90.スタンピード2
史郎が上空からワイバーン5体に向かって
「くそ! さすがに5体だと、牽制だけでも大変だな!」と史郎は、空を縦横に飛び回りながら叫ぶ。できるだけ上空に上がり、ホーミング・ライトニング・スタンを撃ち続けた。
地上からは、ソフィアとシェリナが、ファイア・ブレットをワイバーン5体に順番に撃っていった。 彼女たちの魔術は、史郎のアドバイスともらった杖で威力がアップしていた。
そして、混乱したワイバーンが再び上昇しかけたところで、史郎が上空から強めのホーミング・ライトニング・ショックで攻撃、ワイバーンはとうとう墜落した。
「よし、アルバート、行くぞ!」とアルティアがアルバートに声をかけ、ワイバーンに突進する。二人とも、この世界では屈指の剣士だ。さらに史郎の魔剣を使うと、地上に落ちたワイバーンでは相手にならないほどになる。
アルティアとアルバートは、次々にワイバーンを魔剣で切りつけていった。
さらに、シェリナ、ソフィア、そして、ほかの冒険者たちも加わり、五体のワイバーンを
◇
ほぼ中小の魔獣が片付いた後、皆は最後の最大の難関、ギガント・タートルに立ち向かう。高さ10メートル、直径20メートルくらいはあるかという巨大な陸亀の魔獣だ。
「これは……ばかでかいな」と史郎はつぶやいた。一度だけ魔の大樹海で対峙したことがあるグレート・タートルのさらに巨大版だ、グレート・タートルが進化すると、この大きさになる。間近で見るとまるで巨大建築の様だ。
あの時グレート・タートルには手も足も出なかったので、今回はそのリベンジだなと史郎は思った。
ギガント・タートルは、その巨大さと、それに伴う異常な硬さが最大の武器で、さらにこの大きさになってなお動きは素早い。簡単には討伐できない魔獣なのだ。
「土魔法に気をつけろ!」とソフィアが叫んだ。
ギガント・タートルは、土魔法を使う。周りに向かってストーン・バレットを放った。同時に、それは王都方面に向けて、何度も長距離版のストーン・バレットを撃ち放った。その度にミトカの障壁がそれを弾く。
障壁で弾く瞬間、それは光り輝き、粉々になる。
王都の住民はその様子を不安そうに眺めた。上空で金色に光り輝く白い羽を広げたミトカを見た住民は、天使様だと思い、そしてそれはフィルミア様が街を守っているのだと、より信仰を深めることになった。
「シェスティア! 氷結魔術で氷漬けにするんだ!」と史郎は叫ぶ。
「わかった! 精霊に願う、【アイス・フリーズ・ボックス】」とシェスティアは詠唱しようとした。
しかし、その瞬間、ギガント・タートルが、シェスティアに向けて、ストーンバレットを撃った。
「きゃぁ!」「危ない!」と史郎は叫ぶ。
史郎は、シェスティアの元まで瞬間移動し、障壁を展開した。石は障壁に当たって砕け散る。
「大丈夫か、シェスティア?」
「うん。大丈夫。ありがとう」
「よし、もう一度氷漬けだ!」
「うん。精霊に願う、【アイス・フリーズ・ボックス】」とシェスティアは再び詠唱した。
史郎からアドバイスをもらったシェスティアが作った新しい魔術だ。範囲を限定することで、より効率よく凍らせることができるのだ。
巨大な魔法陣が浮かび上がった。
そして、ギガント・タートルの周りに、立方体の光り輝く半透明の箱が出現する。それは、その内部を一瞬で氷漬けにした。
しかし、まだ完全に行動停止にするほどではない。なにせ、巨大すぎるのだ。
「よし、もう一回! 今度は俺が魔力の補助をする」と史郎は言い、横からシェスティアの肩に手を置く。
史郎とシェスティアはお互いを見て、うなずいた。二人は淡く光を帯びる。
そして、シェスティアは、ギガント・タートルを見据え、
「精霊に願う、【アイス・フリーズ・ボックス】」と三度目の詠唱をした。
巨大な魔法陣が再び光り輝く。
先ほどより強く光り輝く立方体の半透明の箱が再び出現する。
そして、内部を一瞬で氷漬けにした。先ほどよりさらに白く凍り付く。
ギガント・タートルは動きが鈍った。
「よし、今だ! 全員、あいつの足に向かって、ありったけの魔術を撃ち込め!」
その場にいる魔術を使える者たちが、いっせいに攻撃魔術を撃ち込んだ。
ギガント・タートルは、雄叫びを上げて暴れようとするが、しばらくすると動きがほとんど止まる。
「よし、みんな離れてくれ!」と史郎が叫んだ。
史郎は高度上空まで移動すると、「【ホーミング・メルテッド・ミスリル・パイルバンカー】」を発動した。
史郎がずっと考えていた対グレート・タートルの魔術だ。史郎は、ギガント版に合わせて威力を高めにした。
史郎の詠唱と同時に、巨大な魔法陣が輝く。そして、白銀色でわずかに淡く赤く輝く巨大な円柱が現れる。太さは4メートル、長さは30メートルはあるかという、白熱したミスリルの巨大杭だ。先端は鋭く尖っている。
それが、勢いよく、ギガント・タートルに向かって落下していった。
上空からの落下の勢いも付加された杭は、ものすごい勢いで加速し、回転しながら、ギガント・タートルの甲羅の真ん中あたりに接触した。
音と衝撃が来るかと、見ていた人たちは身構えたが、その槍は、音もたてず、すっと、甲羅を突き抜け、地面に刺さった。
ギガント・タートルは絶叫し、しばらくして、静かになったのだった。
皆が集まってきた。
「終わったわね」とアリアがつぶやいた。
「終わった」とシェスティアもほほ笑んだ。
「シェスティア、アルバート、あなたたち、本当に強くなったわね」とシェリアが二人をみて、笑顔で話しかけた。アルティアもほほ笑みながらうなずいた。
「シロウのおかげ」とシェスティアが返した。
「みんな無事で何よりだ」と史郎がみんなに言った。
「しかし、あの最後の魔術はすさまじいな。どれだけ魔力が必要やら……」とソフィアがあきれたようにつぶやいた。
「史郎!」と、ミトカが空から声をかけてきて、降り立つ。
「おぅ、ミトカ、ご苦労さん。ギガント・タートルの攻撃はきつかったんじゃないか?」と史郎は聞いた。
「いえ、しょせん、ただの石です。問題はありませんでした」とミトカは笑顔で言った。
「……そうか。とにかく、王都を守ってくれてありがとう」と史郎はミトカに最大限の笑顔を向け、ミトカは少し頬を赤くして、うなずくのであった。
その後撤収作業に入り、史郎は巨大なギガント・タートルをインベントリに入れて、最後の最後に再びみんなを驚かせた。
ほかの魔獣は、この場にそのままにして、ギルドの解体団がやってきて処理することになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます