123.大型魔導船

 今回の使節団のためと、大規模魔導船の建造用に、王国が所有する大型船を一隻譲り受けることになった。古くなって使われなくなっていた船で、廃棄処分を検討されていたものだ。地球でいうとクリッパー型帆船である。あのカティーサークによく似た船体で、三本マストだ。


「おー、これは! 夢のカティーサークとそっくりじゃないか!」

 と、史郎は最初に船を見た時に感動して叫んだ。


 子供のころに、見たはんせん模型が非常に美しいと思って以来、なぜかかれる船だ。


「先輩! 私、知ってますよこれ。先輩が夢中で木の模型で作ってたのとそっくりですね!」と琴音。


「ほー、よく覚えてるな。そうだよ、俺の夢の帆船だ」と史郎は答えた。


「でも、ぼろぼろ」とシェスティアは容赦なく指摘する。


「大丈夫だ。修理は任せとけ!」と、史郎は、やる気満々で、修理という名の魔改造を行っていった。



 史郎は、まず船体の修理を行った。廃棄寸前というだけあって、かなり老朽化しており、通常の修復ではもはやどうしようもない状態だったのだが、史郎の、魔術を交えての、金属の物質化などで、各所の船体を修復・強化し、新品の時よりも立派になるのであった。


 魔導船の構造としては、シルフィードI号と同じ構造だ。金属円盤やフレームを取り付け、翼と舵を魔導具版に変更した。起点オブジェクトとなる金属円盤は中央に設置され、船体が大きいので駆動用の翼は計六個取り付けた。


 内装は専門の業者に頼み、居住性を高めた。個室を増やし、食堂となる部分や談話室など、ホテルの様だ。


 最高速度:時速500キロメートル

 名称:大型魔導船シルフィードⅡ


「完成だな!」史郎は満足そうにほほ笑んだ。


「かっこいい船。しかも広い」とシェスティアは満足そうだ。


「先輩って、ほんと工作が好きですよね」と琴音。


「シロウ、船を動かす魔石や魔結晶の供給問題を解決する必要がありますね。今は手持ちでいいですが、世界で運行となると、安定供給の問題があります」とミトカ。


「ああ、確かに。そうだな……今度ソフィアさんと相談だな」

 史郎は、関連する仕事に、これから忙しくなるなと少し不安になるのであった。



     ◇



「さて、今回の旅の目的と日程をまとめよう」とソフィアが話を始めた。


「今回の旅の目的は、大きく五つある」


 1. 各国のセントリア連邦への加盟の勧誘

 2. 王国で発生したスタンピードとウイルス関係の説明と報告

 3. 魔獣王についての誤解解消。白竜の目撃情報の調査と要請

 4. 連邦に加盟した場合の利益としての、魔導船航路の受け入れの要請と、通信機連絡網の提案

 5. 史郎のマギウェストでの調査



「以上が大ざっぱな目的だが、ほかに何かあるか?」とソフィア。

 皆は、特にないと首を振った、が、


「いちばん重要な目的を忘れている」とシェスティアが言った。


「ん? いちばん重要な目的?」史郎が聞き返す。


「そう。観光と食事」シェスティア。


「……ああ、まあ、重要だな、確かに。観光も重要な活動だ。しっかり世界を見て回ろう」と史郎は言った。


「いいね! 異世界観光、王道だね」と真琴。


「……まあ、確かに」と正明が珍しく真琴に同意する。


「おいしいもの食べたいね」と美鈴が言うと、


「和食どっかにないかな?」と琴音がつぶやいた。


 高校生グループはそろそろ日本食が恋しくなる時期だ。


「ああ、コメの事か? 史郎が以前言っていた。獣人国に行くとあるぞ。というか、王都にも米料理を出す料理屋があったはずだが?」とソフィア。


「ここ学園都市にもあるわよ?」とアリアが言うと、


「え! あるんですか? ぜひ連れていってください!」と琴音と美鈴が叫んだ。


「え? ああ、じゃあ今度行こう」とアリアは言い、後日みんなで行くことになったのであった。



「……まあ、観光の事は分かった。……それで、日程だが、巡る国の順番は……」とソフィアが国名を挙げていく。


 ― エルフの国

 ― 龍の山脈

 ― 竜人国

 ― マギスティア王国ウェストマギ

 ― ドワーフの国

 ― 商業都市連合

 ― 獣人国


「まあ、基本的に近い所から順に、次の近い国に行くという感じだな。龍の山脈については、アドラから聞いた龍族と竜人族の関係の話から、その後の竜人国との交渉がうまくいくように、龍族のアドバイスをもらった方がいいとの判断からだ」


「では、五日後に出発するぞ」とソフィアは言い、皆はそれに向けて準備をするのであった。

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