124.エルフの国・世界樹

 エルフの国、アマティアス王国。


 魔術学園王国からは、東北の方向に位置し、広大な森の中にある国だ。現国王は、レイ・アマティアス。ソフィアの実の兄だ。


「久しぶりだな、兄様」とソフィア。

「ああ、ソフィア、変わらないな」と

 史郎が、ソフィアがエルフの王族だと知ったのは、エルフの国へ到着した時だ。



 エルフの国は、強固な結界で守られている。王都の結界と同じようなものだが、それ以上に強力で、人さえ通さないのだ。そして、一カ所だけあるゲートで国境審査があり、許可が下りないと通れない。


 シルフィードI号は、そのゲートの前で停止した。ゲートを守る国境警備隊たちは、見慣れない巨大な船が飛んできたことに驚き、警戒を強めた。


「おい! そこの船、責任者は出頭せよ!」と国境警備隊の兵が叫んだ。


 ソフィアは、史郎達を連れて、メインデッキから階段を下りて、警備隊の前まで行き、紋章のはいったナイフを見せた。


 そのとたん、その兵は驚き、ソフィアの顔を見て再び驚愕する。

「ソフィア様! 失礼しました。 お久しぶりでございます! お帰りなさいませ!」と警備兵たちは敬礼した。


「フィルミア様の使徒、シロウ殿と、ヘインズワース王国のミラーディア第三王女、そして聖女であるエミリア・フィルディアーナ様とともに、国王への謁見のために来た。連絡がいっているはずだが?」とソフィア。


「は! 伺っております。申し訳ありません、初めて見る巨大な船に、兵たちが警戒してしまって……」


「ああ、かまわない。手続きと通関を頼む」とソフィアは言った。




「……ソフィアさん、エルフの国の偉い人?」と史郎は聞いた。


「ソフィア師匠は、エルフの王族で、現国王の妹よ」とアリアが勝ち誇った顔で言う。


「え! そうなんですか!? ……で、アリアさん、なんでそんなにうれしそうなんです?」


「ふふふ。数少ない、シロウが驚く場面だからよ」とアリア。


「もっとも、おばあちゃんは、その立場が嫌で飛び出してきた」とシェスティア。


「ははは。まあ、堅苦しいのは無しに願いたいな」とソフィア。


 史郎達は船に戻り、ゲートを通過した。結界や通関のためのゲートは古代のアーティファクトであり、古代の龍が通過できるように、大きいゲートも用意されていて、急遽そちらを開いて通った。もっとも、そのゲートを使うのは何十年ぶりだったらしく、少し時間がかかったのだが。




 そして、謁見の話に戻る。


「それでだ、兄様。端的に言うと、エルフ国の発展と危機管理のために、セントリア連邦への加入、そして、魔導船航路の開港をお願いしたい」とソフィア。


「……ソフィアさん、また、簡潔で単刀直入ですね……」と史郎は言ったが、


「わかった」と国王レイは即答した。


「即答⁉」と史郎は驚く。


「レイ国王は、ソフィアおばあちゃんに甘い」とシェスティア。


 ――なんか、どこかの誰かの関係と似ているな……遺伝か? と、思う史郎であった。


「ははは。まま、甘いのは認めるがな。だが、エルフ王国としては、特に断る理由はない。国の位置的に交易しにくい場所だったのだが、魔導船で交流が増えれば、それに越したことはない。あと、できれば、その高速輸送が可能な魔導船で、森で採れる各種薬草の輸出の輸送を頼みたい。一部の薬草は収穫してからの有効期間が短いのだ」とレイが言った。


