101.勇者訓練
史郎達が戻ってくると、皆は、どうだったかと聞いてきた。
「ああ、分かったよ。琴音のスキルはちょっと特殊で、そうだな、俺の持ってるスキルに近い。なので、あとで別の機会に指導するよ」と史郎は言った。
琴音は少し顔が赤い。
「……へー」と美鈴と真琴はにやにやした反応を返した。
「……まあ、と、ともかく、とりあえず、みんなに魔力操作のやり方から教えよう」
史郎はごまかすように言うと、以前アリアやソフィア達に教えたように、魔力や気力の感知、操作の仕方を、半透明のボディ映像を使って説明するのであった。
なお、史郎の方法で、琴音も無事初級魔術は発動できたので、琴音は少し気分が改善したのであった。
「そういえば、エミリア、この世界には聖剣ってあるのか?」と真琴が聞いた。
「いえ。もしあなたが言う聖剣というのが、物語に伝わっているような不思議な力を持つ剣という意味であるのなら、存在しません。あの物語はあくまで作り話として認識されています」
と、エミリアは少し悲しそうに答えた。
「物語?」と史郎は、二人が話しているのを聞いて、エミリアに聞いた。
「はい、使徒様。この世界にはいろいろと勇者様の話はあるのですが、どれもおとぎ話の類として扱われています。これまで、神託にも、伝承にも、いっさい聖剣というものは出てきません」
「へー……。そうか、残念だな。勇者と言えば聖剣なのに」と史郎はつぶやいた。
「そうでしょ! 史郎兄ちゃんは分かってるよな。何とかなんないかな?」と真琴がつぶやく。
「まあ、じゃあ、作ればいいか?」と史郎は簡単に言った。
「シロウ、あのね、あなた聖剣ってそんなに簡単に作れるものなの? というか、聖剣って本当の所は、どんなのなのよ」と久しぶりにアリアがつっこんだ。
「いや、こう、何か豪華で、勇者が召喚して、光魔術をぶっ放すとか?」と真琴。
「なるほど……」と史郎は思案する。
「よし!」と史郎は言うと、いきなり結界球を出現させた。
「……あ、またやる気よ」とアリアがつぶやいた。
「私も聖剣ほしいな」とシェスティアは無邪気につぶやいていた。
史郎は、結界球でミスリルを作り出すと、魔剣を作った時と同じように、剣を作り出した。もちろんオリハルコンでコーティングだ。そして、記憶をもとに装飾を施す。適当に青い光の出るクリスタルなどを埋め込み、それなりにかっこよくなった。
「どうだ、こんな感じか?」
「ウォー、史郎兄ちゃんスゲーな⁉ いきなりそんなの作れるんだ!」と真琴は大喜びだ。
「ああ、それで、ちょっと待て。ふだんはこの腕輪の中に……」と史郎はぶつぶつつぶやく。
史郎は、腕輪を作り、魔法陣を埋め込む。使用者登録し、簡易インベントリ機能を付ける。簡単に記憶UIでの取り出して、素早く剣を取り出せるようにする。もちろんほかの者も収納できるので、収納の魔導具だ。
10分ほどで、史郎は、作業を止め、
「よしできたぞ。収納機能付き聖剣格納庫だな。真琴、ちょっとつけてみろ」
と史郎は言った。
「それって、魔導具ですか?」とアイーダが聞いてきた。魔法陣・魔導具の専門家として黙って見ていられなくなったのだ。
「え? ああ、そうだな。収納の魔導具だ。思った物を収納し、思っただけで取り出せるタイプだな」と史郎はサラッと説明した。
「え? 収納の? 思考だけで取り出せる?」とアイーダは驚愕した。
「史郎。そんな魔導具はこの世界に存在しません」とミトカは史郎に説明した。
「え? そうなの?」と、史郎はハッとして、ミトカを見る。
そして、
「……まあ、いいじゃないか。せっかくの勇者だ。伝説級の武器があってもいいだろ。エミリアさん、あなたも一応所有者登録するので、こっちへ来てください。真琴のサポート役としてお願いします」と史郎が言い、
「……はい」とエミリアは近づいてきて、魔力を流して登録する。
「よし、真琴、使ってみろ」と史郎は真琴に腕輪を渡した。
「やったー! サンキュー史郎兄ちゃん。 よし、我に力を与えたまえ、出でよ、聖剣エクスカリバー!」
と、真琴は右手を掲げ、適当に詠唱し、青く輝く聖剣が真琴の右手に現れた。剣は青く光り輝き、金色の光の粉を振り撒いている。
「おー」と周りにいた一同は、その派手な演出に驚いた。
「……先輩、あのバカに変な物渡さないでくださいよ」と琴音が史郎に小声で言う。
「ははは。まあ、これ位楽しくないと、な?」と史郎は琴音にほほ笑んだ。
琴音は、史郎の、その時折見せる、子供のような無邪気な瞳と笑顔に、思わずドキッとするのであった。
その後、史郎は、個別に、各自の特性に合わせて魔術の指導を行った。
エミリアは聖属性、治癒と結界が得意だ。シロウは、人体模型のような3D映像を表示し、体内の仕組みを説明した。
知らないより、知っている方が魔術の発動が正確になるからだ。
琴音は父親が医者、母親が看護婦ということもあり、この手の話には詳しく、フォローアップを頼んだ。
ミラーディアは調合、魔導具が得意なので、いくつかのレシピを教える。そして、魔道具用のエクリルの生成方法について話し、それを聞いたアイーダと正明が話に加わって盛り上がるのであった。後の魔導具作成グループの始まりだ。
正明は理系で、雑学知識が豊富なので、史郎は正明にミラーディアのフォローアップを頼んだ。
スティーブンも史郎の指導の下、気術を取得、アルバートともに、武術の訓練をするのであった。また、スティーブンは風魔法が得意で、史郎は、その属性を持つ美鈴の指導も頼むのであった。
ちなみに、真琴は直観と持ち前の身体感覚とノリで、なんでも簡単にそつなくこなすタイプだ。なので、どんどんと武術も魔術も覚えて、周りを驚かせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます