115.魔獣王アドラ1
アドラは、本来なら死んでもおかしくないほどに、体に不調をきたしていた。普通の戦闘などでの負傷では、龍はその驚異的な各種耐性と再生能力があるので、意味不明に体調不良になるというような事は起こらない。
しかし、今は、精神状態が不安定になり、狂暴化状態になる時間がますます増えていっているのであった。
しかし、その状態でさえも、アドラの龍としての強い精神力で、辛うじて本来の意志を保っていたのであった。
アドラは、史郎の存在に気づいた。尋常でない神力を感じられる。この人物なら助けてくれるかもしれない、と、かすかな希望が湧いた。
龍族は、神術に感応するのだ。
アドラは、力を振り絞り、ヨークス大迷宮のある方向に向かった。
◇
ケンブリアの北部に、例のキノコはほかの場所と同じように大量に発生していたが、そこへ大量のマナが集まり、かつ、雨が続いた日があったため、瘴気が大量に発生し、それが、魔獣の大量出現につながることになった。
ヨークス大迷宮に近づいたあたりで、アドラは大量の魔獣がいることに気が付いた。
龍族として、かつて地上界の守護者である龍の本能として、アドラはこれらの大量の魔獣を何とかしないといけないという、強迫観念に駆られた。
しかし、龍としては幼い類に入る年齢で、実際の経験も少ない。本来ならより年上の龍から戦闘や狩りの方法を教えてもらうはずなのだが、そういう機会も無かった。なので、アドラは、本能の赴くまま、魔獣たちに突っ込んでいったのであった。
魔獣たちは、龍が飛んでくるのを感じ、恐怖を感じた。魔獣は、あまりの格の違いを理解したのだ。パニックになった魔獣は、追われるように、ヨークス大迷宮の方面へ逃げ始めるのであった。
◇
ちょうどヨークス大迷宮の対処を終え、休んでいる史郎達に連絡がきた。
大迷宮のすぐ北部に、ドラゴン、それも魔獣王と思われるドラゴンが出現したとの知らせだ。しかも、大量の魔獣もいっしょにこちらへ向かっているらしい。ただスタンピードというほどの規模ではないらしいとの情報だ。
「アリア、ドラゴンってやっぱり強いのか?」
「……まあ、そうね。もし本気で攻めてきたら国が亡ぶわね。もっとも、ドラゴンは龍族。魔獣ではないわ。本来は知性的でおとなしいはずよ」とアリア。
「あぁ、やっぱりそうなのか? 女神様も言ってたよ、できれば助けてあげてほしいって。つまり、今回のドラゴン騒動は、何かの異常が原因みたいなんだよな」
「でも、どうして毎回スタンピードを伴って現れるんでしょうか。まるで、ドラゴンがスタンピードを起こしているように見えますが」とアイーダ。
それに対してスティーブンが答える。
「確かに。ただ、毎回魔獣を追いやって攻めてきているように報告はされているが、本当の所、それが正しいのか、そして、もしそうなら、その行動の原因は何か、がわからないのだ。結局毎回遠くからの目撃だけで、途中でいなくなるからな。それは既知の本来の龍族の行動パターンに合致しないのだ」
「ドラゴンって、空を飛ぶんですよね?」と美鈴。
「ああ、そうだ。なので、本気で来られると防御しかないんだが……」とスティーブンが答えた。
「シロウ、原因はどうであれ、どうやって対処する?」とシェスティアが聞く。
「そうだな……」と史郎は思案する。すると、
「シロウ兄ちゃん、俺が聖剣で真っ二つに……」と真琴が言いかけて、
「バカ野郎。話を聞いてないのかよ。今回のドラゴンは討伐対象でなくて救護対象なんだよ。それにお前は空を飛べないだろ」と正明がつっこむ。
「……まずは様子見だな。一体どういう状態なのかを見てみないと対処のしようがない。とにかく、魔獣の対応をみんなで頼む。今回は以前のスタンピード程の大量じゃないらしいから、皆で十分討伐できるはずだ。俺とミトカ、シェスティア、琴音はドラゴンの様子を見るつもりだ」と史郎は提案した。
そして、「一応、一つ案があるんだけど、ちょっと、ミトカ、シェスティア、琴音、話があるから」
と、史郎は三人を呼んで話をした。
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