130.神殿5・精神接続プロトコル
「ミトカ、神殿って一体何なんだ?」
史郎達が部屋でくつろいでいると、突然、史郎がミトカに質問した。
「……突然ですね。フィルミア様が決められた、巫女と通信する場所です」
「それは、どのような仕組みで?」
「礼拝所の床に、魔法陣があります。神界と巫女の神託を安全に行うための結界を兼ねた特別な通信補助魔法陣です」
「その魔法陣って、わかるか?」と史郎。
「ちょっと待ってください。……はい、ユラシルに聞きました。わかります」
「よし! じゃあ、この集落に神殿を作るぞ!」と史郎。
「……え? こ、ここにですか? それはまた、どうして?」とミトカが声に詰まる。
さすがのミトカもたまには驚くのだ。
「シロウ、神殿ってそんなに簡単にできるの?」とシェスティアは興味津々だ。
「先輩、何をたくらんでるんですか? 何か良くない顔をしてますよ」と琴音。
長年史郎を見ているのだ、史郎の表情を読むのは得意なのだ。
「……いや、別に変なことを考えているわけじゃないぞ。ちょっと神殿を通して、フィルミア様に話をしたいだけだから」
「先輩? 神様と話をしたいからって、神殿を作るというのは、変な考えじゃないんですか? というか、そんな簡単に神様を呼び出していいんですか?」と琴音。
「いや、重要な案件だから」と史郎は真剣な顔で言い、よし、どこかの場所をもらおうと、いそいそと部屋を出ていった。
◇
ギルバートに頼んで、空いている部屋を一つ譲ってもらった。ちなみに、ゴレム族の村は、なぜか洞窟内にあり、山を繰り抜いて作られている。
「よし、部屋全体を強化して、床にミスリルの板を生成し、エクリルで、魔法陣を書き込む、っと。そして、魔力を流しておいて、聖域として起動」と史郎はつぶやく。
すると、部屋の中央が光り輝き、半透明のフィルミアが現れた。
「……史郎さん、神が呼び出されたのは、この世界では初めてよ」とフィルミアは笑顔を浮かべて言った。心持ちジト目のような気がしなくもない表情だ。
「フィルミア様。すみません、緊急で話があります」
「緊急? わざわざ神殿まで作って、神を呼び出すほどの?」
「……いえ、言われてみれば、それほどの緊急ではないのですが。……精神とエンティティの接続プロトコルに関して、少し質問が」
「精神接続プロトコル? ああ、魂とエンティティ間のね。ええ、何かしら?」
史郎は、ミトカが行ったゴレム・ボディとの接続の一件を伝え、魂とエンティティの関係性に関して疑問に思ったことを話した。
「フィルミア様は、何度も魂の潜在的能力について言及しましたよね。それで、ふと疑問に思ったんです。この点は僕も完全に失念していた点ですが、魂のある場所、魂界ですか? と、この世界の時間の流れは一体どうなっているのかと」
「ふふふ。そうね、いい質問だわ。通常の世界の運用で、魂界と世界システムの時間の流れるスピードの比率は、10000対1よ」
「は? 10000対1ですか? えーっと、それは一体……。つまり、たとえるなら、魂の、というか精神のクロックスピードが高いと?」
「そうよ。つまり、本気で高速思考すれば、その世界における時間の流れの、1万倍の速度で思考できるということね」
「……なるほど。確かにフルに魂の機能は使ってませんね。思考速度からして」
史郎は余りにもの速度の違いに驚き、あきれた。
「そう。まあ、それは訓練次第で何とかなると思うけど。で、今回のミトカちゃんの問題は、ミトカちゃんが、実は魂のそのスピードを既にフル活用しているってことよ」
「え? ミトカが? そうなんですか?」
「ふふふ。史郎、私の能力の一端を認めますか? 女神様のお墨付きですよ」
「ああ、確かにミトカの処理能力は高いな。それは、クロック数が高いからなのか……」と史郎はつぶやくと、
「コア数の高さもです」とミトカが追加で言う。
「……それで、それが、今回の件とどういう関係が?」
「そのボディの制御用の頭脳部分は、シリコンベースで、全身はゴレム・ボディ。DNAベースの生体よりは遥かに速い接続に耐えるわ。でもね、ミトカちゃんのふだんの魔術による実体化よりかは、遥かに遅いわ」
すると、ミトカが、
「……なるほど。わかりました、フィルミア様。私のエンティティ接続時のパラメーターを変更する必要があるということですね? エンティティの反応速度係数の調整ですか?」
「そのとおりよ」とフィルミアは笑顔でミトカを見た。
「なるほど。この世界のシステムのエンジンが、俺の想像よりもはるかに速いというわけですね? さすが神様」
と、史郎は真剣な顔でつぶやいた。
この世界は、神が作った現実。史郎の想定以上に強力、つまり、並列動作や量子動作がとんでもないほど高い。単位当たりの処理量は想像以上なのだ。
そして、魔力実体化は、実はそれをフルに使っていたので、異常なほどの加速動作だった。
それに対して、このゴレム・ボディは、もっと遅い。生体よりかは遥かに速いが。
「ちなみに、ゴレム族がそのボディに接続できない理由も同じ理由よ。彼らの脳のスピードと、そのボディの設定スピードが一致しないためね。設計か実装のミスね」
「え? そうなのですか? じゃあ、それを修正すれば彼らにも使えると?」
「残念ながらだめね。彼らも、このボディも、そのクロック数は固定よ。ミトカちゃんくらいね、それを可変して接続して、しかも実用で使用できるのは」
それを聞いて、ミトカは少し自慢げな顔をして、史郎を見た。
「ああ、ミトカはすごいな」と史郎は、なぜか自然にミトカの頭を撫でた。
「具体的には、魂の処理速度とボディの制御の非同期化、身体制御コアの特別割り当てが必要ね。将来の代替ボディ制御の練習がてらに、ちょうどいいわよ?」
と、女神が意味深なほほ笑みを浮かべながらミトカに言った。
「それにしても、そのゴレム・ボディは良くできているわね。しかも、魔結晶内蔵で、史郎の魔力を消費せずに独立して実体化するための手段とも言えるわね」とフィルミアが言った。
「わかりました。あとで試してみます」とミトカは言うのであった。
「フィルミア様、ありがとうございます」と史郎。
「どういたしまして。じゃあ、また今度」
と、言い、フィルミアは消えていった。
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