129.ゴレム・ボディ
魔力電気変換装置の修理の褒章として、ギルバートは、シロウにある物を譲渡すると持ち掛けた。
「へー、何をいただけるのですか?」と史郎は不思議に思い聞く。
「あなたなら、きっと活用していただけると思うものです」とギルバート。
史郎と、ミトカ、シェスティア、琴音は、ある部屋に連れてこられた。
「これです」とギルバートが部屋の中央を指さした。
部屋の中央には、例の充電ポッドのようなものが設置されている。そして、その中に、女性が眠っている様に横たわっている。
ギルバートがポッドの制御盤のようなものを操作すると、ポッドの蓋が開いて、台がせりあがってきた。
「これは一体? この女性は眠っているのですか?」と史郎は困惑して聞いた。
「いえ、これはゴレム族のボディです」とギルバート。
「え? ボディ?」と史郎は驚く。
皆は、その横たわっている女性をよく見た。全身やや青白い肌。しかし、ギルバートたちと違って、皮膚の感じは人族に近い。大きさも人族のそれに近く、やや長身かという感じで、均整の取れた体。美しく整った顔。
「フィルミア様に似ている」とシェスティアがつぶやく。
「はい。フィルミア様の銅像をもとに形作られたものです。はるか昔、古代のわれわれの先祖が作ったものとされています。当時、人間界に溶け込もうと試みた際に、新しく作られたボディだと伝わっていますが、今は失われた技術。だれも動かせません」
そして、続ける。
「シロウ殿なら、もしかして、何とかできるのではないかと思ったのです。以前にも話しましたが、われわれは、この世界ができた時に召喚された、どこかにある星系のシリコンベース機械文明の末裔なのです。古代時代に、魔人国とドワーフ国の支援を受け、今まで存続してこれました。そして、このボディは、その当時の文明と各国の技術の粋を用いて作られたものです」
シロウには、ギルバートの表情が少し誇らしげに見えた。
「われわれの脳は簡単にボディ間を移植できるようになっているのです」とギルバート。
「このボディは、その特性を生かして、この世界により溶け込むための試みでした。この世界の魔術、DNAベースの生体、そして、元の機械科学の融合を成し遂げたものだと記録に残っています。ただ、最後まで完成しなかったのか、どうしてもわれわれの脳と接続できなかったのです。そして、今のわれわれには、もはや、どうすることもできない。なので、シロウ殿に託したいのです」
と、ギルバートが言った。
「ミトカ、何とかなりそうか? 話の内容から判断して、もしかしてミトカだとこのボディに接続できるんじゃないかと思うんだが?」
「そうですね……。ちょっと試してみましょう」とミトカは言い、そのボディのスキャンとエンティティ接続を試みた。
その瞬間、ミトカは消えた。そして、ボディが淡く光る。
だが、30秒ほどすると、その光は消え、ミトカが再び現れた。
「史郎、接続できませんでした。いえ、正確に言うと、エンティティ自体には接続は可能ですね。センサー系の一部は読み込みできました。しかし、全体の制御の接続に反応が見られません」
と、ミトカは言った。
「でも、一応一部でも接続はできるわけか?」
「はい、そうですね。ボディの機動スイッチと思われる機能は反応します。内蔵の魔石の魔力も、制御用補助脳と思われる部分も、そのバッテリーも問題ありません。しかし、接続シーケンスが最後まで終了しませんね」
と、ミトカは、静かに言うのであった。
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