132.その他の国々

 残りの国々は、特に大きな出来事もなく回ることができた。


 ――竜人国:ドラゴニア王国――


 竜人国は、魔の大樹海の北部山脈を越え、さらに北にある国だ。


 竜人国では、連邦への加入については、アメリアが説得した。もともとアメリアは竜人の国と交流があり、しかも、人化できる。さらに、竜人国は龍を崇拝している。

 なので、アメリアが、竜人国の連邦への参加を頼むと、基本的に了承するのであった。


 もちろん竜人国にもメリットはある。まずは、主に食料の輸出入。竜人国でとられる北の海の幸の輸出と他国からの食料の輸入。

 これまでは街道が険しく、食料品の流通は難しかったので、この点は竜人国にとっての最大のメリットだ。


 もう一つは、飛竜便・地竜の輸送との協業。郵便物を魔導船で運び、末端への配達を飛竜が行う。


 また、飛竜、そして、馬車より強力な引き手として使われている地竜の運搬だ。これまでは、飛竜や地竜に何かあった時には諦めるしかなかった。だが、魔導船を使うと竜人国まで運ぶことができるのだ。


「なるほど。飛竜・地竜用の救急車か。いや、待てよ、救急システムはすべての種族に対して使えるんじゃないか?」


「そうですね。シロウ様、それは素晴らしいシステムです。ぜひ、お願いします」とエミリア。


 その後、神殿ネットワークの治癒院と協力し、救急ネットワークが構築されるのであるが、それは別の話。




 ――ドワーフの国:メテリオール王国――


 ドワーフの国、メテリオール王国は、ヘインズワース王国の西、山脈地帯にある小国だ。豊富な高山地帯に位置する国で、武器屋防具をたくさん作っている国だ。


 ドワーフ国は、ある意味、簡単だった。鉱石、魔鉱石、ミスリルとオリハルコン。これを見せただけで、連邦への加盟は、あっさり了承した。


 さらに、史郎が魔剣を一本献上すると、どうやって作ったのかをしつこいほど聞いてきて史郎を離さなかった。


 結局、史郎が作成過程を見せて、今後指導するという約束をする羽目になるのであった。


 ドワーフ国からは、武器防具の輸出。そして、食料の輸入をメインに魔導船航路を利用することで話がついたのだった。




 ――商業連合都市国家フェリオリンズ――


 魔導船で貨物便を特別提供することと、各国の流通の管理を任せることを提案すると、連邦加入に関しては即了承した。


「箱馬車サイズのコンテナに荷物を載せて、運ぶようにすると、効率が上がるので、そういうふうに規格化ができますか?」と史郎は提案した。


 既存のグリフォン便も、飛竜便と同じく、魔導船による協業形態で合意がされるのであった。


 以後、この世界の流通・物流が飛躍的に伸びて便利になることになる。




 なお、フェリオリンズでは、シェスティアが、海の幸を食べたいと言い張り、レストラン巡りをすることになったのだが、その話は別の機会に。


 ちなみに、この世界では、なぜかレストランの形態が普及している。比較的安定した物流システムと、高い文明、平和的な世界情勢が娯楽文化を育んだためである。




 ――獣人国:ビスタイル王国――


「「すごい! ケモ耳美女がたくさん!」」


 真琴と正明が興奮して叫ぶ。二人とも走って行きかねない勢いだ。珍しく正明も興奮している様子だ。


「ちょっと、落ち着いて二人とも」と美鈴が言った。


「……はっ! すみません。僕としたことが、思わず……」と正明が冷静を取り戻す。


「……マサアキは、獣人族が好みなんですか?」とミラーディアがジト目で正明を見つめる。


「え⁉ い、いや、そういうわけではなくてですね、いわゆる日本人男子高校生としましては、ケモ耳の人を実際に目にすると、反応せずにはいられないというか……」としどろもどろに言った。


「……まあ、気持ちは分かるはね」と同じように興奮してうずうずする琴音。琴音はモフモフが大好きなのだ。


「はぁ。仕方ないわね。元の私たちの世界には実際には目にしないからね」と美鈴はため息をついた。


「でも、王都にも、ケンブリアにも、どこにもいてたじゃないか」と史郎。


「いや、まあそうなんですけど。こんなに通り一面にいなかったじゃないですか。しかも、美女美少女があんなに……」と正明。


「……いや、まあ……。まあ、高校生の反応としては仕方ないか。まあ、ともかく落ち着いて行動するように」と史郎は二人にくぎを刺すのであった。



 獣人国は、ほかの国から見て南方、大陸の東方向に少し離れた場所にある。なので、交流が少なめだったのが、今回の加入する場合、多めの航路を設定することで了承を得られた。