「わかりました。連邦の加入や交流の詳細は、ソフィアさん達で話を詰めてください」と史郎は返事した。


 そして、続ける。


「ところで、ドラゴンの目撃情報を探しているのですが、情報を集めてもらえれば助かります」と史郎は頼んだ。


「ドラゴン? そんな報告は聞いてないが……。いや、そうだな、冒険者ギルド、衛兵らに、情報を集めさせて届けよう」とレイは承諾するのであった。


 史郎達は、その後、スタンピードの経緯の報告をし、キノコの話をする。


「キノコか。その報告は聞いているぞ。近年エルフの森でも増えているらしい」とレイ。


「そうですか。とにかく、そのキノコには近づかないようにしてください」と史郎は言った。



     ◇



 次の日、史郎達は、世界樹を見学することになった。地球の生物学的に考えるとあり得ない大きさだ。しかし、ファンタジー世界的には有りな形態だ。



 だが、それを実際に目の前にした史郎と勇者組は、口を開けて茫然と見上げた。


「あー、なんだか、こう、本で読むのと実物を見るのはやっぱり違うな」と史郎。


「先輩、なんか夢見てるようですよね?」と琴音。


「たしかにすごい。初めて見た時は感動した」とシェスティア。


「スゲーな、この大きさ」と真琴。


「……言葉では表現しがたいですね」と正明。


「すごいです。私も初めて見るんですが、これほどとは」とエミリア。


「私も初めて。凄いわね、これ」とミラーディア。



 エルフの国は、ほかの国々から距離が離れている上に、街道がそれほど安全でないので、気軽に行ける場所ではないのだ。なので、世界樹を見たことがない人が大半だ。


「ははは。凄いだろ。我がエルフの民は、この世界樹の守護によって生きており、われわれは、この世界樹を守るために存在するのだ。世界樹は世界を支えているとされているからな」とレイは誇らしく言った。


 世界樹の大きさは、高さ約1000メートル、直径は100メートルかというもので、その巨大さは目を見張るものがある。日本にあるスカイツリーの倍の太さと高さだと思えばわかるだろう。しかも、単なる塔ではなく、枝が広がっているのだ。形状はくすのきに似ている。枝の広がりは半径500メートルはあると思われるほどだ。


 エルフの森にある、小高い岩の丘の上にある広場のような場所に世界樹はあるのだ。そして、丘からは、森の様子が一望できる。



「史郎、世界樹はこの世界の「ルート」ノードであり、世界樹に何かあると世界が崩壊します。世界樹の実体は、私と同じく魔術による実体化ですね。なので、見かけの大きさに対して、物理的影響は何もありません」とミトカが史郎に話した。


「ああ、そうなのか。まあ、そうでないと、この大きさは説明できないな。で、世界樹も精霊王なんだよな?」と史郎。


「はい。話してみますか?」とミトカが聞く。


「ああ、頼む」と史郎が返事した。



 その瞬間、みんなの前に、半透明の女性の姿が現れた。


「え! 世界樹の精霊様⁉」


 突然現れた精霊を見て、その神々しさと存在感に、世界樹の精霊とすぐに理解したレイは、ひざまずいた。


 世界樹の精霊王は本来姿がない。しかし、ミトカが精霊王として現れて以来、精霊王は自分たちも姿が欲しいと思い、ミトカを模したのだ。ただ、目と髪の色を変えて。


 世界樹の精霊王は、緑の目と髪を持っている。


「エルフの民の王である、レイよ。世界樹の守護、感謝します」と世界樹の精霊は言った。


「もったいないお言葉です」とレイは頭を下げるのであった。




 世界樹の精霊は、史郎を見つめた。そして、ふぅ、と息を吐いた。


 すると、世界の時間が止まる。いつもの様に、シロウ、ミトカ、シェスティア、琴音だけの時間が流れている。


「え? 世界樹の精霊様も、時間を止めることができるのですね?」と史郎。


「はい、特別な場合のみですが。それと、私の事はユラシルと呼んでください」とユラシル。


「世界樹の精霊様……名前があったというのは初めて聞く」とシェスティアがつぶやいた。


「ふふふ。ミトカさんに倣って、私も名前を付けることにしました」とユラシルは笑顔で答える。


「ユラシル、やっと会えましたね。いつも情報ありがとうございます。精霊王ネットワークの管理も御苦労さまです」とミトカがほほ笑んでユラシルに感謝の気持ちを伝えた。


「いいえ、どういたしました。ミトカさんにもいろいろと教えてもらっているのでお相子ね」とユラシルはほほ笑み返すのであった。


「さて、私が時間を止めた理由はただ一つ。シロウさんにメッセージを伝えたかったからです」


「私は、過去の巻き戻しが起こったことを知っています。世界のすべてを記録するのが私の役目。しかしながら、以前の未来について言及することは禁止されています。ただ、既に今の時間は、以前とは大幅にいい方向に変わりました。なので、もはや以前の情報は意味がないでしょう。すべては、史郎さん、あなたのおかげです。このまま、あなたの信じるところを貫いて、仲間とともに戦ってください。そして、ミトカさん、シェスティアさん、コトネさん、彼女たちの事を信じ、頼る事です。それだけです」


 と、ユラシルは言うと、ミトカとは違った、少し大人の雰囲気を持った、慈愛に満ちた笑顔で、四人の顔を見るのであった。


「では、私はこれで。皆さん頑張ってくださいね」


 そうユラシルは言うと、時間の流れを戻し、皆に、健闘を祈ると言って、消えるのであった。

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