120.ウィルス/幕間5
史郎達は、魔術学園都市最大のポアンカレ大図書館で、ウイルス開発の記録がないかを探すことにした。
「ウイルス開発といっても、そもそもウイルスという概念がこの世界にないんじゃ、探しようがないな」と史郎はつぶやく。
「非常に小さい生物という意味での微生物なら、知られています」とアイーダが言う。
「微生物か……。それらの開発って、そんなことは可能なのだろうか? そもそも地球での科学技術でさえ、人工の微生物やウイルスはまだ無かったような……。いや、遺伝子組み換えはあるから……。でも、魔術的にとなると……」と史郎はぶつぶつ言いだした。
「先輩! 何ぶつぶつ言ってんですか? とりあえずは、誰かに聞いた方がいいんじゃないですか?」と琴音が言う。
「そうだな。でも、こんな内容、そう簡単に聞けるような人物はいないんじゃ……」と史郎は思案し始めると、
「ああ、父に聞いてみましょう」とアイーダが提案した。
「父? ああ、エンリコ学園長?」と史郎は言いかけ、
「そういえば、もしかしてエンリコ学園長って……」と史郎は聞こうとするが、ためらった。
「はい? ああ、父は魔族です。大昔の魔の大暴走事故で、学園都市に取り残された魔族の末裔ですね。ちなみに私はハーフなんです」とアイーダが軽く言った。
「そうなんですね。じゃあ、エンリコ学園長は魔族の事や事故の事も、もしかして詳しいとか?」と史郎。
「そうですね。実を言うと、そのあたりのことについて父がどれだけ知っているのか私もよく知らないんです。まあ、聞いてみればわかります」とアイーダは答えた。
ということで、史郎達は、エンリコ学園長に話を聞くことになった。
◇
大人数では大ごとになるのではということで、史郎とミトカ、シェスティア、琴音、そしてアイーダだけで学園長室を訪れた。
「使徒殿、よく来ていただいた。で、話があるとか?」とエンリコが言った。
「はい。えーっと、シロウでお願いします。実は、ウイルス開発の記録、いえ、微生物とそれを使って魔法を使うとかいうような研究の記録を探しているんですが、何かご存じだったらと思いまして。図書館で調べようとしたのですが、どうも、どこから手を付ければいいのか分からなくて」
「ああ、なるほど。微生物の研究、そして、魔法ですか……」とエンリコは眉をひそめた。
「……何かご存じで?」と史郎は、エンリコの表情をみて、何かあるのではと思った。
「はい。これは使徒であるシロウ殿だからお教えしますが、内密にお願いします」とエンリコは真剣な顔で皆の顔を見た。
史郎たちは、皆うなずいた。
「じつは、過去の魔の大暴走事故が発生する以前に、魔人国ではウイルス研究が行われていたんです」
と、エンリコが言った。
「え⁉ ウイルスという言葉がこの世界にも存在するんですか?」と史郎は驚いた。
「はい。私も、ソトハイムのシェリナさんとアルティアさんの封印の件のレポートを見た時に、シロウ殿がおっしゃったウイルスという言葉を見て、過去の魔人国でのウイルスの研究の事実が流出したのかと思いましたよ」
「なるほど。でも、ウイルスという言葉に関しては、偶然にしてはできすぎですね。どんな研究だったかは?」
「いえ、私は詳しくは知りません。私が知っているのは、ウイルスとよばれる生物に魔術を付加するもの。そして、そのウイルスというのは、非常に小さい生物らしい、という内容ぐらいです」
「うーん、まさに俺が求めている情報ですね。どこかに記録が残っている可能性は?」
史郎は尋ねた。
すると、エンリコは真剣な顔で史郎に言う。
「マギスティア王国にあるマギウェスト研究所へ行くこと勧めます。あそこは魔の大暴走事故でも壊滅を免れた都市です。いまでも古い記録が残っています。私が紹介状を書きましょう。そして、アイーダを連れていくといい。彼女は魔人国へは何度か行ったことがあるので良いガイドになると思います。向こうには彼女の知り合いもいるので」
「そうね。私も久しぶりにマギウェストに行きたいわ。ぜひ案内させて!」とアイーダ。
こうして、史郎達は、魔人国へ行く予定を考えることになるのであった。
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