131.アンドロイド・ミトカ

「で、ミトカ、どんな調子だ?」史郎は落ち着きない声でミトカに状況を聞いた。

「うまくいきませんね。いまいちパラメーターの適正値が良く分かりません」とミトカは答えた。

 そして、

「シロウ、あきらめましょう」と言った。


「そう、別にボディがなくても、ミトカは実体化できる」とシェスティアが言う。

「先輩。もういいじゃないですか。機械の体なんて、重そうだし」と琴音はよくわからないことを言った。


 珍しく、三人そろって、史郎に諦めろと迫る。


 すると、

「機械のボディに精神接続なんて、SF男子の夢だよ!」と史郎が反論する。


「史郎、私は着せ替え、いえ、『ボディ変え』人形じゃないんですが……」とミトカが言いかけると、


「これはミトカにしかできないんだ! 俺の夢だよ! 自分が作ったAIが機械の体で俺とともに生きるんだ! ミトカにしかできないんだよ! 愛してるから、な? ミトカ、頼むよ! なんでも言うこと聞くから!」

 と、史郎は興奮して、ミトカの肩をつかんで揺さぶり、ミトカに顔を近づけて、真剣に叫ぶが、自分が、あらぬことを言っていることに気づかない。


 琴音は「先輩って、コンピューターの話になると見境いがなくなるから……」とため息をつく。

 シェスティアは無言でほほ笑んでいる。


 顔を赤くしたミトカは、仕方ないですね、言質は取りましたよ、と言いながら、ボディの再走査をした。


 ミトカとシェスティアと琴音の三人が、ひそかに、ほくそ笑んで、うなずいていることに、史郎は気づかない。


「……わかりました。動作反応速度は約136分の一でちょうどの様です」


「え⁉ もうできたの? ……というか、反応速度って、そんなに遅いの?」と史郎は少し驚いた。


「いえ、ボディが遅いのではなくて、純粋な精神の速度がそれくらいに速いということですね。これでも、このボディは、生体である人体の100倍以上の反応速度ですよ」


「はあ、なるほど」と史郎はフィルミア様の言っていたことを思い出して、納得した。


「しかし、その体、見た目は機械っぽくないけど、一体どうなってるんだ?」


「骨格は人体を模していますね。材質はオリハルコンのようです。筋肉は、魔力で収縮する物質です。皮膚は魔力を通すと柔らかくなる物質で、しかも生体の皮膚のような材質ですね。なので、人体と同じような動きができて、人体より約100倍早く反応し、でも、人体の筋肉や皮膚のような柔軟性と、滑らかな外見が可能になったようです。そのおかげで、表情が作れます」

 と、ミトカは笑顔を浮かべ、説明した。

 新しいボディの最大の成果であっただろう機能は、この表情だ。このボディは、顔の表情が作れるのだ。


「ほう、それはすごいな。その物質を解析すればほかに応用が利きそうだ」と史郎は応用としてどんなことができるかと、思いにふけるのであった。



 ミトカのアンドロイドボディバージョンが無事起動したため、皆に披露した。



 ミトカは、昔史郎がデザインしたときのアンドロイド版のミトカのコスチュームを魔力纏で作り出し、それを着ているふうになっている。なので、見た目は、SFロボット美少女だ。


「元AIとしては、いちばんしっくりするボディではないでしょうか? 史郎にもらった最初のモデリングと同じですし。ちなみに、このボディ、各種センサー類が充実していますね。内蔵の魔結晶の魔力量もかなりの物ですね」とミトカ。


