第六章 セントリア連邦構想/世界旅行編

121.ミラとエミリアの思い-連邦構想

 史郎達は、魔術学園での魔獣王騒動が一段落した後、王都に戻ってきた。その後、ソトハイムまで戻る予定になっている。


 帰りは、史郎の作った魔導船で飛んできたので、あっという間だった。最大巡航速度は時速200キロメートル。巡航高度500メートル。そして、魔導船は魔術によるバリアという便利なもので守られている。どれだけ速度を出そうが、帆船であろうが空気抵抗への考慮が必要ない。


 そして、魔術学園都市から王都まで直線距離で約600キロメートル。行きは馬車で2週間かかった距離が、帰りは、わずか4時間弱だった。


 なお、いきなり王都に空から近づくと大騒ぎになると思われたので、手前で川へ着水。川をさかのぼって、普通に王都の港に着けたのだった。


 王都で国王のフェリックスに報告。そののちソトハイムまでは川をさかのぼって行くことにした。

 魔導船は船としての機能も残してあるので、そのままの通常の船として航行できる。たまには船の旅行もいいかという皆の意見だった。




 ミラやエミリア、勇者たちもいっしょに来ている。


「あー、美しい景色だな。自然がまだたくさん残っているし、天気もいいし。風が気持ちいい」と正明がつぶやく。

「ふふふ。それは良かったです。こんなにのんびり船の旅は、私も久しぶりです」

 と、ミラ。

「ところで、マサアキ、あなたの世界では、空を飛ぶ乗り物が普通だと聞きました。そうなのですか?」とミラが正明に聞いた。


「ああ、飛行機と呼ばれている乗り物だな。この魔導船よりももっと速く飛ぶよ。もっとも、この魔導船の方がはるかに安全で快適だけど」と正明が答える。


「そうなんですね。この世界では、交通はすべて馬車。時間がかかる上に、荷物もそれほど運べません」とミラ。

「それに、乗り心地も決していいとは言えないわね」とエミリアが話に加わる。

「だな。馬車は勘弁してほしいよ。シロウ先輩のおかげで、あれでも少しはマシに改良されたんだろ? 改造なしだと悲惨だな」と真琴。



「そういえば、昔、エミリアと私で話し合ったことがあるのよ」とミラが遠い目をしながら話を始めた。

「もし、街と街の間の移動がもっと簡単だったら。せめて、主要な都市間での交通がより充実すれば、この世界はもっと発展するんじゃないかと」とミラ。


「そうね、それに、王国と神聖国、そして、学園都市との間はまだましよ。でも、商業国、獣人国、エルフの国……ほかにもっとたくさんの国があるわ。その間の交流がもっと簡単になれば、より発展すると思うの。古代では、種族間の交流と発展がなされたと記録にあるけど、今は大変なのよ」とエミリア。


「ふーん。そういえば、このあたりの国々の関係は良好なんだって?」と正明。


「そうよ。この世界は基本的に平和が続いているわね。もちろん小競り合いは、まあないとは言えないけど」


「なるほど、じゃあ、同盟とか、連合とか、そんな感じ?」


「そうね、明確にはなっていないけど、それに近いわね。私たち、王女と聖女として議論したことがあるんだけど、私たちの夢は、このセントリア地方の連邦の樹立よ」

 とミラは思い切ったという感じで、正明に打ち明けた。ミラとエミリアは、お互いを見てうなずく。


「大それた構想、いえ、夢だと分かっているわ。けれど、私たちの信仰するフィルミア様の意志、つまり平和的発展と多様性の追求のことを考えれば、もう少し世界がつながっていれば、よりうまくいくと思うの」とエミリア。


