94.フィルミアン神聖国・神殿3
魔術学園都市へ行くついでに、史郎達はフィルミアン神聖国に寄ることになった。
フィルミアン神聖国から、ヘインズワース王国に書簡が届いたのだ。
書簡の内容は、
― 勇者には聖女が付き添うという言い伝えがある。今回勇者が召喚されたため、今代の聖女である女性が会いに行くことになった。
― 聖女の年齢がちょうど学園に入れる年で、元々予定もしていたこともあり、学園に通うことも兼ねている。
― 聖女が使徒である史郎に会いたいと言っている。フィルミアン神聖国としてもぜひ使徒殿と会見したい。
― よって、史郎一行がフィルミアンに寄って、その後護衛も兼ねていっしょに学園都市へ行ってもらえないか。
つまるところ、会見と護衛の要請であった。
史郎達は、どうせ通り道だしということで、あっさりと了承したのだった。
フィルミアン神聖国は非常に小さい国で、周りを三つの国:エインズワース王国、魔術学園王国オックスドニア、そして、商業都市国家フェリオリンズ、に囲まれている。
国としては小さいのだが、神殿ネットワークの本部と大聖堂がある神殿の本拠地であり、フィルミア信仰の聖地であるため、その人気と影響度は非常に大きい。なので、ほかの国々と立場的には何の
さらには、この世界に三つあるという深淵の封印のある場所でもあり、つまりは、膨大なマナエネルギーの吹き出し口でもある。魔の大暴走事故以降、神殿ネットワークは、その封印を守り、維持、管理してきたのだ。つまりは、世界を守っているといっても過言ではなく、この世界の国々はその事実を理解し感謝しているのである。
フィルミアン神聖国の聖都ファーアイルに到着後、史郎達は大聖堂に向かった。
史郎は、地球での某宗教のような人たちがいることを想像していたが、ここにいるのは騎士団のような格好をした団体。歴史的に、魔の大暴走事故以来この場所を守るための国であり、守護者の国としての歴史があるからだ。もっとも、普通の街にある神殿に勤める者は、ローブを着た地球でもおなじみの格好だ。
今代の聖女は、エミリア・フィルディアーナという。代々、聖女は世界の名前を姓に持つ全巫女の頂点だ。
ほかの王家と同じく、古代から受け継がれている神人の子孫ということになっている。
そもそも、ある一定以上の神官は、すべて古代の地上に残った神人たちの末裔だ。
大聖堂に到着後、史郎達は、神官たちに連れられて、最奥の特別礼拝棟に連れていかれた。そこに聖女が住んでいるのだ。
その棟は、巫女たち専用の学校のようなものになっており、巫女として、将来の聖女候補として、必要な知識や作法を専門に学ぶ場となっている。
もっとも、別に巫女専用といっても、隔離されたりしているわけではない。比較的自由だ。単に、巫女専門の授業があり、巫女の職業を持つものしか入学できないというだけだ。
「使徒様、お待ちしておりました。お会いできて光栄です。エミリア・フィルディアーナと申します」と聖女がお祈りをするように両手を組み、跪いた。
「エミリア様、堅苦しいのはやめにしましょう。普通に話してください。それは神の願いでもあります」と、史郎はすかさず言った。
これまでの経験から、神殿関係の人間は、史郎にとって大げさな態度に出る傾向があることを学習したからだ。
「……わかりました」と聖女はほほ笑みを浮かべて、うなずく。
聖女だけあって美人だな、と史郎は思わずじっと見つめた。
すると、背後から寒気がして、史郎が振り向くと、ミトカとシェスティアがジト目の笑顔で史郎を見つめていたのであった。
ミラーディアはほほ笑みを浮かべるのみである。彼女はエミリアと旧知の仲なのでうれしそうだ。
◇
史郎達は、聖女とともに、教皇ウィルフォード・ブリッケンに会うことになった。
大聖堂に戻ると、教皇と多数の神官達が並んでいた。そのあまりの多さに史郎は聖堂に入ることを躊躇する。
「……なんか嫌な予感がするんだが」と史郎がつぶやく。
「諦めてください」とミトカ。
「史郎様、こちらへどうぞ」と聖女エミリアが史郎を促して、大聖堂の中心に連れて行った。
史郎が大聖堂の中央まで行くと、神官たちはいっせいに跪いた。
「使徒殿におかれましては、フィルミアンにお越しいただき、われわれ一同、心より感謝・歓迎いたします」と、立派な衣装を着た老人、教皇ウィルフォードが、声を高らかにあいさつした。
そして、史郎の目を見る。