「これは、素晴らしい。ここまで人族に似たボディだったとは」とギルバートが驚く。

「そうですね。昔の技術者たちは頑張りましたね。……それにしても、なんか、SFチックで場違いな感じだな」と史郎。


「ミトカさんスゲー。美少女ロボット戦士って感じ?」と真琴。

「あぁ、確かにオタク男子高校生としては、見逃せない姿だな」と正明。


「へー、史郎先輩って、こういうのが趣味だったんですね。メイドが趣味なのかと思ってましたけど、こっち系ですか?」と琴音がジト目で史郎を見る。


「……いや、これは、本来ゲーム用だから。俺の好みとか……いや、まあ、そうなんだけど、それは別に……」と史郎は言いよどむ。


「いいんですよ、琴音さん。私は史郎の分身。史郎自身がコスプレしていると思ってください」と、ミトカが言った。


「……いや、ミトカさん、それは違うと思うんだけど……」と、美鈴がつっこんだ。


「シロウは、ああいうのが好み」とシェスティアは相変わらずマイペースで史郎の好みをチェックするのであった。



     ◇



 その夜。


「史郎、朗報です」とミトカ。まだアンドロイドボディのままだ。慣れるまで、そのボディでいることにしているのだ。

「朗報? なんだ?」と史郎は不思議そうに聞いた。

「このボディに、過去の情報が保存されていました」

「え? どれくらい昔の?」

「はい、マギセントラル事件の頃までの記録です。補助電子脳のデータベースに、より詳しい歴史の記録が残されていました。メモリの格納方法は単純でしたが、フォーマットと文字コードの解析に時間がかかりました。が、何とかできました。概念言語の未知言語解析モジュールが役に立ちました」とミトカ。


「……そんなモジュールあるんだ」と史郎は呆気にとられる。「それってスキルか?」と史郎はつぶやき、「いえ、史郎の概念言語モジュールの隠しAPIですね」とミトカ。


「……へー」と史郎は短く答えた。まだまだ知らない機能がたくさんだな、と史郎は思うのであった。


「おそらく、データはこの事件の直前までは定期的にアップデートされていたようですね」とミトカ。

「まじか? それは大発見じゃないか!」と史郎は思わず叫んだ。

「はい。ともかく、それによるとですね……」


 魔人族は、都市結界装置の改良を行っていた。都市結界装置とは、龍脈からのエネルギー変換と結界の展開装置の事で、各国に提供しており、これはうまくいっていた。


 新しい実験は、深淵の封印からの直接エネルギー供給を狙うものであり、さらにマナ魔力変換の効率化と、結界の強化が含まれていた。


 今あるマナ魔力変換の魔法陣による変換は効率が良くない。


 本来の、自我意識場・意識レベル4以上の変換効率を100とすると、魔法陣の変換は30だ。


 そこで、考えられたのが、もう一つのルート、瘴気経由の変換だ。魔獣の存在の根幹を成すもので、マナから瘴気、瘴気から魔石への魔力蓄積。2段階を踏むが、トータルの変換効率は、60だ。


 だが、魔獣を人工的に作り出すことができるわけではない。そこで、とられた手段が、瘴気化ウイルスと魔石化ウイルスによる魔石生成と、魔力の取り出しの研究だ。


 この新しい方法の根幹をなす手法と魔法陣、ウイルスがどこから得られたのかは記録されていない。


 マナ瘴気変換をウイルスレベルで行うと、効率が高い。さらに数が多いので、分散処理なのだ。


 実験室レベルではうまくいった。


 しかし、実証実験での装置で、暴走・マナの異常反応が起こり、瘴気のみが発生し、魔石化されず、最終的に大爆発を起こした。


 この記録は、当時実験に参加していたゴーレムが、持ち帰ったものだ。瘴気の影響を受けず丈夫だったので、生き延び、何とかゴーレムの集落まで戻ってきたのだ。


「……なるほど、本来、対になるべきウイルスが欠けている訳か。確かに、魔石化ウイルスが同時にあれば、効率的な魔石の生成ができそうだが……。ともかく、この問題のウイルスは、大事故以降拡散して、知らないうちに瘴気大発生を起こしていたということか」


「そのようですね。ウイルス自体は、始めは旧マギセントラル内に収まっていたのではないでしょうか? それで、アドラの話を覚えてますか?」とミトカが聞いた。


「アドラの話? あぁ、クレーター跡に大量にあるキノコか? ……あぁ、なるほど、アドラたちに感染して、彼らの移動とともに拡散していったということか?」


「おそらく。過去10年以内の異常は、それが原因かと。彼らが移動した、正確な年は聞いていないのでわからないですが、恐らく推測は正しいと思います」


「そうか。それ以前は自然に拡散してた分が原因か……。ただ、過去の周期的問題と、魔獣の異常魔術の問題は、手掛かりがないな」

 と、史郎はつぶやく。


「そうですね……」

 と、ミトカも思案するのであった。

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