114.ダンジョン・コア

 史郎は、転移室にある魔法陣を眺め、静かに考えた。


「先輩、先輩の例のダンジョンにもダンジョン・コアって、あったんですか?」と琴音が聞いてきた。


「いや、あれにはないな。俺が作ったのと同じだとしたら……」と史郎は言いかけたが、

「史郎、学園迷宮にもダンジョン・コアはあります」とミトカが言った。


「え? そうなの? 俺が作ったものにはそんなの、そもそもないけど」


「学園迷宮に関しては、史郎の作ったギャラリーをベースにダンジョン化したものですね。そもそも、ダンジョンは、ダンジョン・コアがまず存在し、それが迷宮の入り口と各フロアを作り出し、魔獣をポップさせるのです」とミトカが言った。


「あぁ、そうだな。ダンジョン・コアが先……」

 ここで、史郎はふと気づいた。


「待てよ、ダンジョン・コアが先というか、その存在がダンジョンを作るんだったら、ダンジョン・コアはダンジョン外にあるんだよな? じゃあ、探査で調べれば……」といい、史郎達は、いったんダンジョンを出ることにした。


「その前に、10階層との通路に結界を張っておこう」と史郎は言って、魔獣だけを通さない魔導具を設置した。



 ダンジョンから出ると、史郎は探査のスキルを発動して、ダンジョン・コアを探した。地下深く、半径400メートルほどに探査範囲を伸ばす。


「あったぞ! このダンジョン入り口の建物の直下、地下200メテルあたりだな」と史郎は言う。そして、

「ああ、なるほど。龍脈のすぐそばだな。直接龍脈に接続してエネルギーを得ているということか。あそこまで行くには……。十分な空間があるみたいだから、転移か?」


 史郎はそう考え、「じゃあ、ちょっと行ってく……」と言いかけたところで、シェスティアが、史郎の腕をつかんだ。


「私も行く」

「先輩、私も行きますよ」と琴音も反対側の腕をつかんだ。


「……いや、転移は……、まあいいか。とりあえず、ミトカは実体化解除で、二人は俺の腕を持っててくれ。ほかの皆は、ちょっと待っててくれ」


 そう言うと、史郎は転移を発動、三人はダンジョンコアのある場所の転移ルームのような場所に転移した。




 転移した先は、ダンジョン入り口の転移ルームと見た目は同じような部屋だった。

 その部屋から続いている隣の部屋へ移動する。そこには、部屋の中央に石の台座があり、その上に3Dの映像が浮かんでいる。ダンジョンのステータス表示の様だ。部屋の奥には巨大な水晶が置かれていた。


「この結晶は、王都の結界のマナ魔力変換の装置に似ているな」と史郎はつぶやいた。


「先輩、こっちの壁にあるのは、モニターですかね? なんだか宇宙船の中みたいですよね、ここ」と琴音が言った。


 モニターのようなものには、ダンジョン内の様子が映っているようだ。


 すると、突然、部屋にアナウンスのような声が聞こえた。


 ――『神力保持者確認しました。使徒の称号を確認しました。管理者モードを起動します』


 中央の台座に表示されていた3D表示がいったん消え、そして、女性の3D映像が浮かび上がり、史郎達に声をかけてきた。


「使徒様、はじめまして。当ダンジョンを管理している魔術精霊です」


 見た目がミトカそっくりだ。だが、目が赤い。


「……えっと、ああ、はじめまして。俺は史郎といいます」と史郎は答えた。

「史郎、彼女は準精霊王。ダンジョンの管理専門の精霊です」とミトカが解説する。


「ミトカ様、初めまして。はい、そのとおりです。わたくしは準精霊王、ダンジョン管理専用魔術精霊です」


「……なあ、ミトカ。何で彼女はお前そっくりなんだ?」と史郎。

「……さあ、私にはわかりかねます。フィルミア様に聞いてください」とミトカ。


「えーっと、君の名前は?」と史郎が聞いた。

「名前はありません」


「……そうか、それは不便だな。じゃあ、フランということで」と史郎はいきなり名前を提案した。


「……フラン。ふふふ、いい名前ですね。じゃあ、フランとお呼びください」


「ああ、じゃあフラン、いくつか質問があるんだが」


「何でしょうか?」


「ダンジョン何魔獣の数だが、何とか減らせないか?」


「現在周辺環境のマナの過剰な上昇を検知しています。ダンジョンの役割である、過剰なマナをおさえるための処置を止めることはできません」


「……なるほど、ダンジョンにはそんな役割があるのか」


「はい。ただ、今回は、想定以上のマナを検知しました。魔獣の数の異常もそのせいです。今回の場合のような例外時の処理のコードは存在しません」


「そうなのか? ……じゃあ、コードの変更は、もしくは追加は可能か?」


「ダンジョン・マスターなら可能です。現在当ダンジョンにはダンジョン・マスターは誰も登録されていません。使徒様、ダンジョン・マスターとして登録されますか?」


「ダンジョン・マスターになったら、どうなるんだ?」


「ダンジョン・マスターは、ダンジョンの設定変更が可能です。それ以外は特にありません。実際の運営は私が行います」


「なるほど、管理権限がもらえるというわけか? じゃあ、登録をお願いする」と史郎は軽く言った。


「はい、わかりました」とフランは言い、目を瞑り、何かを唱える様子をすると、



 ――『【ダンジョンマスター】レベルMAX を取得しました』

 ――『【ダンジョン・コア管理権限】レベルMAX を取得しました』

 ――『【第5番ダンジョンのダンジョンマスター】 に登録されました』


「お! ダンジョンマスターのスキルと権限が得られたぞ」と史郎は喜ぶ。

 そして、

「よし、フラン! さっそくだが、想定以上のマナ増加時は、新たにフロアを作成。そうだな、草原のフロアでいい。フロアへの一般アクセスは無し。そして、過剰なマナを使ってスライムを生成する、というコードを追加。すぐに実行。今現在溢れた魔獣は回収して、同じくスライムとしてその新しいフロアで再生成。できるか?」と史郎はフランに命令した。


「命令内容確認……。コード生成確認……。はい可能です。すぐに実行しますか?」とフランが聞いてきた。


「ああ、実行してくれ」と史郎は答えた。


 フランの横には、ダンジョンの様子が立体映像で表示されており、フロアがまるで積み重なっている様に簡略化して表示されている。そして、今まで赤い点で埋まっていた状態だったのが、どんどん消え、別に新たに作成されたフロアの方へ移動していった。


「通常数の魔獣を残して、すべての余剰魔獣は、スライムのフロアへ変換・転送されます。余剰マナは現在処理中で、スライムへの変換処理中です」とフランが報告した。


「よし! これで、迷宮のオーバーフローの問題は解決だな。しかも、新たなスライム生産工場化ができたぞ!」と史郎は満足そうに叫んだ。


「じゃあ、フラン。後はよろしく。何かあったら連絡するように」と史郎。

「わかりました。シロウ様かミトカ様に連絡致します」とフランは答えた。


 そして、史郎達はこの場を後にするのであった。

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