119.黒龍アドラ2

『とりあえずは、皆の所へ戻ろう。アドラ、俺たちは、仲間の所へ戻ろうと思うんだが、いっしょに来るか?』

 と、史郎は聞いた。


『……そうだね。できれば、イベリアを探すのを手伝ってほしいし、もし彼女が僕と同じ状態になってたら、その時は、治療をお願いしたいんだが、いいかな?』とアドラは聞いた。


『もちろん』と史郎。


『アドラ、小さくなれる? 昔、龍族は大きさを変えれる、もしくは人化ができると聞いたことがある』とシェスティアが尋ねた。


『ああ、小さくはなれるよ。でも、ごめん、僕はまだ人化の術は使えないんだ』とアドラは言い、体が光り輝くと、大きさが50センチほどになり、史郎達の方へ飛んできた。


「キャーかわいい!」と琴音がいきなりアドラを抱きしめた。


『……あの、ちょっと苦しいんだけど……』

『あ、ごめんなさい、アドラちゃん!』と琴音はいいつつ、いつまでもアドラを抱きしめるのであった。


 

     ◇



 史郎達は飛行魔術で、アリア達のいる場所へ戻ってきた。

「おーい、みんな無事か?」


「はぁ、あなたたち一体どこへ行ってたのよ! 帰ってこないから、心配したわよ!」とアリアが怒った。


「ああ、ごめんごめん。ドラゴンとの戦闘が結構大変だったんだ」と史郎。

「途中まで皆で見てたわ。地上に降りたあたりから見えなくなったんだけど、どうだったの」とアリアが聞く。


「ああ、何とかなったよ。で、ドラゴンのアドラだ」と史郎が言うと、アドラを抱きしめた琴音が前に出た。


「……え? ドラゴン? え? なんで小さいの?」とアリアは茫然とした。


「うぉー、スゲー、本物のドラゴンだよ! ……小さいけど。……史郎兄ちゃん達すげーな。生け捕りか?」と真琴が興奮して叫んだ。


「ばか、救護だといっているだろ! 史郎先輩、それじゃあ、無事に治療を?」

 と、正明が真琴の頭をはたきながら、史郎に聞いた。


「ああ、何とかなったよ。よく治療が必要だと分かったな、正明」


「え? ああ、いろんな状況の事を聞いていて、もしかしてドラゴンも状態異常かなんかじゃないかと思ってたんです。ほら、異世界ものの話によくある……」


「……なるほど。そういう発想もあるか」と史郎は感心した。



「で、皆は何とか……なったようだけど、全員怪我とかはないか?」と史郎が聞く。


「問題ないな。勇者パーティーもなかなかの奮闘ぶりだったぞ」とアルバート。


「ああ、美鈴と正明の魔術がかなりレベルアップしたな」とスティーブンが二人を褒めた。


「え、俺は?」と真琴。


「お前は、飛び出さないことを覚えろ。何度危ない目をすれば気が済むんだ!」と珍しくアルバートが怒った。

「……すみません」と真琴は殊勝に謝った。


「ははは。そうか。まあ、全員無事で何よりだな。とにかく今回の件はこれで終了だ。学園都市まで戻ろう」


 そうして、史郎達は、ケンブリアまで戻るのであった。



     ◇



「史郎、分析の結果、ウイルスは2種類あることが分かりました。一つは、例のキノコから検出された物ですね。もう一つは、アドラから検出された物で、これはシェリナさんから検出されたものと同じです」とミトカ。


「なるほど。やっぱりそうか。そのウイルスの詳しいことは?」


「いえ、それはまだ解りません。ただ、状況と観察の結果をまとめると、キノコの方のウイルス、マッシュルーム・ウイルス、ウイルスMと呼びましょう、それは、例のキノコのみ感染するようですね。そして、キノコの増殖とともに増え、キノコの胞子拡散と同時に発動して、瘴気を発生するようです」


「なるほど。だから、キノコの分布と瘴気発生の分布が一致するんだな。……そして、そのキノコは龍脈に引き寄せられるように広がったというところか?」

「そうだと思います」とミトカも同意した。


「そして、もう一つの方は……」とミトカが言いかけると、

「ウイルスMのミューテーションだな? ウイルスHと呼ぼう。そして、生物にも感染可能。感染率は約10%、感染すると体内で瘴気を発生、魔力枯渇を引き起こすと」

 と、史郎が言った。

「はい。さすがです。私の推測もそのとおりです」


「じゃあ、時々狂暴になっている魔獣がいるのは……」とシェスティア。

「ああ、このウイルスHのせいだな。もっとも、それで、なぜ異常な魔術が使えるようになるかは不明だが」


「それに、魔力枯渇と精神異常の関係が不明。通常の魔力枯渇ではそうはならない」とシェスティア。


「そうだ、その点も疑問点だったな……。いや、精神異常の原因は、体内で発生する瘴気が関係しているな」と史郎。そして、

「それを考えると、シェリナさんの時は、アルティアさんがすぐに封印を発動して本当に良かったな。手遅れになったら、かなりまずかったぞ。俺達が封印を解いた時は、まだ瘴気除去はできなかったから、下手すると、封印を解いたとたん、シェリナさんの命が危なかったかもしれないな……迂闊に行動してはまずいな」と史郎は少し後悔した。


「後悔しても仕方がない。結果的にはうまくいった」とシェスティアが史郎に言った。


「まあ、そうだな……。今さら考えても仕方がない。前向きに行くぞ! だいぶ原因が分かってきた。何とか解決できそうな気がしてきたよ」


 史郎はそういうと、笑顔を見せ、皆を見回してうなずくのであった。

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