100.鑑定と琴音
史郎たちは、琴音たち勇者組の魔術の訓練をすることになった。アリア、アルバート、スティーブンも参加だ。そして、エミリアとミラーディアも、ぜひ参加したいということでいっしょに訓練を行うことになった。
史郎達が到着するまでに、琴音たちは基礎的な訓練と魔法の授業を受けていたので、初級の定型魔術までは使えるようになっていた。ただ、琴音は使えない。なぜだか誰も分からない。
「それで、君たちの職業とスキルはどうなんだ?」と史郎が聞いた。
「おれは勇者です! 全属性で、剣聖スキルを持ってます」と真琴。
「俺も全属性で、賢者です」と正明。
「私は風と光で、魔術師です」と美鈴。
「……琴音は?」と、黙り込んでいる琴音に、史郎は聞いた。
「私は……モデラー。これが、何かわからなくて。誰に聞いても分からないの」と悲しそうな顔をして、小さな声で答えた。
「ああ、なるほど。琴音以外の三人は、とりあえずわかりやすいな。琴音は……」史郎は首をかしげる。
単純にモデラーという言葉の意味するところならば、琴音の趣味を知っている史郎が想像するに、おそらく3Dモデリングの事であろうと史郎は考えた。しかし、それがスキル、もしくは、魔術の名前となると事情は違ってくる。
「そんなスキル名、聞いたことがない」とシェスティア。
「史郎、おそらく史郎のイデアスキルか、私みたいな特殊なスキルだと思われます。私の持つデータベースにも該当のスキル名はありません」とミトカ。
「そうか。こういう場合は、どうすればいいんだ?」と史郎は悩む。そして、
――鑑定は、人に対しては簡単には使えないし、そもそも、鑑定でスキルの内容が分かるのか? と、史郎は考える。
「史郎、スキルの鑑定は可能です。まず琴音の鑑定で情報を取り出し、さらにスキルに対して鑑定をすると、スキルの詳しい情報が分かるかもしれません」とミトカが言う。
「ほー、そんなことができるのか? いや、しかし、人物鑑定は……」と史郎はためらう。
史郎は、今まで人物に対して鑑定は使っていない。魔獣に対しては問題なくできるのだが、人物の鑑定には実はある制約がある。
まずは、その人物にある方法で触れないといけないという制約が一つ。その人物が鑑定する人物を信頼しないといけないという制約が一つ。鑑定者が邪悪な心を持たないという制約が一つ。
この世界では、簡単に人のステータスを見られない。これは、実は史郎が設計した時のステータス情報を簡単に悪用できないためのセキュリティの一環だったのだ。
ステータス値やスキルについて知りたければ、本人に聞けばよい。ただそれだけだと。
その時は、妙な信念に基づいた、妙なルールだったのだが、史郎は、まさかそれが現実世界になるとは思っていなかったので、すっかり忘れていたのだった。
ミトカとシェスティアは、お互いに目を見ると、うなずいた。
「史郎、琴音の鑑定をすることをお勧めします」とミトカが妙に熱心に進めた。
「シロウ、そうするべき」とシェスティアもほほ笑んで言った。
「え? そうなの、でもちょっと……」と史郎は戸惑った。
「琴音、こっち来て。シロウは待ってて」とミトカとシェスティアは、琴音をどこかに連れて行った。
しばらくすると、ミトカが戻ってきた。
「史郎、琴音が了承しました」と言い、こっちですと言って史郎を連れていく。
残った皆には、少しの間適当に訓練するようにと、史郎が言った。
広場に面したすぐ近くにある空き部屋へ入ると、琴音とシェスティアが待っていた。
シェスティアとミトカは、史郎に、うなずく。
史郎は、はぁ、と、あきらめた様子で、琴音に話しかけた。
「琴音。今から琴音のステータスを確認させてもらいたい。が、実は、この世界では、人物に対する鑑定は少し制限があってな……」と史郎は口ごもった。
「……史郎先輩、何があるんです? シェスティアちゃん達には大丈夫だから先輩に任せろと聞かされたんですけど」と琴音は少し不安そうな顔で聞いた。
「いや、実はな、人に対する鑑定は、いろいろ制限、いや、三つ制限があってな。一つは、琴音が俺の事を信用しないといけない。 そして、俺は鑑定相手を邪な心で見てはいけない、そして、最後に……」と言いよどむ。
「その二つはもっともな事ですよね、先輩。で、最後の一つは何なんですか?」と琴音が聞いた。
史郎は、覚悟を決めて言う。
「相手の頭に右手を載せて、相手の心臓の位置に肌に直接左手を当てて行わないといけないんだ」と史郎が説明する。
琴音は、史郎の言葉を聞いてしばらく、え? と、いう顔をした後、顔を真っ赤にする。
