116.魔獣王アドラ2

 ヨークス大迷宮の北、歩いて2時間ほどの場所にある丘の上で、北の方の様子を窺う史郎たち。

「あれだな」と史郎はつぶやいた。

 遠くにつちぼこりが舞い上がって、魔獣たちの群れのかたまりがやってくるのが分かる。そして、そのやや後方の上空に、黒い巨大なドラゴンが飛んでいるのが見えた。



「うぉー、すげえな! ダンジョンとは何か違う迫力だな!」と真琴。口調はふざけているようだが、顔は真剣だ。


「油断するなよ! まずはせんめつ魔術で勢いを落とす! あとは任せた!」

 と、言い、史郎、ミトカ、シェスティア、琴音は上空へ飛び上がる。


 そして、おなじみのホーミング・ライトニング・ニードルを2回撃った。


 光の針が大量に魔獣に降り注いだ。


 そして、それは、ほぼ全体の魔獣の動きを鈍らせた。


 地上では、そのタイミングで、アリア、アルバート、勇者パーティー、スティーブンが魔獣を討伐していく。



 その間に、史郎達は、ドラゴンに近づいた。


 ちなみに、史郎とミトカは飛行魔術。琴音は翼ライオンのトワに跨がって、シェスティアはミトカとの魂接続による飛行魔術だ。シェスティアは、レベルが上がったことと、訓練の結果、ミトカとの魂接続の発動が不安定ながらもできるようになったのだ。



「史郎、あれを見てください。魔獣がドラゴンを攻撃しています」とミトカが言った。


「ああ、確かに。だが、ドラゴンは反撃していない……? というか、ドラゴンが魔獣の速度に追い付いていないような感じだな」と史郎は感じた。


「ドラゴンの様子が変ですね。目がおかしいです。さらに、体内の魔力の流れが無茶苦茶です。史郎、魔力視と瘴気視で見てみてください」


 史郎は、ミトカが言うように魔力視と瘴気視でドラゴンを見た。


「これは……瘴気か? 体中に瘴気が混じっているように見えるが、いったいなぜこんな状態になるんだ?」

 と、史郎は不思議に思った。そして、以前フィルミアに質問したことがあったが、返答をもらっていないことに気が付いた。



「史郎、龍族は魔力念話で会話ができるはずです。魔力を通して、話しかけてみてください」とミトカ。

「おう。分かった」


『そこのドラゴン、聞こえるか? 聞こえるなら返事してくれ』

 と、史郎は龍に向かって魔力の糸を伸ばし、話しかける。


『○×○××!』


「おー、なんか通じたけど、言葉が分からないんだが……」



 ――『【概念言語::古代龍言語】モジュール自動インストールします』


 とのアナウンスが聞こえ、史郎はドラゴンが話す言葉が理解できるようになった。


『助けてくれ!』


『え⁉ 助けてくれだって? どうしたんだ、一体?』


『わからない……体が……言うことを……聞かない……イライラするし……暴力的に……』


 史郎は、どうしようかと思案しつつ、ドラゴンに近づいた。


 すると、突然、ドラゴンは咆哮し、史郎に向かってブレスを吐いた。


「うぉっと、危ない!」と史郎体はブレスを避けて、後退する。


 ブレスを吐いたドラゴンは、少し高度を落とした。しかし、敵はどこだ、というふうに周りをキョロキョロと見まわす。


『だめだ……こんなこと……』


『落ち着け!』史郎は叫ぶが、どうすればいいのか途方に暮れる。


「史郎、近づくと、防衛本能で攻撃をしてくる可能性があります。ドラゴンを何とかして地上に着陸させ、瘴気・魔力変換の魔術をかける必要があるかと」とミトカが提案した。


「なるほど、じゃあ、いつもどおりに上からライトニング・ショックでおさえ込んでみるか。シェスティアは動きを鈍らせるつもりでアイス・フリージングを頼む」


 そう言うと、史郎はドラゴンの上空まで行き、ライトニング・ショックをドラゴンに向けて撃ちこむ。


「わかった」とシェスティアは返答し、ドラゴンの後ろからアイス・フリージングを撃ち込んだ。


 ドラゴンは、「ギャオー」と咆哮するも、ダメージを受けた様子はない。


 史郎は、ドラゴンの周りを飛びながら、あまり傷つけないように、ライトニング・ショックを撃ち込むも、効果があまりない。


 ドラゴンの魔術耐性は高い。中途半端な魔術では、ダメージを与えられない。ドラゴンは、先ほどよりも素早い動きで避けるように飛行し、尻尾で攻撃してきた。


 さらに、ドラゴンは全属性の魔法が使える。なので、近づくと、尻尾と口、強靭な爪のある手で、素早く斬撃ざんげきを出してくる。

 そして、攻撃魔術として、ファイア・ボールとウィンド・カッターを飛ばしてきた。


 史郎達は、何とかそれらの攻撃を避けつつ、ドラゴンとの会話を試みた。


 ドラゴンは、少しは理性が残っており、時折話そうとする様子が見えるが、すぐに狂った状態になり、明らかに理性と狂暴化の狭間で振り回されている様子が窺え、史郎はどうしたらいいかと悩んだ。


 そして、史郎が、地上の様子はどうなっているのかと一瞬見た瞬間、


「危ない!」とミトカが叫んだ。


 史郎は、はっとして、ドラゴンの方を見るものの、高速で近づいていたドラゴンは、尻尾を振り回した。

 それが史郎にぶつかり、史郎は地上へたたきつけられた。


 地面には、直径5メートル、深さ2メートルというようなクレーターができた。普通なら潰れてしまっているほどの衝撃だったのだ。

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