111.学園迷宮3

 その後、史郎達は順調に魔獣を倒していき、3層目が終わったあたりで、帰ることにした。


 洞窟、草原、森林のフロアを通過したのだが、それ以上の階層は環境が厳しくなる。最初の3層で繰り返し訓練することにしたのだ。



 史郎達は、転移室のあるエリアに到着した。


 通常、転送室は円形をしている。その周りには廊下があり、さらにその周りに空き部屋が配置されている。それらは、安全地帯として知られていて、魔獣が発生しないし、入ってもこられないのだ。それなりの広さと数があるので、長期間ダンジョンに潜るパーティーのキャンプ地にもなったりする。



 史郎達は、その空き部屋の一つで休憩していたのだが、


「……まてよ、もしかして、迷宮の転移システムを解析すれば、転移魔術の方法が分かるのでは?」

 と、史郎はふと思いついた。



 史郎は、神術を得た後、喜び勇んで転移魔術を使おうとしたのだが、使えなかったのだ。


 立体機動で使ったような座標の上書きは、実際のところ、本当の意味での転移距離は0.5メートル以内に限られていた。つまり、補完で高速で動くスキルは、実は0.5メートルの単位で高速で転移を繰り返して動いているだけなのだ。決して空間を一挙に飛び越えているわけではない。


 使えないと分かって以来、史郎は転移の方法を考察してきたのだが、手掛かりがなかったのだ。



 史郎は、転送ルームに行って、床の魔法陣を見る。


「この魔法陣は、ここから入り口の魔法陣までの転移だな。そして、安全装置としては、転送先の状態チェック、ほかの転移魔法陣との連携……」


 史郎はぶつぶつ言いながら、魔法陣を調べる。


「シロウ、この魔法陣が読めるの?」と、シェスティアが聞いた。


「ああ、まあな。魔法陣はきちんと構文があってな、順番に読むと理解できるんだ」


「へー、今度教えて?」


「ああ、いいぞ」


「先輩、私も知りたいです!」と琴音も興味を示す。


「ああ、そうだな。今度講義でもするか」と史郎は思案するのであった。




「ああ、ここだな。転送先の座標について、これは……ああ、そうか! APIで座標指定しないといけないんだな? そして、座標は相対座標なのか!」と史郎は叫んだ。


「史郎、空間移動系のAPIの直接呼び出しは、上級魔術精霊が必要です。で、よく考えると、史郎にインストールされているのは、初級魔術精霊のままですよね」

 と、ミトカが指摘した。


「……まじか? そういえばそうだったな。魔法は全部自力でのイメージ発動でしてたから、すっかり忘れてたよ……。じゃあ、精霊魔術にはAPIの直接呼び出し関係のエントリーポイントも兼ねてるのか? あれ、でも封印関係は使えたじゃん?」と史郎が聞いた。


「そうですね。おそらく、APIのグループ分けと使用許可の分類の整理ミスじゃないでしょうか。どうもインストール用の精霊の、級における機能の一貫性に欠けていますね」とミトカが分析した。


「そうか。まあ、それは女神様の仕事だな。今度機会があれば聞いてみよう。で、精霊のアップグレード? は、ミトカができるのか?」


「はい、史郎。ただ、今すぐは無理ですね。準備などを考えて、今夜にしましょう」

「解った」と史郎は答えた。



 史郎は、皆の所へ戻った。


「史郎兄ちゃん、転移の仕組みは分かった?」と真琴が聞いてくる。


「ああ、だいたいわかったが、今すぐには使えないよ」と史郎。



「なーんだ。テレポートって、ある意味夢の魔法じゃん。経験できるかと思ったけど、お預けか」と真琴。


「真琴って、テレレポートが好きなのか?」と正明。


「ん? いや、まあ。歩くのめんどくさいし」と真琴。


「……なんだその理由」と正明はあきれた。


「いや、日本と違って、この世界って、広いじゃん? で、車もないし、馬車は乗り心地悪いし、一挙に転移できたら便利だなと思ってな」と真琴が答えた。


「まあ、SF的に見てもロマンではあるな。でも、原理がまったく分からない……」と正明。


「ははは。原理は実は意外と簡単なんだけど、単にその魔術を使う許可と制限が厳しいというだけだな」と史郎。


「そうなんですね。原理って、やっぱり空間を曲げるとか空間に穴をあけるとかですか?」と正明が聞いた。


「ははは。覚えてるか? いま見えている三次元世界は幻だって。空間なんてものはないんだよ。だから、転移ってのは、単に、存在の位置座標の書き換えだな」


「え! そうなんですか?」

「まあ、簡単に言うとそういうこと」と史郎は笑って答えた。



「とりあえずは、今日はここまでということで、解散でいいか?」と史郎がみんなに聞いた。

「それでいいわね」とアリアが言った。


 こうして、史郎達は、この後ダンジョンから出て、この日の訓練を終えるのであった。

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