「いや、無理にとは言わないが、その、スキルの鑑定をするにはそれしか方法はなくてな。この世界じゃ、人物鑑定は医者みたいなものなんだ。でもさすがにそれはちょっとと思って」と史郎が言い訳した。
「コトネ、これは必要なこと。もし私ならためらいなくシロウに見てもらう」とシェスティアが言う。そして「あ、じゃあ、私が見本にみてもらおう」と言い出した。
すると、琴音は慌てて、
「シェスティアちゃん、いいから! 私大丈夫だから!」と叫び、意を決したように史郎を見て言う。
「邪な心はないんですよね、史郎先輩?」と琴音は聞いた。「先輩の事は信用してますけど……」と小さい声でつぶやいたのだが、それは史郎には伝わっていない。
「ないない! 少しもないから! 絶対ない!」と史郎は叫んだ。
「へー、少しもないんだ……」と琴音は小さい声で残念そうにつぶやいたが、やはり、それも史郎には聞こえない。
「ちなみに、心臓は中央にあります。胸は見せる必要はありません」とミトカが補足した。
じゃあ、と琴音は言い、上着を脱いで、ミトカとシェスティアに手伝ってもらい、胸の真ん中あたりだけ開けさせる。
史郎は、そっと、琴音の頭に右手を置き、左手を琴音の胸の真ん中に手を置いた。
琴音はびくっと体を動かすも、静かに目を閉じて、じっとしていた。
「ミトカ、今から鑑定を行う。サポートを頼むぞ」と史郎はいい、
「はい」とミトカは返事した。
「【鑑定】」と史郎はつぶやく。
==ステータス確認==
琴音・稲崎 人族 女性 17歳
レベル:50
職業:モデラー
生命力:100/5000
魔力:100/5000
気力:100/500
物理攻撃力:500
物理防御力:500
魔法攻撃力:500
魔法防御力:500
器用:900
敏捷性:900
運:100
状態:超健康
属性:無
称号:【イサナミアの加護】【フィルミアの加護】
プラグイン:【上級魔術精霊】【魂リンク】
ユニークスキル:【モデリング】レベルMAX
スキル:【魔術】レベル1、【魔力感知】レベル1、【魔力操作】レベル1、【概念言語】【魔力制御】レベル1
「おー、すごいな、レベル50でステータス値も……」と史郎は言いかけて、
「騎士団並みにありますね」とミトカ。
「なんか、俺の時を考えると不公平じゃない?」と史郎。
「史郎、結果的に史郎は人間離れしているので、比較する物ではありません」とミトカ。
「……あの、先輩。おしゃべりしてないで早く調べてください……」と琴音はジト目で史郎を見る。
「……あー、この【モデリング】だな。すごいなレベルマックスだぞ」と史郎はいい、
「史郎、それを鑑定するつもりで意識を集中してください」とミトカが指示した。
「なるほど。このスキルを調べるっと……」と史郎は意識を集中する。
――『【鑑定::スキル鑑定】レベル1 を取得しました』
「おー、スキルが取れたか。じゃあ、内容は……」と史郎は、モデリングを調べた。
==【モデラー】==
イメージをもとに、任意の形状の3Dモデルを作り、実体化し、必要に応じて召喚・送還できる。
魔術精霊をインストールし、式神として使用可能。式神の数の制限はレベルによる。最大数:1000
【イデア】スキルの【モデリング】と同等
使い方は、史郎に聞いてね!
==========
「……おい、最後のコメントは、説明か?」と史郎は思わずつっこんだ。そして、
「ああ、そうか。何か聞いたことのあるスキル名だと思ったら、イデアスキルのモデリングじゃん」と史郎は、長らく使っていなかったのですっかり忘れていた自分のスキルを思い出した。
「史郎、これは、ある意味イデアスキルのモデリングの独立上位互換版ですね。彼女のモデリングは、精霊のインストールまで備えています。そして、式神の数の最大数は1000となっています。これは、彼女がかなりの高い意識レベル、およびコア数を備えているということです」とミトカが解説した。
「なるほど。それにしても、この魂リンクってのは……」と史郎は言いかけたが、
「シロウ、それで目的は達した。それ以上、乙女の肌に触れるのは良くない」とシェスティが割り込み、無理やり手を離した。
「え? ああ、そうだな。琴音、ありがとう……。いや、ありがとうは変か? ……えっと、とりあえずスキルの事は分かったぞ」と史郎は自分の手を見つめた後、動揺しながら、琴音を見て言った。
「……先輩、本当に邪な気持ちないんですよね?」と琴音はジト目で史郎をにらみ、服装を整えるのであった。
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