110.学園迷宮2-琴音の場合

「よし、こと、前方からケーブ・カウが二体来ている。しきがみを使っての戦闘を試してみよう」

 と、史郎は言った。


「はい、先輩。見ててください!」と琴音はうんうんとうなずいた。


 いっしょに来たメンバーたちも、琴音の式神による戦闘がどんなものなのかときょうしんしんだ。


「コトネ、いざとなったら制御を手伝うから言って」とシェスティア。

「私もいつでも手伝えます」とミトカ。


「ありがとう、二人とも。でも、大丈夫!」と琴音は力強く返答した。そして、少し前のほうまで歩いて行き、


「いくよ、ハムちゃん達!」

 と、琴音が言うと、前方の地面に魔法陣が輝き、ぞろぞろと3センチハムスターの群れが現れて、ケーブ・カウの方にちょろちょろといっせいに走っていった。


「……おい、琴音。何でハムスターの群れなんだよ!」

 と、史郎は思わずつっこんだ。


「え? 先輩、ハムスターってかわいいじゃないですか。それに、ハムちゃん達、強いんですよ?」

 と、琴音はなんで? というような顔をして、振り返って、頭を傾げ、史郎に真面目に答えた。


「……」

 史郎は言葉を失って、前方を見る。


 ハムスター達は、まずは、いっせいに横並びになり、ファイア・ウォールを発動した。合同での魔術の発動の様で、巨大な魔法陣が一つ輝き、炎の壁が出現する。


 ケーブ・カウ二体は、壁の前で突進を止めた。


 その瞬間、ファイア・ウォールは消え、ハムスター達は、ケーブ・カウ達を囲む。そして、皆がいっせいに後ろ足で立ち上がった。


 そして、「きゅ」という声を出すと、それぞれが魔法陣が発動させて、その体からは似合わない、自分たちの体より少し大きい直径6センチほどの氷の矢を生成し、それらがケーブ・カウ目掛けてものすごい勢いで飛んで行った。


 ケーブ・カウ達は、四方八方から撃たれたアイス・アローに耐えられないように、モーっと、雄叫びを上げた。


 そして、さらに「きゅきゅ」という声を出すと、別の魔法陣が発動される。


 ハムスター達から、いっせいにレーザー光線が発射され、ケーブ・カウ達を射抜いた。


 ハムスター達は、ケーブ・カウが倒れると、琴音の方に戻ってきて、琴音が「ハムちゃん達、お疲れ!」と言うと、「きゅ!」と一声だして、消えていくのであった。




「……さすが、シロウの幼馴染み。想像の斜め上の戦い方ね」

 と、アリアが冷静につっこんだ。


「……それはどういう意味でしょう、アリアさん」

 と、史郎はアリアの事をにらんだ。


「コトネ、すごい。あの数の式神を難なく制御している。潜在的能力を見るべき」

 と、シェスティアが同じく冷静につっこんだ。

「……なるほど。物は言いようね」とアリア。


「いえ、あの数を、ああいうふうに制御することは、通常あり得ません。128体の式神を、あたかも各個体が独自の意志を持って行動するように制御できるということは、彼女には、元AIである私のような精霊王並みの処理能力があるということです」とミトカ。


 そこへ、琴音が戻ってきた。


「先輩! 見てましたか? どうです? ハムちゃん達かわいいし強いでしょ?」

 と、無邪気に聞いた。


「……ああ、かわいいな。それに、強いことは認めよう」


 と、史郎は微妙な表情で答えるしかなかったが、


「へへへ。ありがとう、先輩!」と、琴音は初めての戦闘と勝利に、笑顔があふれ出すのであった。


 ちなみに、ケーブ・カウは地球の闘牛と同じ感じの魔獣だ。ランクCの4人組の冒険者パーティーで一体を相手にする必要があるほどの強さだ。なので、琴音の戦闘が、ある意味、すごいということは皆わかったが、その戦い方に誰も納得できないのであった。

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