95.勇者召喚1
この日、オックスドニア最高教授会では、先日、教授の一人が見つけた勇者召喚魔法陣の発動の是非を問う緊急会議が開かれた。
召喚陣が見つかった後、召喚術専門の教授たちがその魔法陣の解読を試みたが、未知の言語と記号で書かれており、理解できなかった。ただ、一部の記述は、既存の召喚陣と似ており、確かに何らかの召喚魔法陣であることは分かった。
「その彼の聞いたことは本当に信用できるのか?」と一部の教授たちは疑問を抱いた。
「彼は、この大学でも古くからの熱心な研究者で知られており、業績も十分ある。ふだんの素行も問題ない。意味のない嘘を言う人物ではないことは、彼を知る数十人に上る教授の証言で確認が取れている。なので、魔法陣自体の真偽の問題はないと思われる」と心理学部担当の教授が報告する。
一応の手続きとして、彼の人となりや行動について確認がなされた。安易に魔法陣を起動するのは危険だと、魔術を知る者は知っているからだ。
「魔獣王討伐のため神が遣わされた技術で、アーティファクトに相当する。ぜひ、勇者を召喚すべき」との声が大きくなった。
「学園を取り巻く緊急事態を鑑み、また、魔法陣は
と、教授会の賛成多数で決まるのであった。
神聖歴1332年1月、この世界で初めて勇者召喚の魔術が使われた。
◇
「あ! 姉ちゃん何してんの? 美鈴さんも、っちわ!」
「あれ、真琴? 美鈴と調べものよ。マフラーのパターンをちょっとね。あんたこそ何してるのよ。図書室に何か用なの?」
「真琴君久しぶり。なんか、大きくなった?」と美鈴。
「へへ。成長期でーす!」と真琴が笑う。
琴音はふわっとした黒髪を、後ろで緩く結んでおり、腰あたりまである。整った顔立ちで、優しい表情と明るい表情がミックスした美少女だ。少し影がある感じと、それでも時折見せる花が咲いたような笑顔のギャップが男子生徒に人気だ。
対して、美鈴は元気で活発なお姉さんという感じの、こちらも美少女である。髪はカールした茶髪で、肩より下あたりまで伸びている。
琴音と美鈴は、高校で知り合った。クラスで隣どうしの席になったことがあり、その時に意気投合して仲良くなった。二人とも編み物が大好きで、美鈴は美術系で絵を描くことが好き、琴音は3Dモデリングが好きと、趣味が似ているのだ。物静かでおとなしい琴音に対して、美鈴は明るいタイプ。性格が反対なのもかえってうまくいった。美鈴はお姉さん肌で、琴音のことが気に入ったのだ。
「こんにちは、琴音さん」と正明。
「こんにちは、正明くん。いつもうちの真琴がお世話になってます」と琴音。
「はい、いつもお世話してます」と正明。
「おい、何言ってんだ! いつ俺がお前にお世話してもらってんだよ」と真琴が叫んだ。
「いつも図書室でラノベとか読んでいて、今日もその用事で」と正明。真琴の叫びはスルーだ。
「へー、ラノベってそんなに面白いの?」
「ええ、異世界物とか楽しいですよ? 魔法とか、魔導具とか?」と正明。
四人が話をしていると、突然、床に魔法陣が輝いた。
「え⁉ もしかして、これって」と正明が驚いて叫ぶ。
「ああ、魔法陣だな。とうとう俺たちにも活躍の場が……」と真琴がにやにやしながらつぶやく。
「何バカなこと言ってんだよ。本で読むのと現実じゃ違うだろ!」と意外と冷静な正明がつっこんだ。
「なにこれ、体が動かない……」と琴音がつぶやいた。
「私も……」と美鈴。
四人は、頭の中にアナウンスのようなものが流れるのを聞きながら、気を失うのであった。
――『魂I/O接続遮断しました。DNAベースの肉体と認識。装備品確認。エンティティ化処理開始。地球・フィルディアーナ間の転移処理を始めます……』
◇
ここは、いつものフィルディアーナの白い管理室。フィルミアは、いつものように世界の定期チェックをしていた。
ピー、という音とともに、画面の一部に赤い警告メッセージが表示される。
「え、何⁉」
と、フィルミアは画面を確認する。
― マナの異常消費を確認しました。
― 未登録の大規模魔術の、地上界人による発動を確認しました。
― 魔法陣の製作者は女神イサナミア。完全発動前の介入が必要です。
「何なの、これ? 製作者イサナミア?」とフィルミアは混乱する。今までこんな現象は起こったことがない。
「とりあえず、イサナミアに聞かなきゃ」とフィルミアはイサナミアを緊急で呼び出すのであった。
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