125.龍の山脈
『龍の山脈』と呼ばれる場所は、魔の大樹海の北辺に連なり、標高3000メートル級の山々がそびえる、誰も近寄らない険しく厳しい環境だ。
龍族は、本来優しい種族であり、ほかの種族を見守っていた種族だった。古代、その巨体と莫大な魔力を生かして、地形や水資源の整備などの大規模土木工事を行い、ほかの種族を支えていたのだ。
しかし、魔の大暴走事故の後、地上の混乱から避難してこの山脈に来て以降、龍族はこの場所にある龍脈の近くに留まり、結果、ほかの種族との交流も最小限になり、村を築いて細々と生きてきた。
唯一の交流は、近くにある竜人族の王国に所属する街のみだ。
龍の村は、龍の山脈の東端に程近い所にある。
ここはアドラの故郷であり、久しぶりに帰る故郷にアドラは少し安心する。しかし、同時に、行方不明のイベリアの事が気になって落ち込むのであった。
アドラは元の大きさで飛び、魔導船を先導した。
龍の村まで近づいた時、突然一体の龍が目の前に現れた。
『そこの船と龍よ、そこで止まれ!』と、その龍は念話で話しかけてきた。
史郎は船を停止させる。
アドラは、その龍に向かって叫んだ。
『アメリア! 僕だよ。アドラだ!』
『ああ、アドラか? 久しぶりだな。いつの間にかいなくなったと思っていたんだが、やっと帰ってきたか?』
『ごめんなさい。でも、僕とイベリアは、どうしても外の世界を見てまわりたかったんだ……。そうだ、イベリアは帰ってきている?』とアドラは聞く。
『いや? 帰ってきていないぞ。一緒じゃなかったのか?』
『……そうか。まだ帰っていないのか……。アメリア、実はイベリアが行方不明なんだ。ずっと一緒だったんだけど、途中で別行動になって……』アドラはその時の事を思い出したのか、声が沈む。
『しかも、病気かもしれない。それで、こっちに帰ってきていないかと確認しに来たんだ』
『なんだと? そうか……。わかった』とアメリア。
『それで、アメリア、フィルミア神様の使徒であるシロウとその仲間たちを連れてきた。僕の命の恩人だよ。いっしょにイベリアを探してもらっているのさ。シロウ、アメリアはイベリアの姉だよ。僕にとっても姉のような人だ』
『史郎と言います。はじめまして』
『なんだと? フィルミア様の使徒? ああ、私はアメリアという。初めましてだな、よろしく頼む。え? 龍語を話せるのか?』とアメリアは驚いた。
『はい、まあなんとか。実は、ここまで来たのは、長老にお話を伺いたいと思ったからなのですが、可能でしょうか?』
『長老に会いたいと? ……わかった。長老に話をしてくる。そうだな、どこか適当な場所に降りて待っていてくれ。アドラ、その者たちを案内しておいてくれ』
そういうと、アメリアは村の方に飛んで行った。
◇
『神の子よ、お会いできて、光栄に存ずる』
と、長老のドラゴンが言った。
『こちらこそ、
すると、
『ちょっとお待ちくだされ』と長老は言うと、体全体が光り輝き、それが収まると、そこに一人の白髪の威厳ある老人が立っていた。
「このほうが、話し易かろう」
「これは!」史郎は驚く。
「ははは。これは人化のスキルじゃ。我が龍族は、神からいただいた人化のスキルが使える。もっとも、ある程度の年齢になってからだがの。アドラはまだかの?」
と言い、そして続ける。
「それで、今日は何の用向きかね」と長老。
「……はい、実は質問があります。サティアス神について何かご存じかと。もし差し支えなければ教えていただきたいと思いまして」と史郎は長老に聞いた。
「……ほう、サティアス神様の事か。この世界のこの時代に、我ら龍以外で知っている人間がいるとはな」と長老がいう。そして、続ける。
「サティアス神は、われわれ龍族が昔から
もっとも、そのことは広くは伝わっていないはずだ。代表としてフィルミア神様がすべてを率いていたのでな。リーダー格の神があまり多いと、それに影響されて種族間の争いが起こることを恐れたのだと伝わっておる」
「そうですか。サティアス神の事を知っている人間は、本来いないはずだと……。では、竜人族の間でも知られてはいないのですか?」
「……そうじゃの、ないはずだが? 彼らは我ら龍族とフィルミア様を崇めている。なので、ほかの神の存在は知らないはずじゃが?」
「そうですか。では、もう一つ質問なんですが、この世界では、定期的に魔獣の
「起こっている事実は知っとる。じゃが、なぜ起こっているかとなると分からん。ただ言えることは、魔の大暴走事故による影響が収束してから、暫くしてから、その事象が始まるようになった、ということじゃな」
「収束して暫くしてから?」
「ああ、そうじゃ。魔の大暴走事故後、約300年間は
――研究の結果が事故で拡散か。となると、一体どのような研究だったのか、だな? と、史郎は心の中でつぶやいた。
「魔人国、いや、もうないのか、その末裔か? 旧マギウェストの都市へ行くがよい。おそらく記録は残っているだろう」と最後に長老は史郎にアドバイスをくれた。
その後、セントリア連邦についての議論になったが、龍族としては、連邦には加入するものの、魔導船航路は限定的な物にすることになった。すべての龍が人化できるわけではなく、年寄りが多いので静かに暮らしたい。なので、後に大使を決めて、必要に応じて事前に連絡、魔導船の飛行・
◇
「シロウ殿、お願いがある」
と、アメリアが史郎に話しかけてきた。アメリアは人化の魔術が使えるので、美しい女性の姿になっている。
「ああ、アメリアさん、なんでしょうか?」
「私も連れて言ってはくれないか。妹、ああ、イベリアを探してくれているのだろう? 私もいっしょに探したいのだ。それに、アドラの指導と訓練もしたい。あいつは龍としては未熟でな、いろいろと教え伝えないといけない事がたくさんあるのだ」
「なるほど。もちろんいいですよ。船内で適当に空いてる部屋を使ってください」
「いいのか? 有り難い! ありがとう」
こうして、イベリアが旅に参加することになった。
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