「……あ、か、歓迎の儀、有り難い」と史郎はどもりながらかろうじて答えた。
史郎は、内心どうしようかと
史郎は、女神様ナイスタイミングと、内心ほっとするのであった。
「教皇ウィルフォード、そして、神官の皆様方、お勤めご苦労様です。この世界のために、日々
神官たちは、驚愕し、仲には感極まって涙する者もいる。女神をその目で見ること、つまり、女神降臨などという現象に出会えることは、普通は一生ないのだ。それこそ、数百年に一回あるかないか。文献でそういうことが起こったことがあると知っている程度。それが、今目の前で起こっているのだ。
「さて、この度、事情により、使徒であるシロウに、この世界に来てもらいました。彼は、この世界の理を知り、変えうる者。きっと、今のフィルディアーナの問題を解決してくれるでしょう。神殿ネットワークとしては、最大限、彼に協力することを願います」
と、フィルミアは言い、皆さん顔を上げてくださいと言って、顔を上げた神官たちの目を見て、ほほ笑みかけた。
女神と目を合わせた者は、その美しさに、男女の区別なく魅入られ、そして、女神様の神々しさに、魂を揺さぶられ、今後も神殿のために働こうと心に決めるのであった。
そして、フィルミアは史郎達を見て、ほほ笑む。すると、いつもの様に時間が止まった。
「……フィルミア様、あんまり仰々しいのは勘弁してほしいんですけど」と史郎は言った。
「ふふふ。史郎さん、神たるもの、神らしく振る舞わなければ、神の価値が損なわれてしまいます。それは、世界の崩壊につながるのですよ」
と、フィルミアが真剣な顔で答えた。
「……なるほど。確かにそれは一理ありますね」
と、史郎は、思いのほか深い返答に、思わず考え込んだ。
「さて、今回いちばん重要な勇者召喚についてですが、ごめんなさい、こちらの手違いよ」とフィルミアは史郎に言った。
「……手違い?」と史郎は聞き返した。
「ええ。手違い。本来こんなことは起こるはずのない、起こるべきでない事案よ。私の仲間である神が起こした重大なミスね」とフィルミアは申し訳なさそうな顔をしている。
「なるほど」
「詳細は次回に説明させて。今日はそれよりも重大な知らせがあるの」
と、フィルミアは真剣な顔で史郎達に語り掛ける。
史郎は、いつにない女神の真剣さに、少し不安になった。
「……なんですか?」
「実はね……」と女神が説明を始める。
― 勇者召喚に使用された魔法陣は、アルファ・バージョン、つまり非常に初期のテスト版だった。本来人間たちが使えるものではなかった。
― それを作った神が、稼働テストしている最中だった。それが手違いで魔術都市学園の人間に見つかり使われてしまった。なお、その魔法陣は今は無効化されている。
― 魔法陣が発動した際に、使用した者の魔力ではなく、組み込みのマナ魔力変換の術式が使われた。
― その召喚陣は、本来小動物用であり、今回のような四人もの人間を一度に召喚する用な物ではなかった。
― 結果、その分のマナ消費が莫大になり、魔術学園都市の中心から半径約100カロメテルのマナが消失した。
― こういう場合、マナが周りから充填されるのだが、範囲が大きすぎて、「マナ津波」と呼ばれる現象が起こりうる。マナがゆっくりと流れてくるのだが、範囲と量が大きすぎて、元の量よりもより多くなり、過剰マナが溢れる恐れがある。
「そうなると……過剰なマナは、どうなるんですか?」
「そう、そこが問題なの。学園都市には迷宮があるわ。過剰なマナはそこで消費される。というか、ダンジョンコアが、消費しようとするの。本来の安全装置ね。でも、今回の量だと、魔獣が大量生成されて溢れるわ」とフィルミアが言う。
「……なんか、似たようなことが最近……」
「そうね、王都での瘴気問題と同じような問題ね。ちなみに学園都市での瘴気量も増えているわね。それ以上のマナ量なので、マナ津波の影響の方が大きいわね」とフィルミア。
「……」史郎は何と言っていいのかわからなくなった。
「最後にもう一つ。龍、いえ、ドラゴンが学園都市に近づいているわ。龍は知性を持つ立派な種族、龍族よ。そのドラゴンは何らかの状態異常になっているみたいなの。何とかならないか、できれば、そのドラゴンを助けてあげて」
と、フィルミアは史郎に頼むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます