91.魔導具・急転

 スタンピードでの戦いから3日後、史郎は忙しくしていた。


 その後の報告会で、結局のところ問題のドラゴンは、目撃はされたものの直接何かをしたわけでは無かったことが分かった。

 北部方面に偵察に行っていた冒険者グループと騎士団からの報告によると、ドラゴンは王都方面に飛翔してきたため魔獣たちを王都方面へ追いやることになったみたいだが、途中から別の方向に飛んで行った、と報告された。


 キノコの大発生は残っているが、瘴気はなくなった。魔獣の大発生に消費されたものと思われる。今後また増えると予想されるので、定期巡回による監視を続けることになった。



     ◇



 まずは王都の結界の修理だと、史郎は破壊された場所へ案内してもらった。


「これは、マナ中継器、または、何らかの変換器と考えられている装置なのですが、このように割れてしまって、使えないのです。そしてこれは、アーティファクト。つまり、私たちにはこれを再び作る技術はありません」

 と、王都神殿長のエリックが史郎に説明した。


 史郎達は割れた結晶を調べる。


「史郎、これは大型魔結晶ですね。見た感じ、結晶としては壊れてはいますが、付与されていたコードは残っているようです」とミトカが言う。


「おぅ、そうか。じゃあ、魔結晶さえ生成できれば復元できると?」


「……理論上はそうですね」とミトカ。


「シロウは、魔結晶、作れるの?」とシェスティアが聞いてきた。


「うーん、どうだろうか……。いや、待てよ? あのギガント・タートルは、魔結晶を持っているんじゃないか?」と史郎はつぶやいた。


 史郎はインベントリを調べ、ギガント・タートルを解体し魔結晶を取り出す。


「おー、あったぞ」と無造作に、直径1.5メートルはあるかという巨大魔結晶を出現させて、みんなが驚く。


「これは! 以前のより、かなり大きく見えますが……」とエリック。

「……シロウ、あなたね、魔結晶なんてそんなに簡単に扱うものじゃないのよ!」とアリアが言った。


「ははは。そうなのか? しかし、何も考えずにパイルバンカーを撃ち込んだから……、結晶を破壊してなくてよかったよ」と史郎はほっとした様子で言った。


 史郎は台座や壊れた結晶や部品などを調べる。

「で、これは装置の一部だな……。ああ、わかったぞ。これは蓄積機能付きマナ魔力変換装置だな」と史郎は言った。


「……それは、一体、どういうものでしょうか?」とエリックが聞いた。


「え? ああ、単純に、こっちのこの金属のパイプですね、これはマナ誘導回路です。それがこの装置の今部分に接続して、このクリスタルにつながります。そして、それに付加された魔術プログラムが実行されると、マナが魔力に変換されて、魔結晶に蓄積されます。魔結晶からは、こっちのエクリルのパイプで魔力が引き出されて、そして、このパイプは実際の結界の装置につながっているんだと思います。地面の下を通っているようですね。この都市の四カ所に結界装置が設置されているんですね?」と史郎が説明すると、


「なんと! そんなことが可能なのですか? 結界装置の場所は防衛上秘匿されています。でも、シロウ殿の言うとおり、四カ所あります」とエリックは話した。


「まあ、ということで、このクリスタルの殻の部分を作りましょう」と史郎は軽く言った。


 まずは、割れたクリスタルや魔結晶をインベントリに入れ、コードを解析する。

 そして、壊れたクリスタルを集めて錬成でクリスタル部分を再生し、新しい魔結晶の周りを包む。

 さらに、クリスタルにコピーしたコードを付加。これは、単なる魔法陣の書き込みだ。ただ、結晶の大きさなどが変わったので、史郎は、魔法陣のコードを修正した。


 さらに、新たな瘴気精霊をインストール付加し、元のパイプ類と接続する。


 地下からきているマナ誘導のエクリルのパイプを殻に接続し、魔結晶の下部、殻に穴をあけた状態で、エクリルのパイプを接続する。これは、実際の結界のアーティファクトにつながる。


 最後の結界のアーティファクトにつながる部分を接続したとたん、都市の結界が無事復活し、エリックは史郎にただただ感謝の言葉を述べるのであった。



     ◇



 史郎は、遠距離リアルタイム通信の必要性を感じていた。


 幸いにして、この世界には郵便はある。


 2種類あり、一つは、商業連合都市国家フェリオリンズが、その領土の南にあるグリフォンの土地で、グリフォンと契約し、グリフォン便なる郵便配達システムを構築しているのだ。


 もう一つは、北の竜人国が提供している飛竜便だ。飛竜を駆使しての郵便配達システムで、グリフォンより早い。しかし、数は少なく高価だ。主に国家レベルの間での緊急の連絡に使われている。


 それらの郵便は、空を行くのでそれなりに早い。ただ、早いといっても数日という単位だ。飛竜便の最速で数時間から1日だ。


 それに、数もそれほど多くないので、いつでも使えるというわけではない。一応主要都市間では定期便のようになっている。それでも、運べる量に限界があり、需要も多いので、待たされることも多い。


