第五章 魔術学園王国/黒龍アドラ編
93.勇者召喚魔法陣
オックスドニア最高教授会。それは、事実上の魔術学園王国オックスドニアの中枢だ。そこで議決された事案は、この国の方針として機能する。
ちなみに、この国の国王は、国王とは呼ばれずに学園長と呼ばれている。
今回の議題として、最近起こったヘインズワース王国の王都ヘインズバーグでのスタンピード、そして魔術学園都市近辺での瘴気と魔獣の異常発生の問題が取り上げられた。
「それで、ヘインズワースのスタンピードは鎮静化したのじゃな?」と学園長のエンリコ・ラグランジュが聞いた。
「はい。使徒様以下、使徒様の所属する冒険者グループ、および、あの賢者ソフィアとその家族でほとんどを討伐したようです。もちろん、冒険者と騎士団も大規模投入され、被害は最小限におさえられたとの事です」と、外務担当の教授が言った。
「ここ、魔術学園都市の迷宮でも同じような異常が報告がされています。遅かれ早かれ王都と同じ状況になるのではと危惧しています」と迷宮学部の部長が報告した。
「魔術学園都市でも何か手を打つ必要があるな」とある教授がつぶやく。
「もし問題が発生した時に、使徒殿が間に合わなかったらどうするのだ? 報告を聞く限り、ヘインズバーグは使徒殿がいなかったら壊滅していたのではないか?」と別の教授も声を上げる。
「当面は、冒険者ギルドと学園の攻撃魔術研究学部で、どの程度の対応が可能か調査しようではないか。そして、一刻も早い使徒殿の学園都市への訪問を要請することにしよう」
と、学園長は言い会議を終えるのであった。
◇
魔術学園王国オックスドニアの首都ケンブリア、通称、魔術学園都市。単に学園都市ともいわれる。
その北部地区にある、ある古い図書館の建物。
非常に古くて通常は使われておらず、ふだんはほとんど人も近づかない場所だ。
その最奥にある部屋。
女神イサナミアは、この部屋で召喚の実験を行っていた。召喚とエンティティ変換のためのツールの実験だ。
「召喚起動」と女神がつぶやいた。
すると床に描かれた魔法陣が輝き、中央に何かが現れた。
「うん、うまくいったわ。地球の生物も問題なく召喚できそうね」
イサナミアは召喚したばかりの子猫を撫でながら満足そうにつぶやいた。
「えーっと、よし、じゃあ、ここをこう書き替えたら彼女も召喚できるんじゃないかしら。そうね、地球からの勇者召喚! ね。彼もきっと喜ぶわ! なんてね」
と、イサナミアは魔法陣の一部を書き替えながら、勇者召喚! 彼女召喚! と鼻歌を歌いながら作業をする。
そこへ、フィルミアから連絡が入った。
「イサナミア、今少し時間いいかしら。話があるんだけど」とフィルミアは念話で話しかけてきた。
「え! えっと、今ですか? ……いいですけど。先輩、何か用ですか?」とイサナミア。
「すぐに神界へ来てくれない?」
「わかりました」とイサナミアは答えて、うーん、今作業中だけれど、まあこのまま置いておいても大丈夫かな? どうせ誰も来ないし、とイサナミアはつぶやきながらも転移していった。
◇
ある教授が暗くて長い廊下を歩いていた。彼は、古代の魔法陣を研究していて、たまたま、とある建物の奥にある古い書庫を調べに来ていたのだ。
彼は、ふと声のようなものが聞こえるのを感じて立ち止まる。
「はて、この建物は誰も使っていないはずだが……?」と、声のする方向へ歩いていく。
「あれは?」
彼は、少しだけ開いているドアの隙間から中をのぞくと、目を見開いた。
絶世の美女と呼んでもいい神々しい女性が、何やら床一面の魔法陣を描いているのだ。
しばらくすると、女性は何やらつぶやき、魔力を流したように見えた。
その瞬間、魔法陣の真ん中に動物が現れたのを見た。
「あれは、召喚魔法陣?」と彼は驚く。
そして、女性が勇者召喚! と、言いながらほほ笑んでいるのを茫然と聞いた。
しばらくして、女性が消えたことに気づいた後、そっとその場を離れ、報告に走るのであった。
数日後、勇者を召喚し、異変・魔獣王の討伐を依頼してはどうかという議論が議題に上るのは必然であった。
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