99.再会

 勇者たちは、召喚されて以降、この世界の事や魔術の基礎を学ぶために学園に通っていた。

 彼らは、特別Sクラスという、この学校でも特別な才能があると認められたものだけが受講できるというクラスに編入され、魔法や武術の講義を受けていた。


 クラスの生徒数は約20名。天才的頭脳の持ち主から、王族レベルの貴族が集まっている。もっとも、貴族でもそれなりの頭脳がないと入れない。


 そして、このクラスには、通常と違い、担任が付く。授業だけでなく、生徒の学園生活のサポートもされる厚遇だ。




 今日は編入生と、特別講師が来るということで、生徒たちの期待は高まっていた。


 ミラーディアとエミリアが、まずは転入生の紹介のためにと、副担任のアイーダとともに教室に入った。アイーダは、勇者たちがいる間、このクラスの副担任として彼らのサポートをすることになっている。


 教室内ではどよめきが起こる。ヘインズワース王国の巫女姫と、フィルミアン神聖国から聖女がやってきたのだ。二人ともその容姿と地位で、この世界で知らない者はいないほどの有名人だ。


 続いて、史郎とミトカ、シェスティアが教室に入る。ちなみに、アリアとアルバートは、この都市では二人だけで冒険者活動することになっているので、ここにはいない。


 アイーダが、「この人たちは、特別講師の……」と言いかたところで、突然叫び声が聞こえた。


「史郎先輩⁉」と琴音が叫んだ。


「え? ……琴音⁉」と史郎が声のほうを向き、つぶやいた。


 琴音は立ち上がって、史郎の方に駆け寄ってきた。


 すると、シェスティアと、ミトカはお互いを見てうなずくと、すっと史郎の前に出る。


 そのことに気がついた琴音は、驚いて、その前で立ち止まった。


「誰?」とシェスティアが聞いた。無表情だ。


「……あなたこそ、誰?」と琴音が聞き返した。ほほ笑みを見せているが、目は笑っていない。


「私はシロウの大事な仲間。シェスティアという」とシェスティアが一応自己紹介した。


「……私は、史郎先輩の……」と言いかけて、琴音は言いよどむ。


 そして、シェスティアとミトカを見て、意を決したかのように言った


「後輩であり、……お、幼馴染みで、琴音っていうわ」


 なぜか少し顔が赤い。


 そして、琴音は史郎の方をしばらく見つめた。


「先輩、お久しぶりですね。 で、久しぶりに再開したと思ったら、異世界で美少女たちを侍らせて、いい御身分ですねー? しかもメイドさんが好きだったんだ? で、ロリコン?」


 琴音はミトカとシェスティアを見てから、再び、ジト目で史郎を見た。顔は明らかに怒っている。まったくそれを隠す様子はない。顔も少し赤い。


「え⁉ いやそんなんじゃないから!」


「ん、シロウはわたしの将来の人」


「史郎は私のご主人さまです」


 ふたりは史郎の両側に移動し、腕に抱き着く。



「おい、お前らな、ちょっと悪ふざけしないで! 琴音、そういうのじゃないから!」と史郎はあわてて叫ぶのであった。


「へー、でも、先輩、とってもうれしそうですよ!」と琴音は無表情で言った。


「もしかして、コトネはシロウの思い人?」


 と、シェスティアがいきなり史郎に聞いた。


「え⁉」と動揺する史郎。少し顔が赤くなる。


「……」同じく思わず顔を赤くする琴音。


「……」思案するような顔をして、考え事をするシェスティア。なるほど、とつぶやく。




「あのー、いちゃつくのはその辺にして、話を進めたいんですけど」とアイーダ。

 笑顔だが、目は笑っていない。


「はー、琴音、ちょっとこっち来なさい。あ、史郎先輩どうもです!」と美鈴が史郎にあいさつし、琴音を引っ張っていく。琴音の行動に驚いた三人は、史郎の所までやってきたのだ。


 ミトカとシェスティアは、琴音が離れて言ったので、自分たちも史郎から離れた。


「……史郎兄ちゃん、久しぶりです」と、今度は真琴が声をかけた。

「お、おう、久しぶりだな。まさか、勇者がお前達だとは…… こんな所で会うとは、人生何が起こるかわからないもんだな……」と史郎。


「えーっと、神川先輩ですよね? いつだったか、天文クラブで会ったことがある、桜山正明といいます」と正明があいさつする。


 二人とも今の琴音と史郎達のやり取りをみて、二人は目を合わせてうなずく。そして、スルーすることに決めたようだ。



「あのー、皆さんお知り合いなんですか?」とアイーダが不思議そうな顔をして聞く。


「え? まぁ、そうですね。彼らは俺と同じ世界から来たんです。そして、俺の後輩たちですね」と史郎。


 琴音と真琴姉弟は、史郎の実家の隣同士だ。なので、子供のころからの付き合いである。小さい頃は、二人とも史郎の事をお兄ちゃんと慕っていた時期があった。そして、琴音の家庭教師をしていたこともあり、さらに、中学、高校とも、琴音は史郎が入っていた天文クラブの後輩だった。


 どちらも幼馴染みで奥手という関係上、つかず離れずの微妙な距離を保っていたが、史郎が大学に入って以降忙しくしていたこともあって、しばらく会っていなかったのだ。


 正明は、真琴の親友なので、史郎は、真琴の家に遊びに来た時に何回かあったことがあり、また、彼も天文部の後輩として知っている。正明は実は史郎のベンチャー企業の事を知っており、ひそかに憧れの開発者だったりする。


 美鈴は琴音の親友なので、顔を合わしてあいさつしたことくらいはあるが、それほど知っているわけではない。




『史郎、彼女たちが召喚されたのには、史郎が何らかの原因としか考えられませんが……』

(そうだな。次に女神様と話をするときに問い詰めないとな。勇者召喚なんて聞いてないからな! しかも、マジで、なんで琴音たちなんだ?)

 と、史郎は途方に暮れるのであった。

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