた。


『大はんしょくの年は、分かっているだけで、神聖歴920年、950年、980年、1021年、1190年、1230年、1270、最後が神聖歴1302年だな』とアルバート。


「おー、なるほど……」と史郎は考え込んだ。


 史郎は、あの日、強迫観念に駆られるように走って、シルバー・ファイアフライを目撃・確認した件について、ずっと不思議に思っていたのだ。なぜ俺はそこまでしてあれを目撃する必要があったのか、と。決してシェスティアをお姫様抱っこして走りたかったからではないはずだと。


 そして、今アルバートが読み上げた年に聞き覚えが……。


 史郎が考え込んでいると、


「シロウ様、私も一つ、サイクルについて知っていることがあります」とエミリア。


「おぅ、それは何のサイクル?」


「はい、この世界には龍脈があるのはご存じですよね。そして、龍脈の勢いには強弱があり日々変動しているのですが、長い目で見た場合に、『龍脈の振動サイクル』というものがあることが知られています」


「へー、で、それが資料?」


「はい。この話は神官の間ではよく知られている話なのですが、私も具体的なことは知らなかったのです。でも、一つ資料を見つけました。それによると、約300年ごとに一度、龍脈の放出の強い年があります。最後の年は、神聖歴1021年。前回、魔獣の氾濫による世界の壊滅危機があった年です」


「なるほど」と史郎。


「史郎、その二つのサイクルの、最後の年から推測される次の年ですが、シルバー・ファイアフライの大量繁殖も、龍脈の振動サイクルも、神聖歴1331年。つまり、今年ですね」とミトカ。


「え? そうなの? あぁ、よく考えたら、この世界の神聖暦の事はあまり意識してなかったな」と史郎。


「両方のサイクルが一致する時期? 何か嫌な感じ」とシェスティア。


「そうだな。シルバー・ファイアフライはどこで……」と言いかけて、史郎はふと気づいた。

「シルバー・ファイアフライって紫外線を出してたよな! もしかして……」


 史郎は、血相を変えて図書館の中庭へ出ていく。

 皆は、何事かと急いで史郎の後をついていった。


 史郎は、中庭へ出ると、インベントリから、確保してあったキノコの塊を取り出す。そして、それにシルバー・ファイアフライの光を模したスペクトルの光を当ててみた。


 すると、一部のキノコが淡い光を発し、瘴気を発生し始めた。


 史郎は、急いで光を止め、キノコを結界内に移した。


「史郎、瘴気を発したキノコに、新たなウイルスを見つけました。ウイルスCと呼びましょう。シルバー・ファイアフライの光のスペクトルで瘴気を発するようですね。ウイルスMのキノコよりも瘴気発生効率は数倍高いです」とミトカが分析した。


「シロウ、これは……?」とアリアが聞いた。

 ほかの皆も不思議そうに見ている。


「ああ、別の種類のウイルスだな。おそらく、ウイルスMだけだと、瘴気が発生するといっても、まだ対処範囲内なのだろう。だが、このウイルスCとシルバー・ファイアフライの組み合わせは非常にまずい。これは、対処範囲を超えた瘴気を発生するんだろう、そして、それが魔獣の大氾濫につながるんだ。だから、30年おきのシルバー・ファイアフライの大繁殖に合わせて、魔獣の氾濫が起きていたんだな。そして、その、龍脈のサイクルが最大値に達する時はさらに被害が拡大する。それが、前回、1021年だったんだ。


「シロウ、じゃあ、今年は危険?」とシェスティア。


「ああ、危険な年だ。実際今まで起こっている現象は、このせいだと思う」と史郎。



「シロウ、エルフの森でのシルバー・ファイアフライの大量発生の記録があるわ。それに、エルフの森には、シルバー・ファイアフライの観光になるくらい多くいる地区があるのよ。もし、そこに、その例のキノコの繁殖が進んでいたら……」


「ああ、まずいな……。緊急報告だ。そして、エルフの国に調査を依頼しよう」


 こうして、史郎達は急いで報告に動くのであった。


 彼らの心の中には、焦りが生じていた。今、エルフの森が危ないのでは? と。

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