 獣人国は豊富な南国の農業国で、ほかの地にない特産物がたくさんある。米文化、コーヒー、香辛料、数えきれないほどの種類があり、これまではフェリオリンズが何とか流通を回していたのだ。なので、フェリオリンズにしろ、ビスタイルにしろ、魔導船航路は願ってもない夢が実現することになるのであった。




 史郎達は、味噌と醤油と米を手に入れることができ、美鈴が料理がうまいこともあって、和食を堪能したのであった。


「美鈴、あなた、こんなに料理がうまかったの! 今度教えて!」と琴音が美鈴に言った。

「はいはい。史郎先輩の胃袋をつかまないとね?」と美鈴。

 琴音は思わず顔が赤くなり、

「……え? そんなんじゃないから……自分で食べたいだけから」と声が小さくなる。


 そのやり取りを聞いていた史郎は、

「へー、琴音の手料理か? いいなー、それ。俺も料理するのが好きだからいっしょに教えてもらうか?」と史郎は無邪気に言った。


「え! 先輩料理するんですか?」と琴音。


「ん? ああ、一人暮らしだからな。いつも外食や冷凍食品じゃ健康に悪いし」と史郎。まあ、地球での話だけれど。と史郎はつぶやく。


「……じゃあ、私頑張れば、先輩に食べてもらえるかも?」と琴音は小さくつぶやいた。

「じゃあ、わたしも。ヘインズワースの料理を作る」とシェスティアも言いだす。

「いいね、じゃあ、みんなで、それぞれの国や得意料理の教え合いだな!」と皆で話が盛り上がるのであった。



     ◇



「え? 模擬戦? 獣王とですか?」


「ああ、獣王ジーナ様自ら、使徒殿との手合わせをお望みです」

 と、使者の兵が史郎に言う。


 史郎は断ることもできず、応じるしかなかった。


 ――ああ、ファンタジー定番どおり、獣王は実力主義・戦闘狂かと、ため息をつく史郎であった。


「シロウ殿、手加減なしで存分にお願いしますぞ!」と獣王ジーナが言う。

「……わかりました。では、そのように」


 双方10メートル離れて対峙し、「始め!」の合図がかけられた。


 戦闘が始まった瞬間、ジーナは、史郎に突進し、正拳の突きを突き付けた。その速度は常軌を逸した速さだ。10メートルを一瞬で詰めたのだ。


 史郎は、それを難なく体をねじってかわす。そして、その手を取り、背中に突きを入れようとするが、ジーナは体を回転させ、史郎から離れた。


 そして、ジーナは、すぐに回転蹴りを入れようとするが、史郎はすかさず後ろに跳ぶ。

 それをジーナは逃さず、何かを撃つ構えをしたかと思うと、それを撃ち放ち、史郎にぶつかった。


「!」史郎は、それを両手で受け止めて、上方へ弾き飛ばした。

「気力弾か?」


 そして、もう一発放たれた気力弾も難なく弾き、今度は、史郎が気力纏を発動、さらに、気力弾を3発連続でジーナに向かって撃つ。


 それに驚愕したジーナは、避けようとするが、そのせいで隙を作った。

 史郎は、超高速で移動し、ジーナの後ろに着け、首の横に手刀を当てた。


「……参った」とジーナ。


「さすが、使徒殿。簡単にあしらわれてしまったな。私は、これでも獣人国では5番には入る実力を持っているのだが……。しかも、シロウ殿は、気功弾を使えるのか?」


「ああ、気力弾ですね。この国では、気功と呼ばれているのですか?」


「ああ、そうだ。一部の武術のマスターのみが使えるというふうに我が国に伝わっているスキルだ。獣人は魔力があまり使えないからな、その対抗手段だな」


「なるほど。ところで、気功、ああ、それは、本来、「気力」呼ばれるものなのですが、魔術と同じく、きちんと体系があるんですよ」


「ほう、そうなのか?」とジーナ。



 史郎は、その後、獣人国において、気術についての理論を解説し、感謝されることになる。

 これまでは、魔術に比べて気術は理論的な体系化が遅れており、劣ったものとみなされていたのだ。しかし、これからは対等な術として、そして神術への重要な段階として発展を進めることになるのであった。

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