88.邪神教と王都都市結界
王都がスタンピード対策で混乱して、いよいよ決戦かという日の朝方、まだ薄暗い中。
「こっちだ」男が声を出す。
黒装束の男たち5人のグループが、王都の地下、下水道通路を走っていく。
王都の中央に位置する場所には、神殿に隣接した変哲のない石造りの建物がある。誰もそれが何かは知らない。見かけは倉庫のようになっているので、都民は神殿の倉庫だと思っている。
その建物のすぐ横にある大きな石畳の一部が静かに動いた。
地下から、男たちが出て来る。
「こっちだ。向こうにある、あの建物だ」
男たちは、リーダーのような男に従って走っていく。向かった先は、その倉庫からT字のようにくっついている小さな小屋の先にある、円筒状の建物だ。
いくつかの大きな木が周りにあるため、それ自体が周りからあまりよく見えなくなっている。小さな鉄の扉があり鍵がかかっていた。
男は手早く針金を出すと、手早く解錠し扉を開けて中に入った。
中には螺旋階段が地下まで続いており、全員静かに下りていく。
降りた先に扉があり、それを開けると部屋がある。
その部屋には、中央に台座があり、直径1メートル程の結晶が淡く光っている。台座の下には、銀色に輝く金属のパイプが接続しており、地面に埋め込まれてどこかにつながっているように見える。
「これだ。この水晶を破壊すると、結界が消えるはずだ」
と、男は皆に説明した。
「破壊できるのか? しかも、破壊したらどうなるんだ? 爆発したりするんじゃないだろうな?」別の男が聞く。
「いや、破壊したら、この光、ああ、マナ流だな、その流れが止まるだけだ。そのパイプの先が結界用アーティファクトにつながっているんだ。アーティファクト自体はとてもじゃないが破壊できる代物じゃない。でも、このマナ中継器なら可能だ」と男が説明した。
「わかった。それで、全員で魔術を撃ち込むんだな?」別の男が聞いた。
「ああそうだ」とリーダーの男がうなずく。
「破壊後すぐに離脱するぞ。では始める!」
そういうと、男たちは、扉のある壁際に並び詠唱を唱えた。そして、
「我らが守り神、サティアス神様と龍神様のために!」
と叫ぶと、結晶に向かって魔法を撃ち放った。
ファイア・ボールが複数、結晶に直撃した。
そして、「パリン」という音とともに、結晶が砕け散った。
すると、一瞬後、部屋が光に包まれる。
その途端「うっ」と男たちは呻いた。
「何だ……? もしかして魔力枯渇?」とリーダーの男はつぶやいた。
そして、男たちは全員意識を失うのであった。
男たちが気を失った後、しばらく光は消えなかったのだが、10分もすると光は弱くなり、そののちしばらくして光は消えたのであった。
結晶が突然破壊されたことにより、マナ流があふれ出し、高濃度マナ流が部屋に充満した。さらに、この部屋自体にかけられていたマナ用の結界のため、高濃度圧縮され、瘴気化したのだ。
それに触れた男たちは魔力枯渇で意識を失ったのだが、だれもその可能性には気づかなかったのであった。
そのころ、王都の人たちは、結界が消えたことに気づいた。
まずは、門番と衛兵が気づいた。いつもの結界の感じがなくなったからである。その報告は、神殿、冒険者ギルド、魔術師ギルド、そして、王宮に伝わり、大混乱に陥る。何百年と続いた結界が消えたことなど、今まで無かったからだ。
建物の瘴気が外部へ漏れ出し、異常に気付いた神殿騎士が、神殿のマナ中継器に倒れる男たちを見つけ、取り押さえて牢屋に入れたのだが、彼らは黙秘を貫きなかなか捜査は進まなかった。
ただ、リーダーらしき男は、元王都の神殿に努める神官であるということだけは、神殿騎士団の中で顔を知っている者がいたので、すぐに分かったのであった。
そして、彼らが、はぐれの集落の出身であり、女神フィルミアとは違う、龍とサティアスという神を信仰しているということが分かった。敬虔な女神フィルミアを信仰している神官たちから、いつの間にか彼らの事は「邪神教の信者」と呼ばれることになり、その噂が広がることになった。
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