 史郎は、今回のスタンピード、そして、ソトハイムでのワイバーンの件を考え、状況が切迫していると考えた。瘴気の増加、魔獣の増加と異常、スタンピードと、事が起こるのが思ったよりも早い。


 そんな緊急事態に対応するには、迅速な連絡が必要だが、この世界は良くても地球でいうと19世紀レベルの文明だ。まだ、信頼できるリアルタイムの通信システムはない。



 そこで、史郎は、魔導具通信なる物ができないかと考えた。できれば映像も送りたい。


 最初は目の機構が必要なのかと考えた。


 しかし、そうではない。視覚系の魔術は、目があるわけではない。CGソフトのように「カメラ視点」があるだけだ。

 なので、カメラ視点を指定して、結果の映像をUI設定と同じく水晶版などに映し出せればいいのではないかと考えた。


 そして、通信ネットワークはどうするか。


 よくよく考えると、精霊の使役とはクライアントサーバー型の分散処理。つまり、精霊はお互いに話し合える。つまり、それは通信ネットワークということだ。しかも、電波ではないから距離に依存しない。


 ここまで来ると、あとは早い。史郎はミトカに頼んで、専用の精霊を作ってもらう。


 名付けて、通信魔術精霊だ。そして、通信魔術精霊ネットワークという、通信魔術精霊間専用でデータを取りできるようにする。ほかの精霊は干渉できない専用ネットワークだ。しかもどの通信魔術精霊同士でもやり取りできる。


 カメラ部分は、単純にカメラ視点だ。水晶版に通信精霊をインストールし、水晶版の前面とした面がカメラ視点とする。


 そして、水晶版には固有番号を割り振っておく。


 通信精霊は受け取った情報を、映像UI出力として水晶版に映像として表示するようにする。


 史郎は、水晶版にそのような機能をプログラムした。


 水晶版の右下には、タッチパネルよろしく、番号のキーが並ぶ。


 魔力を流し、相手の番号のキーをクリックし、通信キーをクリックすると、通信精霊同士でつながり、映像と音声のやり取りをするというシステムだ。


 史郎は数日徹夜する勢いで、通信の魔導具づくりに勤しむのであった。



     ◇



「ほう、その魔道具で、離れた場所で会話できると?」と国王フェリックスが聞く。

「はい、この水晶の板に相手の映像が表示されます。魔導具には番号が割り当てられていて、相手の番号をここでセットし、魔力を流すと……」


 王宮の執務室で、史郎が国王達に説明をしていると、ミトカとシェスティアが、びくっとして驚き、突然ガタンと椅子をならし席を立ち上がった。


「うぉっ、どうした二人とも?」と突然の二人の行動に史郎は驚いて聞いた。

 二人は真剣な表情をして、見つめあってうなずいた。

「史郎、三人目が見つかりました」とミトカ。

「三人目?」史郎は、何のことだ? と聞く。

「私たちの魂の仲間」とシェスティアは小さくつぶやいた。史郎には聞こえない。


「いえ、皆さま、失礼しました。史郎、あとでお話があります」とミトカは言い、シェスティアと目を合わせ、うなずいた後、座り直した。


 会議中の皆は、何事かと思ったが、使徒関連なのだろうと勝手に納得するのであった。



     ◇



 次の日、勇者召喚のニュースが王宮に届く。当然史郎にも報告が行った。


 ミラーディアが報告を持ってきた。


「魔術学園都市から飛竜便で緊急連絡がありました。勇者召喚の魔法陣が見つかり、それを使って、学園都市近郊で問題になっている魔獣王の対応をするために、勇者を召喚したと」


「勇者召喚? まじか⁉」

 史郎は驚愕する。そんな話はいっさいフィルミアから聞いていない。そもそも、そんなこと実行するという話は聞いていないし、できないはずではないのか? と。


「……で、魔獣王ってなんだ?」と史郎は聞いた。


「魔獣王というのは、魔獣の中で群を抜いて強い個体で、周りの魔獣を従えている物をいいます。伝説の魔獣ですね。昔の読み物によく出てきます。これまで実際に目撃されたというようなことは記録に残っていません」とミラーディア。


「……それって架空の魔獣じゃないのか? じゃあ、なんで今回の問題が魔獣王だってわかるんだ?」史郎は疑問に思った。


「……わかりません。書簡には詳細は書いていませんでした。なので、学園都市で直接聞く必要があるかと」とミラーディア。そして、続けた。

「それから、学園都市からは、使徒であるシロウ殿に協力要請が来ています。勇者達が使徒の事を話しており、会いたいといっていると」


「勇者? 何人もいるのか?」と史郎は聞いた。


「いえ、書簡には人数は書いていませんね。でも、『たち』というからには複数人でしょうね」とミラーディア。

「そして、史郎様、フィルミア様からも、神託がありました。勇者を助けてあげてほしいとのことです」

 と、ミラーディアがほほ笑んで言った。


 史郎は、何かとんでもないことが起こったのではないかと心配になり、急遽みんなで学園都市へ向かうことになったのであった。

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