117.魔獣王アドラ3

「シロウ!!」

 シェスティアが叫んだ。顔は悲痛に歪んでいる。

 そして、その瞬間、シェスティアの体からオーラのように赤い光があふれ出す。


「先輩!!」と、琴音も叫ぶ。


 シェスティアと琴音は史郎の元へ飛んでいく。


 クレーターから、史郎は這い出す。シロウの体は淡く白く光っていた。

「うっ、いてて。油断した。戦闘中に、余所見するもんじゃないな」

 と、史郎はふらふらになりながらも、なんとか立ち上がった。


「シロウ!」とシェスティアが史郎に抱き着く。体が淡く赤く光っている。


「先輩!」と琴音も史郎に抱き着いた。


「あぁ、すまない。ちょっとしくじった。でも大丈夫だ。神術と魔術の複合纏はかなり丈夫だからな。ところで、シェスティア、それは一体?」と史郎は聞いた。


 シェスティアは不思議な、まるでフィルミア神のような神々しい笑顔を浮かべて、黙って史郎を見つめた。


「史郎、それはシェスティアの持つスキル【魂のリンク】の発動です。今の精神的ショックで発動したようですね。……史郎、これから、シェスティアと琴音、そして、私の三人で、あるスキルを発動します。そのスキルの発動後、史郎は、ドラゴンを結界に閉じ込め、瘴気魔力変換を発動できるようにしてみてください。私たち三人が、三角形の底面、史郎は上の点、の正四面体です」

 ミトカが史郎達に近づいて、作戦を説明した。


「あ、あぁ、わかった。で、そのスキルって?」


「見ていれば解る」とシェスティアは言い、ミトカと琴音を見て、三人でうなずいた。


「じゃあ、配置についてください。先輩は、正四面体の上ですよ!」と琴音。


「わかったよ」と史郎は上空に飛んでいった。

 ミトカとシェスティアと琴音は、ドラゴンを囲む、三角形の頂点の位置に移動した。


 そして、シェスティアが、つぶやく。「【赤い糸】スキル発動」


 シェスティアがそう唱えた瞬間、体がさらに赤く輝く。そして、そこから、光の線が、琴音とミトカへ伸び、さらに琴音とミトカ間もつながり、赤く輝く三角形が形作られた。


 そして、三人から史郎へ、同じように光の線が延び、史郎に接続する。


「これは……?」史郎は驚いた。


 光の線が接続した瞬間、史郎に魔力が流入してくるのが感じられたのだ。それと同時に、三人の感情も流れてくる。


「……!」 史郎は、言葉を失った。そして、気持ちが高まるのを感じた。三人の強い思いが、史郎の心を打ったのだ。


「史郎、これは、名付けて、【運命の赤い糸】スキルです。シェスティアの固有スキルですね。彼女と魂のリンクが確立した私と琴音との共同スキルです。魔力増幅と思い人への魔力供給、そして、魔術処理能力を共有ができる特殊なスキルです」とミトカが解説した。


 シェスティアは目を瞑り、精神を集中している。


「史郎は、このスキルが発動しているうちに、ドラゴンを結界に閉じ込めて、瘴気を何とかしてください。瘴気が体内からなくなれば、精神状態が改善するかもしれません!」とミトカが言う。


「わかった!」


 史郎は、現在の自分たちの位置を利用して、同じ、正四面体の結界を発動した。


 ドラゴンは、怒り狂ったように、その内部で暴れる。

 しかし、結界はビクともしない。


 史郎は、急いで考える。


「瘴気を魔力に変換、いや、直接変換できないから……、魔石の元は瘴気を吸収して魔石を作るはずだな。じゃあ、魔石の元は……。ダンジョンマスターのスキルで作れるか……」


 史郎は、まず、結界内をダンジョンの一部にするように設定。そして、魔石の元をドラゴンの近くに作り出す。最後に、【瘴気結晶化】を発動し、ドラゴンの瘴気を魔石に吸収するように起動した。


 起動した瞬間、ドラゴンから黒い煙のようなものが湧き出し、それが「魔石の元」にどんどん吸い寄せられる。


「グギャー」とドラゴンが咆哮する。瘴気が体から噴き出す際に、神経を突き刺すような痛みが伴うのだ。


 痛みのためか、ドラゴンは、最初大暴れしていたが、しばらくすると、力なく結界の底辺に落ちた。


 史郎は、ドラゴンに対して、【鎮静】、【麻酔】、そして【ヒール】をかける。


 史郎達は、そのまま、結界を維持し、下降して、地面まで降りた。


『痛い、痛い! あーーーー!』とドラゴンが暴れながらも、念話が通じ始めた。正気に戻り始めたのだ。

『もう少しだ。我慢しろ! 瘴気の除去はうまくいっている! もうすぐましになるはずだ!』と史郎はドラゴンに念話して、励ました。


 史郎は、スキルの発動を続けた。


 二十分ほどすると、ドラゴンが落ち着き始めた。史郎は、ドラゴンに対して、再び【鎮静】と【ヒール】をかける。


『ああ……。ありがとう。痛みが少しマシになってきた……』


 しばらくすると、ドラゴンはようやく沈静化したのであった。

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