「なるほどね。確かに馬車だけじゃ、厳しいな。船はそれなりにしっかりしてるけど、川が通ってないと、だからか……」と正明が言った。そして、


「こんな魔導船がもっとあって、都市間を結べば可能かな? そうだな、魔導船航路の確立ってとこか? それこそ、史郎先輩に相談すればいいんじゃないか?」


 と、正明は提案したのであった。



     ◇



「魔導船航路? セントリア連邦? そりゃまた大きく出たな?」と史郎は少し驚いて、正明たちを見る。

「シロウ様、それは、わたくしミラーディアと、聖女エミリアの夢です。マサアキと話をしていたら、シロウ様に話をしてみればと勧められたので……」とミラが小さい声で話した。


「あー、なるほど。いいんじゃない? その話。魔導船航路か、かっこいいじゃん! 正明、ナイスアイデア!」と史郎は軽く言った。


「史郎先輩、えーっと、僕が言うのもなんですけど、本当にできるんですか? あの、ある程度は可能ではないかと考えただけなんですけど、そんなに軽く請け負っても……」と正明が申し訳なさそうに言う。


「ははは。心配しないで大丈夫だよ。何とかなるって」と史郎は妙に前向きだ。


 じつは、史郎がもともと魔導船などのスチームパンク風の船が好きなことは正明は知らない。史郎は、正明の話を聞いて、魔導船が空を飛び交う様子を想像し、非常に乗り気になったのだ。


「……史郎、程々にしてくださいね」とミトカ。

「先輩、危ない目をしてますよね、それ。正明君、あなた、ちょっと先輩の導火線に火をつけたんじゃ……?」と琴音。

「え⁉ そうなんですか?」と正明は不安そうに答えた。


 ちなみに、シェスティアは、楽しそうとつぶやいて、どこの街へまず行こうかとぶつぶつつぶやいていたのだった。


 そして、史郎は、

「じゃあ、魔導船をたくさん作らないといけないか! といってもそうそう簡単なものじゃないな。いや、それよりも、まず各国と調整して、その連邦というものに加入してもらわないといけないんだろ? まずはフェリックス国王に相談か? うん、まずはソフィアさんだな」

 史郎はうれしそうに、心を弾ませるように、笑顔で言うのであった。



     ◇



 史郎達は、ソフィアに話をしに行った。


「魔導船航路? セントリア連邦? そりゃまた大それた話を……ミラとエミリアだな?」

 史郎がソフィアに話をすると、すぐにソフィアは核心をついた。

 指摘された二人は驚く。


「ははは。お前たちが小さいころから見ているんだぞ、知らないわけがないだろ」とソフィアは、母親のような慈愛のこもった笑顔で、二人を見て言った。


「さすが、ソフィアさん。お見通しですか。で、俺としてはいいと思うんですよ。どうせ世界を回って観こ……調査しないといけないし。マギウェストに行く必要もあるし。イベリアの捜索もあるし……」


「いま、観光って言おうとしましたよね、先輩。観光なら、私も連れてってくださいね!」と琴音。

「もちろん私も行く」とシェスティア。


「いや、まあ、観光もいいと思うけど……。とにかく、まあ、そういうことなんで、フェリックス国王に話を持っていきたいんですけど、ソフィアさんどう思いますか?」と史郎が聞いた。


「ははは。私も行きたいな、それは。ああ、実はな、王国には連邦構想は既にある」

 と、ソフィアが言った。ミラとエミリアは、え! と、驚いた。


「驚くことではないだろ、ミラ。お主はやはりフェリックスの子供だな。彼と同じ考えをしているぞ。まあ、とにかく、国王フェリックスと学園長エンリコ、教皇ウィルフォードの三人の間で同じような話はずっとしているのだ。セントリア連邦構想だな。もともと結びつきの強い関係ではあるから、それを広げたいということだ。ああ、魔導船の話は無かったがな」とソフィアは言い、苦笑する。そして、続けた。


「なので、ちょうどいい機会だろう。国王達と話をするのはいいかもしれない。なにせ使徒シロウ殿の提案だ。乗らない訳がない」とソフィアは言い、行くなら私もその魔導船に乗せてくれというのであった。

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